04
東京タワーで対峙することになった相手は、やっぱりエリオルくんだった。「あなたは、やっぱり気づいていたようですね」
「初めて会ったときから、クロウさんに似てるなって思ってたよ」
いつもの柔和な笑みではなくて、少し悪戯っぽい顔をして笑ってるエリオルくん。いつだったかケロちゃんが、クロウさんはわりと性格悪いとか言ってたっけな。
全部のカードを星の力のカードに変えて、世界を夜に戻すとお父さんがやって来た。
似てる似てると思ったら、どうやらお父さんもクロウさんの生まれ変わりだったらしい。それはさすがに驚いた。
クロウさんに頼まれて魔力も半分に分けてあげたので、クロウさんは『この世で一番強い魔術師ではない自分』になれた。最強の名を欲しいままに?孤高の存在の孤独?的な?わからなくもないけど、実際の気持ちはやっぱりわからない。まあ解決したので良いと思うけど。
アッ、暫定一位俺じゃんどうすんだよって思ったけど、クロウさん曰くクロウさんを凌ぐ程になったんだからむしろ力の制御も簡単ちちんぷいぷいって言うので納得した。
「きみにも、前世の記憶があるね」
話を聞き終えた後、俺はエリオルくんと二人になった。そこでふいにかけられた言葉に息を飲む。
でもクロウさんのことだから分かってるような気がしてた。そもそも、クロウカードが新しい持ち主の手に渡ることも分かっていて、その為に杖とかもデザインされてたって観月先生も言ってたんだし。さくらちゃんだと思ってのデザインなのか、俺だと分かった上でのデザインなのかはわかんないけど。
「俺にとってここは、物語の世界だった」
「それでも、きみはここに確かに存在しているんだよ」
「さくらちゃんが、いないのに?」
「きみがきみであることは変わりない。そしてさくらさんも」
「そう」
色々な世界が存在するとエリオルくんは言う。だから、俺が居る世界は俺が居ても良い世界。さくらちゃんはさくらちゃんの世界に居るのだと。
「……でも、あの杖は無いと思う」
「おやそうかな?衣装にもお似合いだと思ったのだけど」
俺の杖が可愛いのはひとえに知世ちゃんのコスチュームの所為だということがたったいま判明した。
くっ!いつか作り替えてやろうかな!!!
拳を握ってぷるぷるしてると、好きにすると良いよと言われた。口に出してたかね。
エリオルくんはイギリスに帰ってゆき、それから程なくして小狼くんが香港に帰ることになった。矢継ぎ早〜。
もう会えないわけじゃないだろうけどさすがに日本では暮らさなくなるのかなとしょんぼりしてたら、いつか帰って来るって言われる。そうかあ、日本気に入ったかあ。作り替えられたとはいえクロウカードを持ってる俺がいるわけだしなあ。
それから数年後、俺はかつての目論見通り杖を俺風にアレンジして作り直した。中学にも入ったけど小学校から持ち上がりなので制服も似てるし友達もあんまり変わらない。いまだに知世ちゃんが隙あらば可愛い格好をさせようとしてくるので、家の中でなら存分に着てあげるってことでなんとか折り合いをつけてる。その写真を観月先生とエリオルくんへの手紙に同封されてると知ったのは中二の秋だった。
小狼はもうすっかり呼び捨てにしてるけど、知世ちゃんは呼び捨てにしづらくてむしろ中学生なんだから大人っぽく大道寺さんって呼んでみたら泣かせちゃったので結局今も知世ちゃんと呼んでいる。
なんか年甲斐もないような……と思ったけど山崎も三原さんのこと千春ちゃんって呼んでるな。あ、でも恋人なんだっけ?
まあいいか……若干響きがチャラいなってだけだし。からかわれたりはしてないもんね……。
お兄ちゃんと雪兎さんは大学に進学して、学部は違うみたいだけど今も仲良しだ。お兄ちゃんは昔よりいじわるな感じが抜けたのは良いけど素直に俺のこと気にかけてくるのがくすぐったい。むしろ過保護だ。
もう魔力がないから俺の危機を察せないのはわかるけど、雪兎さんと月さんはわかるし、今はもう全然危ないことなんかないのに。
雪兎さんは相変わらずほえほえしてて、お父さんに似てると思ってたけど、むしろ話に聞くお母さんに似てるんじゃないかと思えて来た。
未だによく手を繋いでくるのでドのつく天然は直ってない。もう俺小学生じゃないんだけどな……と思いつつ、断るとしょんもりさせてくるし、なんだか後ろに月さんがしょんもりしてるような姿さえ見えて来たので諦めた。
end.
恋愛要素は少なめだけどさりげなく愛されな感じでした。
『この世に一つだけの存在である私』って歌詞が好きです。
もちろん、このあとさくらinGHやる気まんまんです(にっこり)