Thumbs up.


05

赤司くんの動きが格段に良くなって、誠凛の動きがとても鈍くなった。
「うそ、負けないよね……?テツくん」
もう、会場中が誠凛は終わったと思ってる。
俺はつい立ち上がって声を上げそうになった。

「ガンバレ誠凛!!諦めるな!!ガンバレ黒子!!」

俺じゃない人が先に声援を送った。声の方を見てみたら、知らない子がいる。テツくんは泣きそうな顔をしてた。多分知り合いなんだ。
少年はバスケットボールを掲げてにかっと笑う。そして、テツくんが凄く嬉しそうに微笑んで、ぽろぽろ泣いた。
超感動的……。多分全中でテツくんが居ない時に点数遊びをされた、テツくんの友達だろう。リストバンドを預けられたとか言ってたのを思い出す。
「ったく、見てらんねーぜ」
「え?」
ぽかんとしてる俺をよそに、大輝が誠凛……というよりもテツくんと火神くんに喝を入れる。
黄瀬も緑間くんも、過去戦ったであろうチームも、家族達も続々と声援を送り出した。
「がんばれ、テツくん」
声は張らなかったけど、俺もテツくんに声援を送り手を振った。

涙と汗を拭ったテツくんは、元気を取り戻したようにきりっとした顔をして試合を再開した。

赤司くんは目を覚ましたみたいだけど、トップとしての誇りは未だにあるらしい。「王を討つなど百年早い」とか十六歳で言うって、劣悪な家庭環境に育ったんだろうか……。
余計な勘ぐりをしつつ、ゾーンとやらにチーム全員で入ったテツくん達を見守る。
そんなテツくんたちをみて、色々な人がチームの大切さに気づくんだろう。隣の大輝は泣いて笑っていた。皆もそう思ってくれたら良いな。

今年の優勝校は誠凛高校となった。俺はそれがすごく嬉しくて、中学時代の友達皆が、なんやかんやで成長したことも全部テツくんが居たからなんじゃないかと思うと、テツくんすげーなって思った。まるで少年漫画のヒーローみたいで、なんだもしかしてそっち?なんて思いつつある。まあ、一応現実なんですけどね。髪の毛の色以外は。
ピンクなヒロインと、優しいヒーローでマジお似合いじゃね俺たち……と思ってしまったけどやっぱり俺は男なので迷う。
もしこれが物語だったら、俺は女の子で、テツくんに恋をしてたのかもしれない。今の俺ですらもう抱きしめに行きたいレベルで感動なんだから。
結局本当の話の流れなんて知らないし、ここが空想の世界だという証拠も無ければ、俺が生きていることが確かである。つまり、俺の思うままにすればいいと思うんだ。
うん、……どうしよう?テツくんは俺が男だとしても好きな気持ちはかわらないって言ってくれてたけど、どうしよう?なんて言えば良いんだろう。
「おい、?何してんだ、帰るぞ」
表彰式が始まるからガヤガヤしてるなか、大輝はもうあんまり興味が無いみたいで立ち上がっていた。
「え!?あ。うん?うん!……え、テツくんに会わないの?」
「別にンな仲じゃねーし。そもそもあいつら優勝校だぜ?これから忙しいだろーが」
「あ、ソダネ」
大輝に促されたことでラッキーと思って頷いてしまった。
「テツにはメールでも入れときゃいいだろ」
「そうする」
テツくんには優勝おめでとう、会える日はありますかっていう簡単なメールを送っておき、俺は携帯をポケットにしまう。
一月の外はメチャクチャ寒いんだけど、興奮とドキドキで身体がなんだか熱かった。

テツくんからはその日の晩に返信があった。打ち上げやら取材やらで忙しかっただろうし、疲れているみたいだから大分遅くて、俺が気づいたのは次の日の朝だったけど。
二日後、つまり明日会いたいってメールで、意外にも日にちが早くてびっくりした。いやでもそうか。試合終わっても練習があるんだから、少し休みを貰える早い段階しか駄目か。
同時に黄瀬が今度皆でバスケやろーよって一斉送信したメールもきてる。何で俺まで?って思ったけど、黄瀬が誘わなくても大輝が俺を連れて行きそうな気もする。ていうか行きたいから誘ってくれて嬉しいんだけどさ。とりあえずそれは皆に日にちを任せることにして、俺はテツくんとの約束の日に備えた。……準備するものなんてないけど。
「桃井さん」
「うわ!」
待ち合わせ場所に居た俺は、急にテツくんに声をかけられてビビる。
「……待ってたよね?」
俺が来て背中を壁に預けた瞬間に声を掛けて来たので、多分そうだろう。
「いえ、今来た所ですよ」
「そう?」
これ以上待った待たせたの話をする必要もないので、テツくんの言葉を信じる事にした。
「何か飲も」
「はい」
格好つけ合う間柄ではないし、互いにただの男子高校生というステータスなので安いマジバに入ることにした。ただ、お腹はへってないので本当に何かを飲むだけのつもりで、俺はホットカフェラテ、テツくんはこの寒い時期にも歪み無くバニラシェイクだ。
さむくねーのかな……と思いつつ、二人で飲物を持って外に出た。中でゆっくりしないのは、飲物しか頼んでないからというのと、人が多い所で話すことではないという、暗黙の了解みたいなやつだ。
一応都心ってこともあって、どこにでも人はいるけど、公園の端なら人がすぐ傍にいるわけではないのでそこに落ち着くことにする。
「とりあえず、おめでとうってことで、乾杯」
「ありがとうございます」
バニラシェイクとカフェラテのカップを軽くぶつけあう。
俺はカップのふたを開けて口をつけるけど、テツくんはストローでちゅーっと吸ってる。まだ凍ってて重たそう。
「……考えてみたんだけど」
「!はい」
膝の間に置いた手で、ほんの少し熱いくらいのカップを指先で握りしめた俺は、のどかな公園を眺めながら切り出す。
「俺、一応テツくんのことはもうちゃんと、一人の男として見てるつもりなんだけど」
「……そう、ですね」
大輝の友達とか元相棒っていう間接的なくくりにテツくんを入れてるつもりは無い。まあ、確かに、中学時代はそうだったけど、キスされた時からもうすでにテツくんと俺の間には問題が生じてたし、一応間接的とはいっても友達じゃないつもりはなかったし。ごにょごにょ。
「ほんとに、俺のこと気持ち悪かったりしない?」
「へ?」
「いや、女装してたこともそうだけど、俺、男だよ?」
「不思議な事に、そんなことは思いませんでした。……普通だったら多分、男だと知ったときに後悔したり、すっと気持ちが一歩下がるものだと思うんです。自分でしたことですし、そもそも好きだったので嫌悪はしないと思いますけど」
「うん」
「桃井さんは綺麗で、一目見たときから素敵だと思っていましたが」
「え、そうなの」
「はい。……でも、意外に豪快なところとか、ガニ股で座るところとか、黄瀬くんや青峰くんと一緒に居ると男子中学生みたいだったこととか、時々大人っぽくて、普段すごく優しいところか」
何か色々言われている。
「ボクなりに桃井さんのことを知って、そういうところも、好きなんです。女の人として好きになったんじゃなくて、桃井さんが好きです」
照れるのでずずっとカフェラテを啜る。鼻も胸も顔もむずむずしてるんだけどどうしよう。
二回も好きって言われると、胸がぽかぽかしてくる。
本当にテツくん男前だなあ。反して俺って結構みみっちいな。ヘタレだな。
「これからも、青峰くんじゃなくてボクを応援してほしいです。……でも、今の青峰くんにまた勝てるか分からないので、また青峰くんに勝ちます」
なんか自分からハードルを下げた?いや、上げたのか。返事させる気無い感じ?
ん?でも、大輝より応援して欲しい的な願望はあるのか。
そこはテツくん男見せて、関係を迫ってもいいのでは?と思ったけど俺に言われたくないよね!分かる。
しかしそういうお願いをされるとは思ってなかったので、月並みな返答をした。
「テツくんのこと、応援するよ」
「ありがとうございます、頑張ります」
テツくんはバニラシェイクをにゅーっと吸う。さっきよりはやらかそうね。
俺の吐く息は湯気みたいに白いのに、テツくんはバニラシェイクなんか飲んでるからはあっと吐いた息に色は無い。
「……寒くないの?」
「寒くないとは言えませんね」
俺はテツくんみてたら寒いよ。
一口カフェラテを飲んでほっと息を吐いてから、テツくんの色の薄い唇を覗き込んだ。ずいっと顔を近づけたのでバニラの匂いと、カフェラテの匂いが混ざる。
顔を傾けて冷たい唇をはみ、ちろっと唇の裏の濡れたところを舐めればバニラの甘い味がした。
「ん、つめたい」
照れ隠しに自分のカフェラテを飲んでから、ちらっとテツくんを見る。前に俺にキスしたあとみたいに頬が若干赤くなってた。基本はポーカーフェイスだけど照れたり怒ったり笑ったりしてくれるんだよねテツくん。
ふひっと笑うと、テツくんは「ずるいです」と言いながら俯いた。



end.

良い感じでしまったなって思ったので終わり。
待たせてすんませんでした。
お付き合い編とか……いつか番外編があればね……書くかもしれませんね。
Sep 2015

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