I am.


Breath.  02

(リン視点)

細めた目の隙間から、影がゆっくりと近づいてくるのを見た。
身体の中にある枷を壊すと説明を受けていた為に、額にある印に霊力を注がれるのだろう。
ところが、想像に反して触れられたのは額ではなかった。
唇に何かが触れる。それは、柔らかい花びらのように滑らかな、幼い子供の姿をした龍の小さな唇だった。
驚き目を大きく開くと、龍の伏せられた瞼が間近にある。睫毛の隙間から金色の光が溢れていた。
一瞬身構えてしまった身体から徐々に力が抜けていき、龍から与えられる口づけに応えて口を開く。
生暖かい舌が私の口の中に滑り込み、やがて私の舌を絡めとった。
同時に、頭の中で声がする。
『舌を絡ませて』そして『飲んで』と。
指示されるがままに果実のような舌を舐り、喉の奥に流れてくる唾液を飲む。それは瞬く間に心臓と頭、そして下腹部に強い熱と疼きを生み、次第に全身に甘く痺れるように巡った。

「もっ……と」

唇が離れた後頬擦りをしてくる龍に、私は更なる口づけを強請る。
しかしもう充分だろうといわれて、我に返った。
枷を破るためであることを忘れ、ただ龍から与えられる行為そのものに酔いしれていたことを恥じた。

龍の力に触れると、自分では制御できない感情が強く沸き起こる。
初めて龍に逢い、そうして契りを結んだ時もそうだった。



あの日───父が別行動をとるため一人になった私は、山の中を散策中に棗の木の陰に潜む何かに気づいて近づく。この土地に、害になるものなどいるはずはない、という油断があった。
害がなくとも、自然には脅威というものがあることを知らずに。

葉の重みで垂れ下がる細い枝を手で退けた途端、緑陰の中、黄金に光る双眸が現れた。
青緑色の鱗が艶めく細長い体躯、やわらかに靡く白金の鬣を携えた龍の姿がそこにある。
縦に割れた瞳孔が窄められたのを至近距離で目にした時、遅れて大変なことをしてしまったという自覚を持った。
初めて見る美しく神秘的な龍の姿に、目を奪われ、思考を放棄している場合ではないと。
だが、そんな私を木の枝が襲う。どうやら龍の身体が絡みついて撓んでいたものが、身じろぎした拍子に外れて元の位置に戻り私に鞭打ったらしい。

衝撃に後ろへ転び、打たれた顔を抑えながらも慌てて地に伏せた。
龍という生き物については物心ついた時から教え込まれていた。偉大で高貴、不遜で熾烈。ましてやここに居たのは縁のある龍ではなく、初めて目にする龍だ。突然目の前に現れた私に気分を害しても不思議ではない。
ところが龍は、怒り暴れることもなく私の様子を窺うように身を寄せた。
頭を使って私の顔をあげさせ、見つめるだけでなく舌で愛撫して傷を慰める。
傷口を舐められた時に引き攣ったり沁みたりと痛みが走ったが、それを凌駕するほどに心臓が高鳴り続けていた。

私は龍の霊力にあてられ、何日か寝込むことになった。そして本来加護を戴く老龍への目通りが伸びた。
───老龍は、三百年ほど前に先祖が縁を繋いだ龍で、これまでも度々才能のある者にその力を分け与えてくれた一族の羨望。誰もがまた、老龍と再び契約を結ぶことを夢見、それができなくとも加護を戴くのを誉として生きてきた。少し前までの私だってそうだった。
しかし、出逢ってしまった。
もう一度、あの龍に逢いたい。
美しい眸や、頭を摺り寄せてきた愛らしい姿が頭から離れなかった。

そんな願いを他所に、私の体内に廻る霊力から感じられる、あの龍の気配の残り香は、日を追うごとに抜けていった。

加護を授かり山から下りれば、余程のことがない限り、再び入山することは叶わない。
それこそ、次に来るのは私の後に龍の加護を受ける人間が育った時、仲介役として来られたら良い方である。
その時まで彼の方が私を覚えていることはないだろう。私のことは忘れ、もしかしたら私が連れてきた者をまた気に入ったりするのかもしれない。
想像しただけで、焦燥にかられる。

「───、?」

そう考えていた時、ふいに窓の外から物音がした。
障子に何かの影がかかり、撫でるような動きが見える。
不思議に思って障子を開けたその時、暗闇の中に金色の双眸が光った。
「ンキャ」
喉を鳴らして、するりと細長い身体を滑り込ませて部屋に入ってくるのは、私が渇望した龍だ。
驚きのあまり声すら出せずにいたが、やっと事態が理解できて慌てて口を開く。
「わ、たしに会いにきてくださったのですか……?」
閊えた喉から絞り出し問うと、龍は頷いた。
歓喜によって胸がざわめくのを何とか堪える。
「父から心配してくださったと聞いております。もうすっかりよくなり、明日には加護を受けられそうで、山を下ります」
本当はもっと言いたいことがあるはずなのに、いざ龍の姿を前にしたら礼儀を保つことで精いっぱいだった。
一方龍は動くのをやめてしまい、それ以降意思表示をしなくなる。
無礼ではなかったと思うが、私の様子を見に来たと目的を果たし、もう興味を失ったのかもしれない。

ところが、龍はその長い身体をぎこちなく縮めだす。時にはくねらせ、尾を床に這わせた。
力を込めているのか、苦しんでいるのかさえも私にはわからなかったが、徐々に尾が短くなっていくのを目にして、姿を変えようとしていることに気づいた。
龍はその姿を変えることができ、老龍も人の姿をとると聞いたことがある。

鋭い爪のついた四本の脚が、小さな丸い爪がのぞく柔らかな手足となった。
青緑の鱗は徐々に皮膚に埋まるようにして消えていき、なめらかな人肌があらわになる。
細長い身体もすっかり縮まって小さな塊となり、白金色の鬣は中心部から黒色に染まり始めた。
「───ぷはぁ」
詰めていた息を吐き出しながら、顔を上げた時に頭髪となった鬣が舞い上がる。鱗のように青緑がかった艶やかな黒髪が、やがて床にぱらぱらと落ちた。

二、三歳くらいの幼い子供がそこにいた。
短くて柔らかそうな手を前に伸ばして、黄土色になった丸い瞳でそれを確認する。
「みてっ」
私に、嬉しそうに笑いかけた。
「にんげんになれたーーーーゎん!」
そして立ち上がって駆け寄ってこようとした途端に、足がもつれて転んでしまった。

目の前の事態に困惑し、対応しながら私は内心焦りを感じていた。
このような幸運は今後二度と現れることはないと。
龍が私に会いに来て、私のために姿を変えて、私の身を案じ、私の目になると仰った。
逢うのも言葉を交わすのも、本来であれば許しがないと出来ない存在からの厚意に浸り───弁えることを怠った。
強大な力を前に、本性が引き摺りだされて心に秘める欲を曝したのだ。

「わたしと契りをむすんでくださると……?」

目の前の龍を欲する心に抗えなかった私は、浅ましく契りを強請る。
すると、龍は驚くほど簡単に頷いた。龍としては幼く人との関りも初めてだった無垢な心を、私は利用してしまったらしい。けれど、どうしてもこの龍と繋がりを絶ちたくなかった。


結果、老龍と父は頭を抱えたが、私と龍は力が安定するまでは距離を取り枷を付けて過ごすことで関係を許された。
一度結んだ契りそのものは、他者が壊すことがほとんど不可能だから誰にも破られることはない。それでも言うことを聞くしかないほどに私も龍も若く未熟だと自覚していた。
特に龍は、ただでさえ強大な力がもっと潤沢になる為、私の身を案じて納得してしまう。龍からすればその時間はきっと瞬きするほどに早い時間だろう。

だが、実際に龍が私の元に再び現るまでに、十年の月日がかかった。



ケンブリッジの一人で暮らす部屋の、固いベッドの中で目を覚ました私は身体に巻き付いてる腕を目にして安堵する。
昨晩、老龍に封印されていた枷が解け、これで名実ともに龍と正式な縁を結べたことを実感した。

顔を覗き込み長い髪を退けようとしたところ、龍は無造作に寝返りを打ち、私に背を向けてしまった。そして掛け布団を抱きしめて穏やかに眠り続ける。
私はそれを妨げることのないよう、静かにベッドを降りて身支度を整えに向かった。

シャワーを浴びて出てきたところで、目を覚ましたらしい龍が私の元に歩いてくる。
眠たそうに目を擦って、大あくびをしながら。
「ぁあ~ふ……興徐、身体の調子は?」
「平気です」
「朝食は?食べるの?」
「いいえ」
「一応今日の食事は軽めにしておいた方がいいよ、丸二日間何も胃に入れてないし」
「───………………二日間?」
「そうだよ」
龍をまたベッドに戻そうとしたところで、動きを止めた。
二日間という言葉に耳を疑い、急いで日付を確認すれば龍が来た日からすると三日目の朝ということに気づいた。
翌日は予定がなかったが、翌々日、つまり昨日は研究室に行かなければならなかったので、顔に焦りが滲む。それに気づいた龍は「心配するな」と手を振った。
「センセイに興徐は体調不良で休むと伝えておいた」
「!誰か訪ねてきた人がいたのですか?」
「いや、興徐のガッコウに俺がいったんだ。この間いた部屋だろ?」
「───……」
訪ねて来られた場合でも、訪ねて行った場合でも、どちらにせよ龍が私以外の人と会ったのは事実だ。
大丈夫だったのかと心配になるのは当然のこと。
「俺のことは親戚ということにしてある」
「それは……いいのですが……」
「センセイが体調を心配していたから問題ないと伝えたけど、お前からもよく言っておいて。あ、それと看病に来るような友達が居たら断ろうかと思ってセンセイに聞いてみたけど……親しい友達に心当たりはないって言われた」
「ええ、親しい人はいませんから───それより、なぜそんなに人の暮らしに詳しいのですか?」
「勉強してきたっていっただろう」
「それにしても」
「興徐、いいのかこんな話してて、今日もガッコウじゃない?」
「!」
人里離れた山奥で暮らす龍が、なぜそんなに手際よく人付き合いをこなしているのかと驚いたけれど、急かされるようにして家を出ることとなった。



教授に話を聞くと、龍は「シャオロン」と名乗ったようだった。
小龍とは老龍だけが呼ぶ愛称で名ではないが、そもそも本来人が易々と「小」を付けて良い相手ではない。ただ、正体を知らない上に他国の人にとっては単なる名前に聞こえてしまうので訂正のしようもなく、そもそも龍がそう名乗った以上、私が苦言を呈することはできない。
しかし私にはとても、そんな風に呼ぶことなどできなかった。

私と龍が親戚だということは疑われなかったが、学校や暮らしぶりについてを聞かれると返答に困った。
教授は普段私の生活に過度な関心を示したりはしないので戸惑ったが、八歳の養子を迎えたと言うので納得する。かといって、龍は普通の子供ではないので参考にはならないだろう。
『身体が弱くて学校には通えていないと言えばいい』
『ロンドンより落ち着いてるケンブリッジに住む興徐を頼って療養に来たって』
結局私は頭に響いて来た助言───龍の声に従い事情を話した。
おそらく龍は人前に姿を現した時点でこうなることは予見していたのだろう。教授は、これ以上龍についてを深く尋ねてこなくなった。



しかしそんなことがあってから数カ月。
龍と穏やかで幸いの日々を送る私に、教授から養子にした子供の面倒を見てくれないか、という打診がきた。
聞けばその子供───オリヴァーというらしい───は、生まれつき強いPKを持っているようで、頻繁にポルターガイストを起こしてしまう。精神的にも身体的にも未熟なことに加え、膨大な力を有しているせいで頻繁に体調を崩す、と。
何度か専門的な検査は行っているがそれを制御する必要があり、そこで白羽の矢が立ったのが、修行の一環で気功に明るい私である。

教授の意に従い、子供に訓練を付けるのに不満はなかった。私は教授の教え子で、つまるところ師に従う弟子という立場だからだ。だが、
「そうだ───シャオロンは元気かい。これを機に、顔を合わせておくのはどうだろう」
龍についてはいただけない。
彼は普通の子供ではないので、子供と友達になることはおろか、面倒を見させるなど手を煩わせたくはなかった。
ところが口ごもる私をよそに、龍は『いいよ』と返事をするので、意に反したことはできなくなってしまった。

顔を合わせる理由は、アメリカから引き取られて来たばかりで友人がいないであろう教授の子か、身体が弱く家にこもり切りであろう龍か、むしろ両方への過度な親切が理由なのだろう。
ままならない状況に臍を噛む思いで、教授の提案に頷いた。



約束の日、私と龍が待つ部屋にやって来たのは同じ顔をした二人の子供。教授からは引き取ったのは双子であると聞いていたので驚くまではしなかったが、訓練を受けるのはオリヴァーのみだと思っていた。
「オリヴァーと……」
どちらがどちらなのかはわからず、二人の顔を見比べる。
すると一人が先に口を開き、微笑んだ。
「ユージン。今日はナルの初めての訓練だっていうから、付いてきちゃった」
「そうでしたか」
「それに、同じ年くらいの子が来るって聞いて、僕も会いたかったんだ。シャオロン、だよね?」
年相応に賑やかだという感想を思い浮かべながら、話を振られた龍の方を見る。
彼はゆっくりと首を傾げて「ナルって?」と返した。
そういえば、ユージンが口にしたのはオリヴァーではなくナルという呼び名だ。
「オリヴァーの短縮形……ニックネームみたいなもの」
ここへきて、ようやくオリヴァー本人が口を開いた。
しかし龍はその説明もいまいち理解できていないようだったので、私は名前の頭にNをつけるのが、名を短縮するときに使う技法としてあると補足する。
「へえ。小龍と似てる」
「似てる?」
「どうして?」
今度は龍の言葉に双子が首を傾げた。
「小龍の小は子供とか若いを意味するもので、名前の頭につけるんだ」
「じゃあ、ロンが本当の名前?その方が呼びやすいのに?」
「わざわざ長くするなんて面白いね」
ナルと龍、ジーンと小龍───瞬く間にそう呼び合うことになっていた三人にやや疎外感のようなものを抱きつつも、私は自分の仕事を遂行することにした。

ナルの訓練は出来るだけ早く実践させた方がよくとも、最初から自分の身体をコントロールできるはずがないために理論から入った。
教授からは賢くて我慢強いと聞いていた為に、大人しく座学を受ける姿には内心で安堵した。これで早く力を使いこなせるようになりたいと、駄々をこねられてはたまらなかったので。
一方でジーンはナルよりは少し不真面目なきらいがあった。とはいえ騒いだり離脱したりはせず、時折気がそぞろになる程度なので見逃した。
「これシャオロンもしってること?」
「うん」
たとえ退屈のあまり声を潜めて、龍に話しかけていても、ジーンに訓練を付けさせることは私の仕事ではなかった。しかし集中力が削がれるのか、ナルは顔をしかめた。
「二人は別に受けなくてもいいんだろう、外にでもいってれば」
「そんなにうるさかった?……シャオロン外行く?」
ナルにとっては自分が真面目に話を聞いてる横で、仲良く話されていては気が散るのだろう。
しかし私は龍にそばを離れてほしくはないため、ジーンの誘いには自然と身を固くした。
龍は優しいのでジーンを連れて外に行ってしまうだろうか。自然と龍を見つめると、彼は私を見て口を開いた。
「いかなぁい。気を散らせてごめんね、二人とも」
立ち上がった龍は、私の元に来ると手招きをする。
二人というのはおそらくナルと、私に対してのようだ。
「あと、ジーンもきちんと授業は聞いておきなさい」
「……、!」
屈んだ私の肩に手を置いて、ジーンを一瞥しながらそう言った後、龍は少し背伸びをして私の額に口付けをした。
肌を撫でるその温かい感覚が瞬く間に全身に広がり、腹の奥に熱が灯ると、龍の姿は消えている。つまり、私の中に入ったのだろう。

双子は急に目の前で起きたことに驚いており、私は誤魔化す理由が見つからなかった為、彼が『式』であることを言わなければならなかった。




その日の晩、私は龍にどうして人前であのようなことをしたのかと尋ねた。
龍は自分が人ではないことを易々と気取らせる真似はしないと思っていた。なおかつ、龍であることを知られるなどもってのほかだ。だから私は致し方なく双子に『式』と言うしかなかった。

「いやあ、興徐があまりいい気分ではなさそうだったから」

返って来た言葉に驚き、私は口を噤む。
龍の行動を咎めることはしないが、自分の正体を明かすような真似はしないで欲しいと言おう思っていた言葉は出てこなくなった。
彼には、そんな私の都合よりももっと奥の本心を気取られていたからだ。

「俺の姿が人の目に映るのが嫌?」
「……は、い」
小首を傾げた龍の問いに、素直に答える。
───また、制御できない身勝手な感情が滲み出てきた。
「私だけの龍でいて欲しいのです」
「……」
「あなたは優しい方です。他の誰にも、あなたの優しさを分け与えてほしくはありません」
龍と契約を結べて、一般的に使役と呼べても、その存在はどう足掻いても人より上位である。だから私の身勝手な感情で、龍の意思を阻んではならない。
けれど龍にとって初めて会い、興味を持ち、契約までした人間は私だけ。この特別を、手放すことはできなかった。
「俺の興徐」
「はい」
当然の事実でありながら甘い響きを持つその呼びかけに、即座に応える。
差し伸べられた手に顔を近づけると、顎を捉えられた。
私の額に口付けて気を分けてくださる時と、同じ仕草。期待を胸に、彼を見つめた。

「お前が俺に名を付けて、そう呼べばいい」

黄土色の瞳が、にわかに輝きを持ち始める。
瞳孔が徐々に縦割れの形へと変わっていった。

「そうしたら俺はお前だけの龍になる」
「……よろしいの、ですか?」
「うん」

とうとう金色に光り出した瞳を見て、胸が震える。

「なぜ、そんなに私によくしてくださるのですか」

思わず私はそう問いかけた。
「……うん?」
「あなたは、私の望みを全て叶えてくださるから」
龍は「そうとも」と鷹揚に頷いた。
「興徐の望みくらい全て叶えてやれる」
尊大な態度でありながら、どこか可愛らしい。

「……───

喉が張り付いたような緊張から解かれて紡いだ言葉に、龍は───は、蕩けるように目を細めて笑った。
「わたしの……」
再び、強い意味を孕んで呼べば、額がくすぐられるような感覚がする。
おそらく周囲に漂う霊力が高まり、それを私の身体が受けているからだ。

「ください、

やはり龍の力は絶大で、浴びれば浴びるほど欲しくなる。身体を少しずつ慣らしていっても、まだ受けきれず酩酊状態になるというのに。
「あの日のように、私に」
私の望みくらい全て叶えると言ったその唇が欲しいと言えば、は困ったように眉を顰めた。だが彼は言ったことを違えたりはしない。
「もう、少しだけだよ」
「ん……」
仕方なさそうに言ったあと、小さな唇が私を食む。
手加減しているようで、私を濡らすことのない口づけ。それは霊力を注ぐのを目的としない、ただ触れ合うためだけの行為だ。これなら身体に負荷がかからずに愛でてもらえる。
嬉しさに思わず顎が上がると、はくすりと笑った。

───ああ、見透かされた。
けれど、もう隠さなくて良い。許しは得たのだから。




...


少しっていいながら、はちゃめちゃ長いキスしてくれるショタ。舌(体液)を入れてないのでこれでも手加減をしている、という概念。
双子にはどえらいイチャつきを見せてしまった気がしたけど、小さい子がおでこにチューしただけなので健全だよね???裏でしてることはともかく。
今作はショタ龍にごろにゃんするリンさんという方向性がキマりました。

Jan.2025

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