Ray. -Secret-
深夜、家の階下で物音がした。両親の寝室は一階で、ナルと僕、それから兄であるの寝室は二階にあることから、両親のどちらかが動いているのだろうと思った。特に兄のは最近課題が大詰めで家に居ないことが多く、研究室や大学付近に住んでいる友達の家で寝起きをしていると、母から聞いていた。
もし兄が珍しく帰って来たのなら、やがて階段を上がってくるはずだけれど、それもない。やっぱり父か母が、水でも飲んでいるのかも。寝返りをうちながら、少し思案する。やがておもむろに、身体を起こした。
この時明確に、何をしたかったというわけでもなかった。目が冴えていたとか、誰が下に居るか確かめたかったとか、───もしも兄だったならば、話せるチャンスだとか、色々な思惑が混ざっていたのだと思う。
静かに、裸足のまま階段を下りた。
物音がしていたのはほんの少し前で、静けさは既に取り戻されている。明かりもなく、手探りのままリビングの方へと進んだ。
ふと、視線の先に微かに光が漏れる床が見えてきて、足を止める。それはリビングに通じるドアにはめ込まれたガラスを通して漏れた明かりだった。今も誰かがそこにいることを僕に知らせている。
ドアノブにかけた手を慎重におろし、音を立てないようにドアを開けた。ここで音を消した意味が自分でも良くわからないけど、なるべく僕の存在には気づかれたくなかったのかもしれない。いや、本当は気づいてほしかったはずなのに、その時の僕はなぜだかこうした。
期待と緊張を胸に抱きながら、中の様子を窺うと誰の姿もなかった。物音も誰かが動くような気配もない。ただキッチンの手元用ライトが点灯されたままになっていて、単なる消し忘れを思わせた。
安堵と落胆が同時にやってきた。
電気を消したら部屋に戻って寝直そう、とリビングの中に入る。そしてソファの後ろを通ってキッチンへ行こうとした時、視界の端に違和感を見つけて身を竦めた。
ソファにはそれだけの輪郭ではない何かが浮かび上がっていた。───脚、だ。
背もたれの裏から覗き込むと、明りを避けるように身を潜めて横たわる兄、がいる。寝息は静かで、こちらが息を止めて暫く様子を窺わないと分からないほどだった。
僕は妙な胸の高揚を感じた。
父か母だったら60点、ナルだったら80点、霊だったら90点、兄だったら100点。レア度によってそんな得点を用意していたからだ。
───やった。だ。
ソファの前に回り込み、喜び勇んでゆすり起こそうとしていた手を止める。
思えば、霊よりも珍しいを気安く起こすことなどできなかった。なぜなら、と僕はさほど親しいとはいえない。
もちろん優しくて、僕らに関心を持ってくれて、良い人だって知っている。でも同じ家に住む家族というにはどこか遠くて、友人でもなんでもないのが事実だ。
こうして寝顔を見ることだって初めて。
キッチンのライトではなくて、リビングのライトをつけて眺めたら、さすがに起きてしまうだろうな。
僕は暗闇に目を慣らしていくように、影に隠れたの顔を間近でそっと見つめた。
「───……」
ソファのクッションに手を置くと、自然と身体が柔らかく沈み込んでいった。そのままの顔を覗き、息の音に耳をすませて、それから起きないかを確認して、の唇に自分の唇を押し付ける。
───あれ、今、どこに触れた……?
すぐに離れたけど、力が抜けてバランスを崩してしまい、の身体の横に尻餅をついた。
クッションのばねによって身体が跳ねる。それに気づいたらしいが身じろぎをした。起きたことはわかるけど、顔がよく見えない。でも彼は手探りに僕の身体を捕まえて、「ジーン……?」と尋ねて来る。
「ごめんなさい」
「いや……」
すぐに謝ったけど、はしばらく状況の理解できない風でいた。
僕がしたことに、どうか気づいていませんように。
「ジーン、なんで起きてるの」
「……物音がしたから」
「それは悪かった」
「ううん」
ようやく現状を理解したらしいは、まず僕がここにいることを不思議そうにしていた。ソファにあげていた脚をおろして、僕を跨いで立ち上がる。
さっきは気づかなかったけど、テーブルには空のグラスを置いてあった。それをとってキッチンに片づけに行った背を見送る。
僕も部屋に戻ってしまおう、とソファから降りてキッチンの横を通ると、彼は何かに気づいたように立ち止まる。首をひねり、それから何かを考えるように。
「……なに?」
もしかして、やっぱり感触を思い出したとか。そんな不安から声が少しだけ低くなる。
は無言で僕をハグするように密着した。え、と声をあげかけるけど、身体を持ち上げられた勢いに口を噤んだ。
「なんで裸足なのかなあ」
まるで独り言みたいにそう言っている。抱き上げたのは、素足では汚れると思ったからだろう。
足音を消す為とはいえ裸足でいたことに少し後悔はしていたけれど、こんな風にされるとより一層その思いが募った。
それなのに下りるとは言えないまま、の肩に掴まる。階段を上る時の揺れは怖かったけど、いっそ開き直ってにしがみついてみた。彼はそれについては、何も言わない。
ただ、二階の廊下で僕を下ろした時に、一言。───「はあ、重かった」
「ご、ごめん」
「え?」
咄嗟に謝る僕に対し、は驚いたように僕を見返す。それから、ばつが悪そうに口をとがらせた。
「いや、褒めたつもりだった」
「そうなの?」
「そうなの」
ふっと笑いながら僕の鼻を摘む。反射的に目を瞑ってやりすごすと、すぐにその戯れからは解放された。
目を開くと、は屈んだまま僕の顔を見ている。
「眠れる?」
「うん」
本当は眠れそうになかったけど、嘘をついた。もし眠れないっていったら、話し相手になってくれたのだろうか。でも、今の僕はそんなチャレンジをする余裕がなかった。
は良かったと安堵してから近くにあった顔をさらに近づける。頬に、ゆっくりキスして僕を部屋の中へと追いやる。
「おやすみ、ジーン」
「……おやすみ、」
なんとか挨拶に返して自室のドアを閉めた途端、僕は音もなく床にへたりこんでしまった。
*
なんか、ちゅーされたんですけど。
俺は唇に残る感触を確かめるように、指先でなぞる。
部屋に戻って、電気もつけずに考え込んだ。
深夜家に帰ってきて、ちょっと水を飲んだ後にうっかり暗いリビングのソファで意識を飛ばしたほんの一瞬の出来事だった。
階段を下りて来る微かな物音を感じ、リビングのドアが開けられたのがわかった。泥濘のような微睡みから抜け出せなかった俺は、誰だろうとどうでもいいや、と全てを投げだしてソファに横たわる。
だけど人の気配が近づいてきて、衣擦れの音がして、そっと顔が覗き込まれるような吐息を感じれば嫌でも意識が浮上するものだ。居心地が悪い。
ここまで興味津々なくせに声をかけてこないのは、俺を珍獣だと思っているツインズのどちらかだろう。急に起きて捕まえてやろうかな。
そう思っていたとき、ぷに、と唇に何かが触れた。───うん?
はっと息をのむ音がした。なんでそっちが驚くんだよ。しかもよろめいて、俺の身体の横に尻餅をついてしまった。
これは、さすがに起きても仕方がない。更なるイタズラをされるかもしれないし。
というわけで、俺は起きて、勝手に俺の唇を奪った弟がどちらかを確かめることにした。
まあ十中八九、ナルではないだろうと思っていたけども。
キスされたのには気づいていないふりをして、後ろめたさを顔に滲ませるジーンを優しく部屋に送り届けた。最後に、普段していないおやすみのキスをかましたのは、ちょっとした意趣返しである。
俺が気づいてると分かれば恥ずかしくて泣いちゃうかもしれないが、かといってまたイタズラをされるのもアレなので、釘を刺す意味もこめた。
しかし、ジーンが俺の寝込みを襲うとは───。
電気もつけない部屋の中で、何にもぶつかることなくベッドに辿り着いて寝転がる。
靴はぽいぽいと脱ぎ捨て、床に落ちた拍子にごとんっと音を立てた。階下で眠る両親はおそらくその程度で起きたりはしないだろう。
改めて身体を大の字にして、ふう……と息を吐く。また唇を指でなぞりそうになって、反芻しようとしたけれど、深く考えることじゃないかと意識の奥底に追いやった。
あれから二年が経った。
ジーンがいたずらをしたのはあの時の一度だけだったし、俺は日本で働き始めたし、本当に意識の奥底にやっていた出来事だった。
それを急激に思い起こしたのは、ジーンにベッドの上で見下ろされているからだった。
もちろん襲われているというわけではなく、ゴロゴロじゃれてきただけなのだろうけど、目と目が合ったその瞬間に記憶の蓋が開いたというやつで。
「───?」
びく、と反射的に身体が震えた後、手が口を覆う。ジーンは不思議そうにしていたが、目をそらした俺を、静かに見ている気配があった。
「起きてたんだ、あの時」
確信をもって言われて、ジーンを見る。
困ったように笑っているその顔は、悪戯がバレた子供のようにも見えた。
「今の今まで、忘れてたけどな」
俺はつとめて軽くいいながら、起き上がる。お互いに思い出した以上、話は必要だが問題にする必要はないと思っていた。
「どうして何も言わなかった?」
「えー……指摘したら、追い詰めてしまうかな、と」
「……」
俺は黙ってしまったジーンの顔を覗き込む。
子供の好奇心や、悪戯心や、理由のわからない衝動で起こしたものを、大人に『なんで』と聞かれるのは負担をかけると思った。そうでなくとも、俺とジーンの間には、信頼関係が築かれているかどうかわからなかったから。……まあ、向き合わずに逃げたともいうわけだけど。
「俺たちはあの頃、あんまり普通の兄弟って感じでもなかったし」
「今だって普通の兄弟じゃない」
「おい」
せっかくフォローしているのに、お前ってやつは。ジーンってもしかして俺のこと嫌いだったのか?
だとしたらさすがに、キスされないよな。じゃあなに───、もしかして、俺のこと
「好き」
とかいうんじゃ……。いま、一瞬自分が言ったのかと思ったけど、ジーンの声だったな。
視線が、その声の方へと引き寄せられる。
「好きなんだ、のことが」
俺は頭が真っ白になって、脳内にこれまでの俺たちの思い出みたいなのが駆け巡る。大した思い出はない。好かれる要素もない。
自分で言うのもナンだけど、歳の離れたやさしい兄だと思った。
「何か、思い違いを……」
「そんな風に言われたくない」
「悪い」
まさかこんな真っ直ぐに告白をされるとは思っていなかった。
二年前の行動を放置した俺が悪いのか。あの時きちんと話し合っていればよかったのか。いや、ジーンはやっぱり思い違いをしていないか……。
俺がぐるぐると思考を巡らせている間に、ジーンは口を開く。
「さっき、イギリスに帰るまでは目の届くところに居てって言ったけど」
「うん?」
それは『以前の記憶』であるジーンの死を本当に回避できているのかが心配になっての発言だ。何を急に言い出すのかと思えば。
「僕がこのままずっと日本で、のそばに居たいと言ったら、怒る?」
───その、怒るって聞き方、ずるくないか。
俺は自然と眉間にしわが寄り、それをほぐすように指で揉みしだく。
急に言われても、俺はさっきやっと、長年の不安が解消されたばっかりなんだ。
俺が麻衣だったときのジーンは、出逢った頃には既に死んでしまっていた。
それなのに、夢の中で会うせいか心の距離がものすごく近かったように思う。
死んでも浮かばれず、ナルの傍に居続けて、だというのにナルには会えず俺を通してしか世の中と関わることのできない存在。
俺が死んだら、迎えに行ってあげないと───。そんなことを本気で思っていた。
それくらいしか俺がジーンにしてやれることなんてなかったからだ。
だからか、今こうして別人という立場に立って、生きた幼いジーンがうちにやってきたとき、絶対に死なせるものかと思った。
「……おこんないよ、おこれるわけない」
だって俺はジーンが生きていてくれるだけで、本当にうれしいんだ。
*
眠るにキスをしてしまった罪悪感と、高揚感が僕の中にずっと燻っていた。
キスってどんなものだろうって、誰とするんだろうって、よくわからないままに行動していた自分が恐ろしい。けれど後になって、僕はずっとに特別な感情を抱いていたのではないかと気づいて、更に後悔が押し寄せた。
血のつながりはないとは言え、兄を相手に抱くべき感情ではない。そして、そんな思いを抱えながら勝手にキスなんて、してはいけなかった。
幸か不幸か、彼が日本で働くと言って家を出ていってからは、僕の心が揺れることはなくなった。忘れたのか、風化したのかと思っていたけれど、久しぶりに顔を見た途端にそれは間違いだったと知る。ただ、時が停まっていただけだった。
想いの鼓動が再び刻み始めるのはあまりにも簡単で、むしろ前よりももっと焦燥と情熱に満ち溢れているのがわかった。
それもこれも、二人きりでずっと一緒に行動してくれるなんて、思ってもいなかったから。
「好き」
持て余した感情は、すぐに溢れた。
「好きなんだ、のことが」
以前勝手にしたキスがバレていたこともあったし、そのことでが僕の目を見られないという余裕のない姿を見たせいでもあった。
もっと見たい、全部見たい、傍でずっと。そう言う思いが僕の理性を溶かしてに迫っていた。
は大人として、兄として、最初は僕を説得しようとしていたけど、重要なのは立場や環境ではなくて、気持ちだった。
「僕がこのままずっと日本で、のそばに居たいと言ったら、怒る?」
そう言った途端、はくしゃりと顔をゆがめた。初めて見る表情で、泣いてしまいそうな、いや、笑っているようにも見える。
きっとは、僕の危うい未来を予知したはずだ。日本に滞在中、かなり気を張って僕の傍に居続けたのはその所為だと思う。
いったい何を見たのか。口にしないのは彼の自由にしたらいいけど、にとっての僕の価値というものを少しでも思い知ってもらえたらいい。
そしてその目論見は多分、成功した。は僕を大切に思ってくれている。
「……おこんないよ、おこれるわけない」
優しく引き寄せられて、胸の中に閉じ込められた。僕も背中に手を回して、の匂いを深く吸い込む。
「ジーンがこれからどう生きようと、応援したいって思ってた」
「うん、して」
「それがまさか、こんなことなんて」
そっと覗き見た顔は火照っていて、ほのかに赤い。
暫く一緒にいたせいもあって、の兄らしい相好が剥がれかけているのを感じる。うんと大人だと思っていたけど、ちょっとかわいい。
僕の肩でぐりぐりと頭を振るのはなんか、犬っぽい。頭をくしゃくしゃに混ぜてみたら、無邪気に笑った。
「みだれた」
今まで見たことのない、正確に言うと向けられたことのない顔に、胸が締め付けられる。
無防備というか、懐っこいというか。とにかく急激に距離が縮まって、心を開かれているみたいだ。
「───ねえ、それは僕を受け入れてくれる、ってことだよね」
ぼさぼさになった頭のまま、は思案するように口を結んだ。それから僕の両手をとって、そこにキスするみたいに唇を寄せた。音もなく、ただ触れるだけだった。
「いいよ」
今度はかすかな声がする。吐息がかかり、ぴくりと指が動いた。離れていったの唇を求めて、宙を掻く。は伏せた目でそれを見た後、とろりと笑って、求めに応じるようにまた近づいてくる。
少しの仕草だけで僕のして欲しいことがわかるみたいに、の唇は僕の掌と手首、それから頬に移動して、最後は唇に辿り着いた。
*
神話に出てくる少年のように美しい弟に口付ける。この背徳感といったらない。
そもそも二十代後半の大人が十代の少年にキスするというのは犯罪のような気もするが、今だけは二人の世界に浸っても許されるような気がしていた。神聖な儀式にさえ思える。
指先から手首へと唇を這わせ、腕を引き寄せてから頬、それから柔らかな唇に移動した。押し当てるような触れ方から次第に吸い合うような戯れを経て、口先だけを絡ませた。舐めたり舌を差し込んだりするのは、まだ早い気がする。
この、甘くてじれったい行為にいつまでも耽っていたくなった。
しかしここは現実で、楽園にはずっといられない。俺たちには明日があり、生活があり、仕事や学校がある。
ジーンの気持ちを受け入れると決めたとはいえ、本当に日本にずっといさせるわけにはいかなかった。本人もそれはわかっていて、予定通りイギリスに帰る準備を進めた。
それでも未練があるようで、渋々といった感じだ。
「僕、また日本に来られるように仕事を探そうかな」
「えー……???」
俺は自然と困惑の声が出た。それを不満ととったのか、ジーンは「いや?」と尋ねて来る。
「学校はちゃんといきなさい」
「ってマジメだ。ナルよりよっぽど」
「……。お前が真面目に学校に通って、卒業する頃にはイギリスに帰るよ」
「───え」
事故を回避してジーンが生きている今、俺が日本にいる目的は半分だけ達成した。あとの半分は、本来渋谷サイキックリサーチが発足された時に受けるはずの依頼を、どうにか首を突っ込めないかと画策すること。その為なら、預言者とかいって、胡散臭い霊能者にでもなってやろう。
そして、それが全て終わったらイギリスに帰っても良いと思った。
「俺が帰るまで、良い子で待っているんだぞ」
「……子供扱いだ」
「世間的には子供だ」
事実を述べれば、ジーンは聡い子なので俺の言いたいことは理解しただろう。
静かになってしまって、その後はずっと俺にへばりついてるだけだった。
とうとう帰る日がきて、ジーンの見送りのために空港へやってきた。
大きなスーツケースはチェックインと同時に預け、その後は搭乗が始まるまで空港内で時間を潰した。そしてとうとう出国の手続きをする場面になる。ゲートを通れば、さすがに俺もついてはいけない。しばらくの別れを惜しんで、ジーンにハグをする。
「父さんと母さんとナルによろしく」
「うん」
ジーンは俺のコートの中に腕を入れてまで腰を抱く。こっちの方がより密着するし、温かいんだろう。
俺は白い額に唇を押し付けて、愛情を示すようにキスの音を立てる。
俺が日本人だったら、外で男同士で堂々こんなスキンシップ出来なかったかもな、役得。まあこれでも目を引いたりはするだろうが……なんて事を考えていたせいか、ジーンが俺の肩に体重を乗せて耳打ちをしてくる。
「とのことは絶対内緒にする」
「え?」
考えてたことがバレたのかと思ったけど、たまたまだろう。
そう言えば、改めて俺たちのことを口留めはしなかった。ていうか、まず言わないだろう。俺は勿論のこと、自分だって色々と言われることになるのだから。
「誰かに知られたら、はきっと、姿を消してしまいそうな気がするから……」
「……」
俺が麻衣だったときに、全ての人との関係を断ち切りかけた事を、まさかジーンが知ってるはずはない。ただ俺はそういうことをしてしまえる、というのは見透かされていたのかもしれない。
だけど今回は同じケースではないし、なにより秘密は自分だけのことではない以上、そんな選択肢はない。
「馬鹿、そうなったらお前も道連れだ」
暗に駆け落ちを仄めかすと、ジーンは驚いた後に声をあげて笑った。
それならいい、と晴れやかな顔をしてイギリスへと帰って行き───再び同じ晴れやかな笑顔で俺の前に現れるのはほんの数か月後。渋谷サイキックリサーチ発足の報告に来た時だった。
end.
義理の兄に恋する幼い弟たまらんという思いから書きました。
寝てる兄にキスしちゃうところは、キスしないと出られない部屋短編ともちょっとリンクしています。ハピバスデ!
Sep.2025