I am.


Secret crash.

制服の採寸を待っている時に話しかけて来た女の子をみて、すぐに同じ学校に入学する事になるのだろうと感じた。
人見知りで口べたな僕とは違い、するりと言葉を紡ぎ出す柔らかく小さな唇は、楽しそうに弧を描き、瞳は優しく笑っている。
その時は声をかけられることになると思っていなくて、上手く答えられなかった。
じっとこちらを見ているのは、言葉を待っているからなのか。もう問いかけに頷いてしまったから、次になにを言ったら良いのか分からなかった。
戸惑っている間に採寸の順番がきて、二人とも呼ばれてしまう。
本当は、きみも元気かい、と聞きたかった。
「いこ」
彼女は僕の腕を掴んで立つ。強くない力加減だったので、手はゆるりと滑って掌でひっかかる。
肌に触られたからか、手を握ると言う行為だからか、とくんと胸が弾んだ。
振り向いて笑う彼女の笑顔は、とびきり可愛いと思った。

ホグワーツ特急に乗る前に再会したとき、こんなに早く再会ができるなんてと心の中で胸を躍らせた。
お互いに名乗り合っていなかったので仕方がないけれど、母には出逢った時に名乗ればよかったのにという顔をされて少しだけ恥ずかしくなる。本当はあの時、別れ際に声をかけようと思っていたけれど、いざかけようとしたら彼女は採寸の途中だったし、父が僕を迎えに来ていたから、何度も振り向いては口を噤むだけで別れてしまったのだ。
彼女のマイという名前を聞いてまた可愛いなと思う。
「行こう、マイ」
今度は僕が、彼女に手を差し伸べる番だった。前に引っ張り上げられた時、僕はとても胸が弾んだから、彼女の胸も弾ませられたら良いなと思った。思えば、あれは僕が彼女にときめいていた時だから、この時にマイの胸は弾まなかったのだろう。
なにせ、マイは男の子だったのだから。

彼はとても早く学校に馴染んだ。
もともとマグルの世界で暮らしていたから魔法というものを知ったのはつい最近だというし、魔法を見るのも殆ど初めてなので驚く顔は何度も見たけれど、すぐにそれに順応していく。
いつのまにか彼には、魔法界に知り合いの居る僕よりも多くの友達がいて、僕はそれに気がついた時少し彼を遠くに感じた。
同じ寮で、同じ部屋で、ベッドは隣で、移動教室や授業中にペアを組むのもたいてい彼なのに。周りの友人からも、僕とマイは一番の親友だと言われているのに。それじゃあ足りないと思う僕がいる。

四年生になる時、マイのお母さんが亡くなった。その為に遅れて登校すると長かった髪の毛はさっぱりとしたショートヘアーになっていた。
上半身だけを見ると女の子みたいだったマイは、髪を切った途端男の子にしか見えなくなった。
やっぱり彼は男の子なんだという事実がすとんと胸に落ちて来る。
「マイが女の子だったら良いのに」
「女の子じゃ友達にすらなってないかもよ」
つい口を出た言葉に、彼はあっさりと返した。
男である事を否定したいわけではなかったけれど、ただ、女の子の格好が似合っていたからそう言ったのだ。
えっと驚いた僕に、マイはおかしそうに笑う。
「だってセドリック最初、全然喋らなかったし」
「それは、ちょっと僕にも人見知りの時期があって」
今でも初対面の人にマイのように屈託なく笑えるかといわれたら困るけれど、挨拶くらいは出来る。
でもつまり、マイはあんな口べたで無口な子には恋をしてくれないってことだろう。
「そもそも俺が女だったらセドリックにあんまり話しかけなかった」
「そうなの?」
「だって同性の友達作りたかったんだもん俺」
けろっとした顔で言われて、こっそりショックを受けつつもほっとしていた。
マイが女の子だったら結ばれたかもしれない、という幻想は砕かれた。
そして、マイが男の子だからこそ今こうして向かい合っている。
「マイが男の子で良かったんだ」
マイが男の子だから、僕は彼に恋をしたのだろう。
僕たちは何も間違えてはいないのだ。


謎の交友関係がある彼は、当然僕の知らない友達が居て、知らない付き合いもある。
たとえばスリザリン寮生以外には頗る評判の悪いスネイプ先生と、しょっちゅう会っている事。
下級生のトラブルメーカー兼ヒーロー、ハリー・ポッターとその友人達と仲が良い事。
……ちなみに悪戯仕掛人として有名なフレッドとジョージとの付き合いは正直、予想していたので何もおかしなことはない。
あとは、急に獣の匂いを纏ってくる事。
森で犬と猫と戯れていたらしいけれど、本当にどういう流れでそうなったのか分からない。猫は後輩の飼い猫らしいけれど。
学年が終わればそれはぱたりと止み、今度は何をしてくるだろうかと構えていた。
今まで自分から渦中に飛び込んで行ったことはないから、まさか闇の印が上がる現場に飛び出して行ってしまうとは思ってもみなかった。
仲の良いハリーを探しにいくその背中は、躊躇いもなくかけ出し闇の中へ消えて行く。
僕はその背中を追えずに見送った。
足を踏み出す事が出来なかった。


トライウィザードトーナメントに出ることにしたのは、ちょっとした対抗心と虚栄心と、純粋に自分の力を試したいと思ったからで、最初はマイに大反対された。ゴブレットに選ばれた時には皆が僕を讃えてくれて、お前なら出来ると背中を押してくれたのに、マイだけは拍手すらせずにいた。
賛成してくれていないのは知っていたけれど、ハリーのことばかり見ているのがつまらなくもあった。まさか彼が選ばれた僕に対してやっかみを持っている、なんてことは絶対にないのは知っていた。
ただ彼の心をハリーに奪われてしまっただけのことだ。

大反対したのも暫く上手く会話が出来なかったのも、ハリーと僕を心配していたからだと聞いたときから、ずっと、思っていたことがある。
「マイって……かっこいいよね」
「お前が言うと嫌味だからな、それ」
ダンスパーティーの前、身支度を整えたマイを眺めながら言うと、その顔は顰められた。
自分の容姿が優れているとは思わないけれど、マイはよく僕をハンサムだと評すから、そうなのかもしれない。でも僕はマイの方がかっこいいと思う。
同室の友人たちは、何故かマイの方に賛同して笑っていた。
「なんで?マイってかっこいいだろう?」
「まあ、否定はしないけどさ」
「なに言ってんの?みんな」
今日のマイは前髪を半分あげていつもより顔を露にしていて、首元をきっちりとしめた格好が様になっている。
それに、見た目のことだけではなくて、雰囲気とか所作とかがかっこいいと思うのだ。
僕らと比べて顔立ちの彫りは浅く全体的に薄い印象を受けるけれど、見慣れて来るとそんなに薄いとは思わないし、中性的な顔はちょっとセクシーだ。
人に触れる時のさりげない動きとか、首を傾げて笑うときとか、あとは多分性格が男らしいところがおおいに影響している。
女の子の時は可愛くて悪戯っぽい笑顔と、人をドキッとさせる動作をしていると思った。男の子になってからはますます彼の行動は人を引っ張る力を得たような気がするし、僕はますますマイに惹かれている。
いつもチャーミングで、時にクールで、ちょっとセクシーな彼を、僕は綺麗な人だと思うのだ。


end

セドリックの独白という名の告白。呪いにかけられる前。
可愛い、かっこいい、綺麗ってのは見た目の話ではなくて、性格とか考え方とか人間としてとか。
主人公は内面が外に滲み出て来るタイプで、性格で人に好いてもらえていたらなと。
14話との違いをちょっと感じてくれたらうれしいなって。
Aug 2016

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