Don. 03
※主人公がオリキャラと結婚します。社会人生活は普通に通り過ぎる。時間が経つのがはええ。
二年目は、いつのまにか夏が終わってて、寒くなって来たと思ったら今年が終わりそう。不満は無いけどぱっとしない一年だったなあ。大きな仕事に参加するわけでもないし、大きなミスをおかすでもない。だからといってつまらない日常なわけじゃないし、ぼーさんが調査で怪我して入院したり、安原さんが投資で成功したからって何の関係もない俺にご飯奢ってくれたり、大学の時の先輩んとこに赤ちゃんが生まれたり、振り返れば色々ある。
……まあ、日常生活はそうだよね。
別に悲観したわけじゃなかったんだけど、こうやって考えたからなのか、年明け早々、俺は何故だかお専務様に呼び出しをくらった。エッなんでなんで?忘年会は特にやらかしてないし、業績も普通だし、善くも悪くも目立ってないハズなんだけどなあ。
……結論を言うと、お見合いのお話でした。これなに?なんのドラマなんですか?ゴーストハントどこいったの?
相手は専務の恩師のお孫さんらしい。なんでも彼女が困ってた所を偶然通りかかった俺が助けて、お礼をしたいので連絡先をって言われて渡した名刺が、おじいちゃんの目に入ったと。たぶん専務とおじいちゃんが乗り気なだけだろって思って会ってみたら、彼女も割と乗り気でした。
ただとっても良い子だったので申し訳無さそうにされた。いや、まあ、別に良いですよ?断っても良い話だって言われてたし、本気の格式張ったお見合いではなかったしね。
それに俺もそろそろ腕まくりしても良いじゃん?精神年齢はともかく。
大学生時代はね、やっぱ、同年代の子はどうしてもきゃぴっとしててね、お付き合いを考えてはいなかったんだよね。
結果的に言うと、彼女とはとっても良い出会いだったというわけで、週末にはお出かけするようになって、事実上お付き合いって感じになりました。
付き合って半年したころに、おじいちゃんが倒れちゃって、お見舞いに行ったら、おじいちゃんのよくある、孫の花嫁姿がみたい発言をうけまして……まあ、じゃあ見せてあげようか、って病室でいったら彼女に泣かれた。プロポーズととっていただけてかまいませんけども。駄目だった?夜景の見えるレストランがよかった?
でも指輪買ったあと、夕日が綺麗に見える丘で跪いたよ。大丈夫。ご両親にも頭下げに行ったし。
のちのち、最初のも嬉し泣きだったらしいとは聞いたんだけど。
さすがにすぐに式は挙げられないから、とりあえず写真でも撮って見せてあげようかってことで、写真館でブライダルフォトを撮っておじいちゃんの病室に飾った。おじいちゃん喜んでくれた。でも、その二週間後、おじいちゃんは息を引き取った。おじいちゃん良い人で、俺の事も可愛がってくれたから、寂しかったなあ。本当はヴァージンロードも歩きたかったんだって。お義父さんに譲らないんだね。
でも、それならもうちょっと早く出会えてたらよかったねえ……。
おじいちゃんの四十九日が終わって、納骨が済んだ後に入籍して、晴れて俺たちは夫婦になりました。
こういうのって、会社には言わないとかな?結婚式の日取り決まったらでいいかな?っていうか専務は知ってるからね。ウン。
まあ友人も同僚も彼女が居る事知ってるし、仲良い奴らには会った時に報告すりゃ良いかってことで、地道に報告していってた。あとはもう口コミにまかせよう。
ところが俺は、彼女が居る事すら知らなかった人達がいることを、忘れていた。……そう、安原さんを始めとする、麻衣ちゃんだったときから関係が続いてるみんなです。あははは、一番付き合いが長いのになあ。言い訳させてもらうと、会う機会が少ないうえに、普段プライベートな話をしないから、わざわざ彼女ができたって報告しないのだ。ギリギリ社会人的なプライベートトークをする安原さんとは、忙しかったらしくて会えてなかったし、しかたない。
その忘れていた事を思い出したのは、十一月の終わり頃だった。
ナルとリンさんがイギリスに一時帰国するってんで、皆で送別会をやることになって高校時代のバイトの面々が勢揃いしていた。
全員が揃うのは二年ぶりくらい。主に俺と安原さんとナルとリンさんが揃わないって奴。
土曜の夕方から集まって、予約したお店の前に来た所で俺の携帯に電話がかかって来た。電話相手は奥さんだったんだけど、今日は奥さんも学生時代の友達とご飯とショッピングって言って出かけてたから、朝から会ってない。それに、俺が夕飯要らないってのも知ってるはずだ。
『———』
「もしもし。……え、熱?」
どうやら風邪っぽかったらしいんだけど、夜にかけて熱上がって来たみたいで早めに帰って来たらしい。ご飯は軽く済ませて先にお休みするって、申し訳無さそうに言われた。謝らなくて良いのに。
「今は家?……ああ、高いなあ……んーわかった、良いから良いから」
携帯を閉じてた所で、皆が俺の電話を聞いてじいっと俺を見ていた。先入ってれば良かったのに。
「ごめん、嫁が熱出したみたいだから帰る」
まあ全員いるから丁度いいやって、手をあげてごめんなさいのポーズをとる。
送別される二人は俺なんていなくても大丈夫だろうし、少ししたらまた戻って来るみたいだから、病床の嫁を優先します。新婚ですから。
「……い、いま何て言った?」
綾子がちょっと引きつった顔で聞いて来た。
左手は電話が終わるまでポケットにしまったままだったから、指輪のはまった左手も凝視される。
「だから、奥さんが———」
ここでようやく、俺は彼らに交際してたことも入籍したことも言ってないと、気づいた。
リンさんとかナルまで目をみはる。ジョンはゆっくり口をぽかんと開けて、それから他のみんなが凄い勢いで「えぇえぇ!?」と声をあげて驚いた。
ただし俺は「いってなかったっけ〜ごめん〜」って言いながらフェードアウトして行ったので、みんなの追求から逃れることとなり、後日安原さんに、あの後大変だったし入籍するまで言わないなんて薄情だって割と真面目にお説教されました。
end
復活 失敗だドン。
これは酷い裏切りだドン。既婚ネタ、オリキャラ落ちネタが苦手な人には大変もうしわけねーです。
麻衣さんの口から「奥さん」「嫁が〜」って言わせたかった。妻帯者というステータスを麻衣さんにつけたかった。なんか……こう、エロかっこよくみえる不思議(※筆者は特殊な訓練を受けています)
June 2015