Mr. 02
麻衣がSPRのバイトを辞めて五年が経った。ナルは相変わらずSPRの日本支部の所長をしていたし、リンも助手をしていた。安原少年は大学卒業を機にバイトを辞め、事務員は誰も居なくなった。笑顔の無いオフィスが寂しくて、顔は相変わらず出してはいたが、モチベーションはやっぱり下がった。ナルにそれを言ったら遊びに来るなら帰れと言われるだろうから言わないが。世間はそろそろ夏休みに入るってころ、ナルは久しぶりに俺に連絡を寄越した。内容は決まって調査の要請だ。
依頼人は神奈川の公立高校の校長。やっぱ、学校界隈では有名になったもんだ。
どうにも、プールで毎年足を引っ張られて溺れる生徒が居るらしい。それだけなら、ただの事故とも言えるが、回数が多い。しかも、今年に入ってからは足に人の手の痣がついたり、本格的に溺れて救急車を呼ぶ程に悪化した為調査を依頼したとのことだ。
誰かに憑いたとしたら厄介だから落とすのや護るのが得意なジョン、除霊に関しては俺とリンってことで、四人で行く事になってる。一番連れて行くべきは霊が見える真砂子なんだろうけど、ナルはいつも真砂子を最初から頼ることはしない。
件の若凪高校とやらに行ってみて、事務員に案内をしてもらおうと思ってたら、ぴたりと足を止めたので全員つられて立ち止まる。『資料室』と印字された札がかかっている部屋のドアで、窓になっている所から中を見ていた。
「ちょっとお待ち下さいね」
俺たちの返事を待たずに軽くノックして、事務員の姉ちゃんはドアを開ける。
「谷山先生、ちょうど良かった〜、今平気です?」
「え、うん?はい」
そこに居たのは、ナルと同じくらいの歳の青年だった。
人懐っこそうな顔をして、表情が豊かな人当たりのいい人物で、どこかの誰かさんを彷彿とさせる顔立ちだった。
しかも、名前まで同じと来た。
「お客様がいらしてるので、応接室までご案内頼んでも良いですか?私これからお昼なんですよ」
こっそり話してるようだけどバリバリ聞こえてる。青年はけろっとした顔で「あ、はーい」なんて返事をするところも、麻衣に似ていた。だが麻衣は女で、青年はどこからどう見ても男だった。もう、双子の兄妹とか言われたら納得できそうな程面影がある。
皆もそう思ってるのか、谷山先生をじっと見つめていたが、当の本人はどこ吹く風で爽やかに笑って、応接室にまで案内してくれた。
校長と対面しているときコーヒーを持って来てくれた姿は前の光景と重なって、のんだコーヒーは、気のせいだろうけど、懐かしい味がした。
ベースとなる会議室で被害者の生徒たちから話を聞いたり、校内で学校にまつわる噂を調べたりしている最中、一般教室の前を通りかかった。期末テストが終わったばかりというから、友達と喋っているだろう生徒が複数見受けられる。その中には谷山先生の後姿もあった。
ふいに後ろから廊下を走る生徒が俺たちを追い抜いて行く。バタバタ、という音と、はしゃぐ声がかけぬけた。
「こら!廊下は走んなー」
谷山先生は走って行く生徒たちに声をあげた。
そういや麻衣も、怒るときはよく「こら!」って言ってたっけなあ。
ジョンと俺は顔を見合わせて、ふっと笑い合ってしまった。
「あらら、どうもすみません騒がしくて」
その様子に気づいた谷山先生は、苦笑した。
「いえ、元気がよろしゅうて」
「ははは」
谷山先生の事を笑ったんだとは言いづらくて、笑って誤摩化す。
「先生だれー?」
教室に残っていた生徒が数人、谷山先生と俺たちのやり取りを見て、わらわら寄って来た。
「プールの調査に来てくれたんだって」
「あー、プールね。幽霊なんですか?」
「まだわからんねえ」
生徒がちょっと不安そうに聞いて来たが、まだ確証もないので言えない。
「こあいねー」
「せんせーヒトゴト!」
「先生はプール入らないので」
その発言により谷山先生はどすっと脇腹をつつかれて、くすぐったさと衝撃に藻掻いていて、俺とジョンはまた笑ってしまった。
...
怪奇現象の内容は期待しないでください……。
というか、これから先の展開すら考えてないです。続き書くかも未定です。
May 2015