15
(主人公視点)木之本であった俺が生前にしたことは、カードから記憶を消すこと。そして、『主を選ぶ』権利を与えること。
それはケルベロスが選び月が認めるという俺の時とは違って、もし二人が選んでも、選ばなくても、認めても認めなくても、自由に生きることができるようにだ。
「待ってくれ。先ほど口にした『木之本』がカードを創った───つまり、前の主だとしたら、なぜ君がそれを知っている?」
「まさか、、君が……?」
この問いかけはスティーブンさん、そしてクラウスさんだろうか。冷静に俺の行動を見て、思考を止めない。
「それはぼくが『』の魂と記憶、それから魔力を引き継いだ者だからです」
隠しても仕方のない事だから認めて話すと、周囲は一瞬だけざわめいた。
一方で手先にぐりぐりと頭を擦り付けてくるケルベロスを撫でてやると、月が負けじと擦り寄ってくる。
「つもる話は後にして、まずは世界に朝を取り戻さないと」
えへん、と小さく咳ばらいをして両手を開く。
そして魔力を放出するイメージで手を前にさしだし、本の背表紙を撫でる。
ゆっくりと指を滑らせると、そこから現れた鍵が俺の手に収まる。
「封印の鍵……」
ケルベロスが言うなり、その鍵は大きさを変えて杖となった。
「レオ、こっちへきて」
「え!?お、俺?」
「光を呼ぶにはレオが必要なんだ。それに、俺の目になってくれないと、朝が来たかはわからない」
「わ、わかった」
呼べばレオはすぐに俺のそばに来て、俺と一緒に杖を握った。
本とカードは浮き杖は片方の手で持てばいいので、あいた手でレオの背を撫でる。
「───汝の在るべき姿に戻れ、ダーク、ライト」
そう告げるとふわりと温かい風が撫でて、通り過ぎていった。
レオは一瞬だけ息を飲んだと思えば、震える声を吐き出す。
「ライトとダークがカードに戻って、闇が晴れてく……また朝がくるみたいに、ゆっくり光が差し込んできて……すげえ、綺麗」
「そう、それはよかった」
そっとレオの背から手を離すとわずかに身じろぐが離れていきはしなかった。
「!?……本から光がっ、なんで……?」
「これから俺がかける魔法を待っているからだ。言ったろ、レオ。カードにこの先を決めさせる」
「!」
魔力が充満していて、目に見えずともカードが俺のまわりを廻っていることが分かった。
一歩レオから距離をとり、杖と共に前へと踏み出す。
そばには守護者が居る気配がした。
「の創りしカードよ 汝の願う在処を選べ」
「我が魂と魔力ある限り その命を灯し続く」
「───星の祝福を」
言い終えて、宙に祝福のキスを贈ると、空気が震えた。そして風を切るような音と共に髪の毛が舞い上がって、天高くでぱぁんっと弾ける音がした。
魔力の粒が降り注ぎ、自然の中に還るように溶けていくかに思えた。
だけど俺の身体にはその魔力が戻ってくる感覚が分かり、笑みを禁じ得ない。
「ふふ……そんなに、俺が良いのか」
「そうだ。あるじ───全て思い出したぞ」
「このアホたれあるじ……!」
ぴとーっとくっついてくる守護者もさることながら、カードたちは再び俺の手の中に戻って来たのだ。
「「我ら、カードおよび守護者一同、永劫この星を求む」」
俺を選んだ彼らは誓いを立てるように額を俺の両手へと押し付けた。
ああ、もう……、予想していたつもりで、出来ていなかった愛だった。
「おうおうおう、どう落とし前つけてくれるんだあ!?俺たちが苦労して集めたカードを独り占めしちまったポッと出糸目弟よう~~!!!」
「やめんかザップ。そもそもお前は大して苦労してないだろうが」
「ただ文句付けたいだけでしょう」
とりあえず世界は闇にのまれることなく、再び朝がやって来たそうなので、俺は事務所の中でブレックファーストティーなるものを振舞われることになった。
そして水を得た魚のように俺をイヂメにくるザップさんに、ガクガクと身体を揺さぶられて頭をかき混ぜられるのをワハワハと笑って受け入れる。一時は獣のように俺の様子を窺ってたが、どうやら警戒は解けたようだ。
ちなみに月とケルベロスには控えるように言ってあるので、月は部屋の隅にいるだろうし、ケルベロスは俺の膝の上に顎を乗せて床に座っている。
「でもこれで、カードを全部封印してっちに決まったことだし、あの災いも起こらないってことよね?」
「ああ、『一番好きな人の記憶』?あれはクロウ・リードが次世代の主選びに作ったルールですからね。選定も審判もそう」
K・Kさんが安堵の声を上げるのに対し、苦笑いであのルールの話をする。
ケルベロスもなんとなくわかっていたようで、やれやれとため息を吐いていた。
「一応、選定と審判は可能だったはずなんだけど───そもそも本の封印が解けたのはレオに交じった俺の魔力が反応したから、ややこしいことになったんだと思います」
「なんだお前のせいじゃねーかングァ!」
「黙って。でも、どうして最後の最後までカードを集めにこなかったの?わかってた口ぶりだったよね」
ザップさんの悪態が潰えた。なにが起こったんだかはわからない……。
「……カードの人を好きになる心を自由にしたかった。わがままですけどね」
「人を好きになる心。たしかに、それは自由であるべきだ」
「はい……生まれ変わったら俺は『』ではない。それに誰が誰を好きになるかは、その時になってみないと分からないのです」
クラウスさんの大きな気配が動き、温かさを感じる。
何人かが同意するように頷くが、一方で否定するかのように疑問を抱く気配もあった。
「もう一人の俺が消滅したのも、この俺が光を手放したのも、好きな人たちの為に動いた結果だし、そうでなければカードとこうして再び出会うこともなかっただろう。本の封印が解かれるのは誰かほかの人の可能性もあった」
「え?……え??」
レオの素っ頓狂な声がしたので、何だろうと思って首をかしげる。
「ちょっと待ってくれ、もう一人の君ってなんだ」
「しかも消滅……と言いませんでしたか?」
「───聞いてないっ、どういうことだ」
「まさか魂を二つに分けたんか!?」
スティーブンさん、そしてツェッドさんの指摘が入ったが、そこに突如飛び込んでくるのは月とケルベロスである。クロウ・リードが魂を二つに分けて転生し、エリオルと父さんだったことを知っている彼らにとっては容易く想像できることだった。
「あー…………うん!そう!」
「ものすっごく雑にまとめたなオメー」
ザップさんがギシリ歯を慣らす音がしたのでそっちの方向にニンッと笑いかける。
レオ、そしてケルベロスと月は前世から地続きと言っても良いほど変わってないであろう性格に慣れてるので、疲れたように、そして納得いかないとばかりに震えた溜め息を吐く。
周囲の全く理解できませんと言う顔……は、見えないけど、戸惑う気配を大いに感じた。
「でも、一連のことで俺はクロウ・リードのようにはいかないと身に沁みたよ……」
ふう、と肩を落として、自分に対してやれやれと首を振る。完全にでかい独り言だ。
エリオルたちみたいに別人として生きるほど割り切れなかったし、俺はどこにいようと、ただ一人の俺でしか在れなかった。
ここで再び、夢で見た旧友の言葉───わたしと同じようにすることはない、といわれたことを噛みしめる。
彼はかつて、俺が新しいカードの主となる未来を見ていた。そして心から、そうあってほしいと願ってくれた。
でも俺は必然に任せたつもりで、結局カードがまた俺を選んでくれることを願ってしまった。
「───そんなわけで、今回はほんとにお騒がせしました。皆さんにも星の加護があらんことを」
「え、ちょ、んわ!待って」
話をシメて立ち上がる直前、レオにはハグをして顔のどこかにぶっちゅうとキスを贈る。距離感をちょっと誤ったから歯をぶつけたが、そんなことを嫌がる兄ではない。
「よく考えたら不法入国・不法滞在なんだよねえ~俺」
「気にするところそこですか……!?」
「言われてみればそうだな」
歩き出せばケルベロスが脚にぶつかりながら道を先導してくれて、月が俺の手を引く。
「それは、その、我々がどうにかしよう……!」
「急いで帰ることないじゃないっ?クラっちやスカーフェイスがなんとかするわよ」
「そうだよ、ゆっくりしていきなよ」
「待ってくれまだ聞きたいことが」
「お、お帰りですか?え、窓から……?」
オロオロ引き留められている気がするが、俺の最も大事な心配事は一つ。
「───朝食のホットケーキが待ってるので、これで」
...
ハアハアッ!か、書きたかった話これです……(息切れ)登場人物おおすぎて発言が追い付かない!
月の『最後の審判』というワードから、そっち系のイベントを模索して「祝福」がいいな、星の祝福とか……って思ってたらさくらちゃんがフィギュアになってるのを知って世界観ド一致しました。
生まれ変わったら別人という認識、主人公は何度も口にしているけど実はそんなに適応できていなくて、結局前世も今世も、もう一人の自分も「俺」なんですよね。本人の特性上仕方ない気もするし、それだけ強い個体という意味でも良い気がします。
この後記憶を消したことをチクチク言われるけど、そんな中主人公に会いに来た月の勝ち取った運命に価値があるので、これでいいのだって言い張る。
さくら側との再会がかけたので、次はリボーン側もちゃんと再会したいですね。いつになるかわからんけど。
Sep. 2023