I am.


Sunday. 04

東京にきて大学が始まって二ヶ月、光には大学の友達とバイト仲間がいて、俺にもまたそれがいた。光の友達は俺の友達ではないし、俺の友達も光の友達ではない。互いに友人と生活があって、でも俺と光は交差していた。それを付き合いの長い友達という名称にするにはどこか物足りなさを感じる。
俺と光は俺と光、それを特別とか大好きと言うんだと思う。


「いらっしゃいませ、ああ谷山くんだ。今ねー、財前くん上で接客してるから」
「あ、はい、こんばんは」
レンタルショップでバイトしてる光を訪ねると、入るなり顔を合わせた店長から声をかけられた。もう顔なじみである。
「わあ、谷山くんきてる。財前くんは?店内放送かけようか?」
「いま上で接客中ってききましたよ、店長から」
「そう?じゃあちょっと待っててねえ」
「財前くんさっきレジ打ってたから接客終わったかも。もうすぐだよー」
「あーい」
社員さん、他のバイトさんからもおぼえがめでたい。
「谷山くんだあ」
二、三人から声かけられた後にてきとうに新作の棚を見てたところ、またしても声をかけにきたのがバイトの西さん、三つ上。なんと俺の大学の先輩だったんだが、学部もサークルも関係ないので光がバイトに入ってから知った人。
おそらく店に出てるほとんどの店員が俺に声をかけてきたんじゃないだろうか。
いらっしゃいって言ったの店長だけで、後はみんな「谷山くんだ〜」。いらっしゃい言わないわりに律儀に声はかけてくる。まあ俺は光を迎えにきただけでお客じゃないからいらっしゃい言わなくていいのか……そうか。いやたまにレンタルしてくけどね。
「今日はなんかかりてく?」
「いや、どうしよっかなー。おすすめあります?」
「おれはこれ」
「にしに〜のおすすめ聞いてるんじゃないんですよ」
愛称・西兄はB級映画好きなので本人のおすすめ映画はたいていクソ、というのが光と俺の見解である。たまにぶっ飛んだ展開の映画あるから観ちゃうけど。
新作の棚にいたのにどこからともなく取り出したのはいかにも低予算っぽいパッケージのDVDだ。よくレンタルショップに入荷されたなお前……。
これはあたりかハズれか。悩みつつ裏面のカットとあらすじを読んだけど頭に入ってこないストーリー。
「え。これなんなんですか?意味がわからない……」
「ひらたくいうとラブストーリー」
「プレデターと???」
どうやら登場人物は主人公の男性一人以外は全員地球外生命体。
プレデターVSエイリアンで主人公を取り合うのだとか。なにそれ、スピンオフ?パクり?
あらすじを読んでもどうやったらそんな西兄のいうストーリーになるんだかわからねえ、かりるっきゃねえ……。
「あ、おった。……西先輩?」
俺がきてると聞いてたらしい光がひょこっと棚のところに顔を出し声をあげた。そして西兄の存在にも気づく。
「光、これラブストーリーらしいよ」
「は?……キッツ」
「かりてこーか」
「なんでや。西先輩におすすめ聞くのやめろいうたやろ」
「いや、つい怖いもの見たさでな?」
ごすっと肘を入れられて体が揺れる。
「オレこっち観たいんやけど」
「じゃそれにしよ」
「おん、もう上がるから」
「ここらで待っとる」
光は自分の観たいDVDをとり、さりげなく西兄おすすめのDVDも俺の手から抜いて去っていった。社販で割引きくから手続きしてくるんだと思う。
西兄は俺たちの一連のやりとりを眺めていて、俺の隣に立って光の背中を一緒に見送る。
「さりげなく谷山くんの観たいやつも持ってったね、イケメン」
「キュンキュンしてしまいますよね」
「いや別にキュンキュンはしないけど」
「え、なんで?」
今世紀最大の謎にぶち当たり、信じられないものを見る目で西兄を見返す。
「別に俺がされたんじゃないし」
けろっとした顔で回答された。たしかにそうだ、名探偵。
「じゃ、にしに〜も優しくされたらわかりますよ」
「……おれにもああいうのしてくれんのかな〜」
たしかに西兄の言う通り、光があのようにさりげなく優しくなるまでに俺は数年かかっている。拳作って口元を隠しながらふみゅう、とかわい子ぶって「無理かも」と答えておいた。


「───財前くんと谷山くんって中学一緒なんだっけ、大阪だよね」
「そうです。俺は高校から東京来てて、光は今年からこっちで」
「ああ、だから普段関西弁でないのか」
そういえば、と思い出したように西兄は話題を帰る。
おそらく俺に訛りがないから言ってるんだろう。
「俺はもともと関東出身で、大阪にいたのは中学のいっときだけなんですよ」
「へえ、でも向こうでは関西弁だったんでしょ?」
「そうですけど、あれ?俺いま訛ってました?」
もともと喋る相手の言葉がうつりやすい性分で、関西弁使ってた時期はあったけど。東京にいる時間の方が長く、今では昔ほど相手の影響を素直に受けることはなくなってきたはずだ。関西の友達と話す時だってほとんど標準語喋ってる自覚があった。
「ふたりで話してると違和感なく、関西の人たちって感じがあるよ……っと財前くんおかえり」
「まだおったんスか、西先輩。仕事してください」
「光おつかれ〜」
店のエプロンを脱いで、レンタルバッグを持った光が帰って来た。
「いやちょっと、確かめたいことがあって」
「確かめたいこと?」
「財前くんと話してる時の谷山くんって関西弁だよね?」
「そう……っすね……?」
思い返すように斜め上を見る光。
「せやけどこいつ、関西のやつには大抵関西弁スよ」
「そんなことないよー、前ほど釣られないし。光とだってちょっとイントネーション変わるくらいだろー?」
「はあまあ、ちょっとはまともになったかもな」
まともってどっち寄りなの?
「本当は光のだって釣られないようにしたかったんだけど、なにせいつも喋るからなあ」
の関西弁はほとんどオレのもんやろ、しゃーないわ」
「たしかに、光と話してるうちに定着したかも」
元々はいろんな人の真似っこだったわけだが、光と話すことが一番おおかったし、癖になっている。それに関西弁出たとして、光相手にだけ出るんでもまったく問題はないんだもんな。

西兄からは今の口説き文句?イチャついてたの?と聞かれたがなんの話っすかと二人で口を揃えてツッコミをいれてレンタルショップを出た。
店長が帰り際に、お土産のおやつ余ったからあげるって俺にまで持たせてくれて、夜道で早速もしゃもしゃたべた。

一足先に食べきってゴミを丸めてる光を見る。まだほっぺはもぐもぐ動いていた。
俺も最後の一口を放り込んで、包み紙を汚れないように丸めてポッケに入れる。そしてそっと手を伸ばして、光の持ってたレンタルバッグを取り去る。
「久々にお好み焼きくいたいなあ、明日」
「あー……、?おい」
バッグを自分の外側に持ち替えて、あいた手で光の手を握ると微妙に嫌そうな声があがった。
「───なんや、ゴミ持たす気かと思た」
「残念、何も持ってませんでした」
素手で素手を握った、つまりおててを繋いだだけである。
はずれですぶっぶーと口を尖らせからかうと、光は小さく笑う。
「アホ」
悪態をつきながらも指は柔らかく絡まり、互いの肌をなじませ、優しく繋がれて離れることはなかった。



end

深読みすればBLって感じにとどめておこうと思ったんですけど、やっぱりほんのり。
白石先輩と財前くんの発言をさりげなく繋げました。
財前くんが笑いながら言う「アホ」の意味は「好き」だと思ってます。
Sep 2018

PAGE TOP