Unison


06

人生にひどく退屈している夢を見た。
なんだか長い長い夢だったように思う。目を覚ました時には胸がくるしくて、涙がとめどなく溢れて、嗚咽と吐き気がひどく、苦痛だった。

白蘭は何もしていないのに、マフィアから拘束された。
それを不当とは思わない。
夢で見た記憶は、白蘭にとってやろうと思えばできることだったのだ。
しかし結末を知り、その欲望は潰えた。


全てを終わらせた世界では何もすることがなかった。望みが叶った途端に無になってしまう自分にも驚いたが、それほどまでに執着する自分の望みにも驚いた。
白蘭以外に誰もいない世界へ、ある日やってきたのは中性的な少年だった。
自分に対して何かを言っているようだが、白蘭の耳には入らない。何をする気も起きなかった。
もとより意識などないほどに抜け殻となっていたが、長い時間、彼はそばにいてくれた。
語りかけてくる言葉のほとんどは、とりとめのないことばかり。何も楽しいことなどないのに、手の温かさや、耳に残る声がゆっくりと体に浸透していくようだった。
何もしたくない、考えたくない、答えたくない。けれど、手を引かれて歩くのや、うとうとしながら頭を撫でられるのは好きだと思った。
「白蘭、俺はもう現実に戻るよ」
言葉を理解するまでに時間がかかった。
今までも一度だって反応をしたことがなかったので、目線すら動かない。
「世界にふたりは寂しかったな」
別にそんなことないのに。そう思いながら、自分を覗き込んでくる彼に不満を垂れようとした。
「じゃあね」
けれど動けないまま、彼の体が傾いていく。
やっと動いた体で手を掴み、記憶の奥底にあった名前を紡いだが、彼は笑うだけだ。
「ーーーひとりはもっと寂しいんだろな」
全く、そのとおりだ。
のいない、全てを終わらせた白蘭の世界は、彼がくる前よりももっと虚しかった。
光を失い、ぽたりと暖かい雫が頬を伝う。
彼が二度もいなくなって、ようやく白蘭は目覚めることができた。


「海に行きたいなあ」
自分を監視しているファミリーの構成員に無理を言って、車で砂浜に連れてきてもらった。
うろおぼえだけれど、白蘭はがしゃべっていた内容を思い出す。綺麗な海が見たいって。白蘭の悪夢の中では、あまり綺麗ではない海だった。それでも砂浜を裸足で歩くのは好きだった。自発的に歩かない白蘭の片方の手は、が握っていた。
小さかったような気がするけど、どのくらいだったかな。そう思いながら海に手を入れてすくい上げ、全てこぼした。

ある日ボンゴレを通じて、ジッリョネロファミリーのボスであるアリアから面会を打診された。白蘭に断る気はなく会うことにした。
いわゆる虹の代理戦争というものが始まるそうだ。その戦いに白蘭も参加してほしいと頼まれる。
「いいよ」
あっさり頷いた白蘭に、アリアは少しだけ目を見開いた。
「どうしてって顔だね?まあ、未来でしたことを思えばそうかもしれないけど」
「そうね。わたしにはあなたに何があったのか、詳しくはわからないし」
「僕はただ、くんにまた会いたいだけ」
頬杖をついて笑うと、アリアは一瞬だけ泣きそうな顔を見せる。
「ーーーについて、何か知っていることはない?」
白蘭はアリアの様子に首をかしげる。
震える唇と、真剣な眼差しはただ事では無いと語っている。
「何かって?」
「いないの、どこにも。が」
泣きそうな顔をしたアリアは、涙まではこぼさずに顔を覆い隠す。
「行方知れずってことかい?」
「……存在しない」
アリアは声を振り絞って、産んだ記憶はないと答えた。
この頃にはすでにファミリーとともに暮らしている年頃で、生まれていないわけがない。
まもなくアリアは亡くなり、がファミリーを継ぐことになるはずだった。
白蘭は引きつった顔のまま、ゆっくりと笑い声をこぼす。
「そうか、……、きみだけが……やはり」
「白蘭?」
くしゃりと髪をかき混ぜる。
もう、手の感触を思い出すこともできない。
それほどまでにの存在は脆かった。


虹の代理戦争に参加するにあたって、日本の並盛りへ集結することとなったがアリアたちは準備があって遅れるらしく白蘭だけが一足先にやってきた。
沢田家へ赴くと庭先ではすでに多くの訪問者がいてやりとりが行われており、さりげなく敷居をまたいで入り込む。
「賑やかで楽しそうだね」
「白蘭!?」
ボンゴレの監視から勝手に抜け出したのだが、ここへきた理由はわかっているようで捕獲されることはなかった。
「へえ、ここが綱吉クン家かー。部屋は、思ったより狭いの」
二階の窓まで飛んで勝手に覗き込んで、上から綱吉の顔を見下ろす。学校は楽しいかと聞くと、動揺は薄まり答えが返ってくる。
「それよりなんでお前……ここに?」
「虹の代理戦争、アリアの代理なのさ」
「え!?アリアってたしか……ユニのお母さん?」
「うん。用があるとかで日本に来るのはギリギリになるみたいだけどね。で、僕にアイデアがあるんだ」
にっこり笑って同盟を打診する白蘭に対し、もちろん綱吉はすぐに答えを出さなかった。
ゆっくり考えてくれていいよ、と去ろうとした白蘭だが、慌てた様子で引き止められる。地に足をついて、あえてまともに聞くことにした。
どうせ、今までに何度も問われたことと同じだろう。
「ユ、ユニは……?」
10年後に命をかけてアルコバレーノを復活させたユニ……は、死んだと思われている。
もちろんあの時、彼は死んだ。白蘭がマーレリングによって引き起こしたことは過去に遡りすべて抹消されたが、彼の死は覆らない。
「いないよ」
白蘭は素直に答えて背を向けた。
彼が命をかけたから世界は平和なものとなり、そんな平和な世界にとって彼の死は些事でもあり、礎でもあった。

白蘭にとって世界は”何”でもなかった。人も、ものごとも、ただの景色だった。
パラレルワールドで多少の変化があろうとほとんど同じ。とりとめなく、くだらない。
そんなものばかり見すぎて、気持ちが悪かった。
だからこそ世界を掌握する野望を抱いた。それしか、この世の存在意義を見出せなかったのだ。
だけは、違かったのに、白蘭は気づかなかった。
今ならわかる。
あの未来もまたパラレルワールドであったこと。
そして、がいるのはその世界だけであること。
彼は、海のひとしずくだったのだ。


end.

iamシリーズは散々パラレルワールドやってるんですが、さくらちゃんシリーズでは主人公はたったひとつの存在でいくのはどうだろう??と思って。
わかりにくかったらごめんなさい。主人公が未来で命をかけて平和な過去を作ったから過去にいない、というよりは、あの未来の道筋でしか主人公は存在しないというのが書きたかったことです。だから平和な過去は本当のユニがいてもよかったんですけど、それはちょっと展開的に地獄かなと思ってやめました。ユニのいない過去ってことなのでこれもまた原作とは違うパラレルワールドになります。
見た感じ、未来編での未来は続いてるし、他のパラレルワールドも白蘭がしたことはなかったことになるけど、その世界は存在するみたい?だし。ならなおさら、ツナたちが帰った過去の世界と主人公のいた未来の世界は繋がってないということで。やっぱり主人公は存在しないことになるのでは……という、私のあたまのわるい発想。かんがえるんじゃない、かんじるんだ。(なげやり)
アリアさんは多分前向きに、いつか生まれてきてくれると信じていそう。その未来は見えなくても。
おしまい。
Sep 2017

PAGE TOP