I am.


hidamari. 05


夏に依頼を二件受けた。───といっても、二件目は俺の独断で、ナルとリンさんについてきてもらったと言うのが正しいだろう。
そして東京に帰ってくると、いつの間にか安原さんがアルバイトとして採用されていた。
調査後行われる恒例の慰労会は歓迎会も兼ねていたので、その時顔を合わせて無事バイト仲間が増えたことに、やったーとはしゃぐとオジサンが「ふたりって」と場違いなからかいをしてくる。
「安原さんとデキてんのはそっちだろ」
「おいヤメロ」
「お二人してひどいです、僕を押し付け合うなんて……せめて取り合ってくださいよ」
よよよ、と嘘泣きをする横で綾子と真砂子が白けた目を向けてくる。
「やーね、の相手はナルでしょ」
「どうして???」
俺は綾子の聞き捨てならないセリフに顔をやった。俺の相手はマサハルだが?
どうやら吉見邸でナルが霊に憑かれてる間に、ナルが一番大事なんだとかなんとか、言ったのだった。そりゃ有能なボスなのでな。
あと俺は、おこぶ様をぶちのめしに洞窟へ行くぜと宣うナルを止めるために、どうしても行くってんならキスをすると問題発言もかましている。
恋人がいるのに由々しき発言……でも、人工呼吸を示唆するための言葉選びでして、本当にナルが行くつもりならリンさんと連携して、ふん縛ってでも阻止しようネってアイコンタクトまでしてたくらいだ。
「ま、真砂子、違うからね……!?」
ウワサになってるナルよりも、真砂子の目つきが一番胡乱だったため、弁解させてほしかった。
真砂子にはちらっと、俺に恋人がいるという話をしてある。そしてそれがナルだと思われるのが普通に嫌だったので。
なお、その弁解が逆に怪しさを伴ったみたいで、周囲が若干どよめいた。
「なんだよと真砂子、そうだったのかあ?赤飯炊かにゃ」
「そーじゃなくて……!」
「違いますわ。あたくし、もうとっくに振られてますもの」
「えー!?!?」
「なんで谷山さんが驚くんですか……」
俺はガタッとソファから立ち上がる。
安原さんにちょっと引く、みたいな顔をされてだいぶ傷ついた。

どうしてこんな気まずい空間になってしまったの……と俺は諸悪の根源であるぼーさんを見る。もしかして、俺が悪いのか……?
ぼーさんも少し慌てて、多分本来やりたかった話をしだした。それはナルの身辺調査の結果報告だ。
俺がいくらかナルの正体に辿り着くヒントみたいなのを消している部分があったが、見てればいくらかの違和感があるためぼーさんたちは見事渋谷サイキックリサーチのナルを、SPRのオリヴァー・デイヴィス博士だと言い当てた。
なお、本人は正体がバレることも俺からの発言によりわかっていたし、言わないだけで隠してないスタンスのせいか、とくに驚いてもいない。
なんだったら、特に返答の必要もない、とかいって所長室に戻っていった。ヒネクレもあそこまでくると、謎の生態としか言いようがないな。
「……ここでそらっとぼけるかふつー」
リンさんはナルのヒネクレっぷりをご存じのため、あの撤退は"文句なし"の意味であることを教えてくれた。図鑑に記載すべし。
真砂子と俺は知っていたってことで、ちょっとだけぼーさんには恨めしく思われたけれど、真砂子の場合はデイヴィス博士の有名な動画を実際に見ているということ、俺の場合はある種の予知であること、ジーンが俺にコンタクトをとってくることを理由に納得された。


「今回の調査でまた、の家族に遭遇すると思ってたんだけどさすがになかったかー」
「なんだそれ」
リンさんも席を外した後、デイヴィス博士の功績だの、ナルの個人情報だので盛り上がっていたのに、ふとした拍子にぼーさんが俺を見ていった。
結局お父さんと会って以来、家族の話をしていなかったので、いよいよかと身構える。
まあいつかは話そうと思っていたんだけど、タイミングがつかめなくてですね。
「言われてみれば」
「確かに、よくお会いしてますものね」
「もしかして、ボクたち全員とお会いしたんですやろか……」
「ありえますね」
綾子と真砂子も続き、ジョンがあることに気づいてしまった。
安原さんはニオーファミリースタンプラリーへの参加が遅かったので、全員と会ったわけじゃないけど話には聞いていたわけでニコニコと笑っている。
「いや、……仁王は、あともう一人いる」
なんだと……とみんなが目をみはって、なんか面白い雰囲気になった。
まあ面白い話は始まらないけど。
「───その人、中学の時から付き合ってんだ」
あ、とみんなの表情が変わる。
「本当のお父さんは小さい時病気で、お母さんは中学の時事故で亡くなった。だから俺には身内がいなくて、恋人の家族がずっと親身になってくれてたってわけ」
中学の時は先生の家に下宿して、向こうの家庭の事情で大阪にいたけどな、と付け足す。
皆ようやく情報がつながった、という顔をした。
「親戚とかいないのか」
「両親ともに一人っ子で祖父母も亡くなってたから頼れる人はいなかったな」
「そうか───オジサンの胸でお泣き」
「結構です」
抱き着いてこようとするぼーさんを、さっと手で制した。
が冷たい……」
ぼーさんがしくしく、と泣きまねするのを、安原さんとジョンが苦笑いで慰める。
綾子と真砂子はぼーさんに同情する気はないようだ。


バイトの時間が終わりに近かったので、皆がそろそろ帰ると言い出す時にナルが俺まで一緒に追い出した。別にいいけどさ。
ドアのところからぞろぞろと出て、皆がナルに絡んであしらわれているのを外で待つ。
エスカレーター先に乗ろうかな、なんて思いながら何気なく目をやったスマホにきてたメッセージを見た。
「お、家の近く夏祭りやってんだー」
「え?」
近くにいたジョンが俺のつぶやきに反応した。
何気なく口に出してしまったのは、夏休みだからと家に泊まりに来ている雅治先輩からのお知らせである。
帰ってくるころに待ち合わせして一緒に行こうってことだと思う。
「いや、かき氷食べたいなーと思って」
「涼しげで、ようおますね」
「かき氷のシロップって全部同じ味らしいですよ」
「え、そうなんだ?全然気づかなかった」
ジョンに加えて安原さんと軽く盛り上がっていると、皆の目線も次第にこちらに向き始めた。
ようやくSPRのドアがぱたりと閉まり、それを見届けたので俺は一足先に、エスカレーターに乗った。
皆も少し間をおいてから下りてきて、祭りねえ、とそれぞれ思うことがありそうな顔をした。
霊能者にとって夏の祭りというのはまあ、純粋に楽しそうとは言えないのかもしれないな。
でも俺にとっては特にそんなこともないし、一緒に行く人はいるわけで。
「かき氷の食べくらべ、しーよお」
鼻歌交じりに、これから帰るよとメッセージを送る。
俺のこんな上機嫌な様子はきっと、皆もお見通しだろう。



end.




テーマは、GHと彼ぴと彼ぴのファミリースタンプラリーでしたのでここで終わります。
え、彼ぴに会ってない???いつから仁王雅治がGHメンバーに会ってないと錯覚していた?
※会っていません
仁王のおかげで割とメンタル強め。でも仁王の前ではょゎょゎなので、大体慰めてもらって(絶対にイチャイチャする)またメンタル強くなっていく。
基本的にIamは英語タイトルにしているんですが、木漏れ日と陽だまりはあえて日本語のまま、でもローマ字でほわっとさせようかなと思いました。日陰にいるんだけど太陽の光も差し込んでくるような穏やかな空間が二人の居場所であることとか、主人公の本心や素顔をよく知る仁王がすべてを愛してる感じとか、そういうのが込められていたらいいなって思っています。全体のテーマは陰ひなた。light and shade.です。
陽だまりは二人がもっと表向きに一緒にいることを表しています。とはいえ公表してるわけでもないんですが。でもGHメンバーにはそのうち会う。
Aug.2022

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