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いっそ卒業式は男の格好で出ようと思う。髪を切りに行くためぶらぶら歩いてたら通りすがりの公園に人が結構集まってて、なんか見せ物でもあんのかなーと思って覗きに行くと、モデルが撮影してるってだけだった。そのモデルは黄瀬。アッ興味ねーわ。
「桃っち!!!」
公園出てこうって思ったのに、呼び止められて振り返る。ピンクの髪の毛なんかしてるばかりに、黄瀬に見つかっちゃったよ。
お前仕事中なのに俺呼び止めるなよ。
ガン無視して去ろうと思ったけど、黄瀬が追いかけて来たらギャラリーに囲まれかねないので一応近づいてみた。
「奇遇っスね!遊びに行くの?」
「髪切りに行く」
「へ〜、どのくらい切るんスか?」
お前あっさり世間話始めたけど、休憩中なんだろうな?
「ショートカット。ばっさり行く」
「え!?うそ、失恋でもしたんスか?」
「俺が失恋?馬鹿言うな」
ひぃ!と非難するように驚いた黄瀬の肩をぱしんと叩く。
「そーだ、一枚写真撮ろうよ!」
「なんでだよ」
「だって勿体ないっス!記念記念!」
「いいけど」
返事したら黄瀬はぴゅーっと走って携帯をとって来て、俺の肩をぐっと寄せて自撮りしようとした。え、ツーショット?
「まてまて、なんでツーショットなの」
「だってよく考えたらオレ、桃っちと写真撮った事ねーっスもん」
「こんなにギャラリー居る所でツーショット撮ったら、他の子にも強請られるだろ」
「あっ、じゃあ奥入ってよ!関係者ってことにしたら大丈夫っスよね」
なんだこいつ、アホなのか?職場に友達をちょくちょくホイホイ入れるなよ……。あっ、こいつ友達俺くらいしかいないんだった。
ぐいぐい引っ張られて結局、進入禁止区域に入れられて、機材とか車とかがある方に連れて行かれた。
「あれ、黄瀬くんその子誰?」
「友達っス!髪ばっさり切っちゃうらしいから、その前に写真撮っとこうと思って〜」
スタッフのお姉さんがきょとんと首を傾げて俺と黄瀬を見比べてた。
「ばっさり切っちゃうの?随分伸ばしたでしょこれ」
「あー、三年くらい?」
腰にシザーバックみたいなのさげてコームとかスプレーとかが飛び出てるから、ヘアスタイリストなのかな。
当たり前のように手が伸びて来て、さらっと俺の髪の毛を撫でた。
オイ黄瀬、どさくさにまぎれてお前まで触るな。
「ほら、ツーショット撮るんだろ」
「撮ったげようか」
「あ、どーも」
この空気が面倒なので黄瀬をせっついたら、お姉さんが立候補してくれたので黄瀬の携帯を渡す。
黄瀬はちょっとかがんで俺の顔の近くまできて、肩を抱いた。
「いくよ〜」
お姉さんの合図の後、カシャっというシャッター音が聞こえた。
確認してって言われたので携帯を二人でのぞくと、仲良さそうな感じで寄り添ってる男女。知らない奴が見たらカップルじゃん。顔寄せるし肩抱くし。
「ほれ、撮ったんだから解散しよ。仕事しな」
「今ちょっとトラブっちゃってて、待機なんスよ〜。桃っちは美容院予約してるの?」
「してなーい、適当にばっさりがっつり切ってもらえれば良いやって思って、安い所行く」
「うっそ!?信じられないっス……あの地味に意識高い桃っちがそんな……」
地味に意識高くてすみませんねえ!
「で、なんでトラブったの?」
「今日一緒に撮る予定の子が来ないんスよ〜。三十分遅刻っス」
「その子ね、急性虫垂炎で運ばれてっちゃったらしいよ」
お姉さんは事情が変わったことを教えてくれた。マジか〜。そりゃ辛いなあ。
「え、じゃあ他の子来るまで待ち?」
「だね〜」
「あ、いっそ桃っちで良いじゃないんスか?」
なんか嫌な予感してたけども!黄瀬このやろう!
こういう時なんか、こう、当たっちゃうんだよなあ〜。
やだよって一応断ってみたけど、お姉さんも黄瀬も俺の事みとめてくれちゃうし。喜んでいいのか悲しんでいいのか……。
「大丈夫だよ桃っちなら。経験者でしょ?」
「経験者って……一回だけだよそんなん」
「なになに、何の話?」
「桃っち、小学生のとき一回ソルトに載ったんス」
「え〜そうなんだ!」
お姉さんノリノリ!ていうか、雑誌の名前聞いてすぐ分かるんだ〜。さすが業界人だなあ。
二人して編集長さんの所に連れてくし、その人が当時ソルト発行してる所で働いてた人だったらしくて、俺の事覚えてるって言うし!!!そういう運命ってこと!?
「あのときの子ね!?覚えてるよ、桃色の髪の子なんて珍しいからねえ」
ひぃ、俺のヒロイン力恐ろしい……!
ほんと、あの、俺なんて素人ですから。桃色パワーなだけで、実際普通の顔だと思うしぃ!これから髪の毛切る予定だしぃ!お姉さん「髪なら撮影終わった後私でよければ無料で切ってあげるよ!元美容師だから大丈夫!」とか言うな!無料という言葉に弱い俺は若干つられる……。でもでも、撮影つかれるからやだもん!
「おねがい桃っち!オレもう待つの飽きたし!なんだったら今日ご飯おごるっス!」
「ギャラも出すよ〜」
「やります」
……つられた。
なんだよ、一般人が急にモデルに抜擢って、どこの二次元ですか。やっぱりここ二次元なんですか?でも俺はもう女装しないんだからね!中学からも女装からも卒業!モデルに始まりモデルに終わる……!……ん?そのためのハプニング?そういうのホント要らない。
にこにこ、きゃはきゃは、可愛い子ぶって笑うの疲れました!
「で。どういうカンジのショートにする?」
撮影が終わってバスの中で、お姉さんもといミナさんが鏡越しに笑って問う。俺の隣では黄瀬が見学してる。
「んー黄瀬くらい。黄瀬より短くてもいいです」
「ベリーショートいっちゃう感じ?まあ、顔ちっちゃいから似合うと思うけど」
俺顔ちっちゃかったの?あんまり意識してなかったなあ。
「男に見えるように切ってくださーい」
「いいのね?いいのね?」
「うんうん」
華麗なイメチェンに見えるだろうけど、もはやジョブチェンな。
ミナさんはちょっと笑いながら、でも神妙な様子で俺に確認をとった。ショートカット似合わない〜とか女子みたいなことは心配してないから。そもそも男だから、ショートカットが普通なの。短髪になりたいの。シャンプーはスースーする奴にしたいの。
「あ〜〜〜オレが泣きそう」
「ばか」
とりあえずばっさり、じゃっきん!と髪の毛を切ると、黄瀬が顔を覆った。女子か。
ふわー首がすっとするぜ。
「こんな感じでどう?」
「ん、大丈夫。ありがとうございまーす」
鏡で後を確認したら、ホントにスッキリした。
「ちょっ、桃っちマジで男みたいじゃん!どうすんの!?」
「何でお前そんな慌ててんの……」
どうすんのってなに?どうしたいの?
毛は払ってもらったけど、なんかチクチクする気がするので自分でも首をぱぱっと叩いた。
黄瀬は途中から、え?こんなに切っちゃうの?マジ?みたいな感じで茫然としちゃってて、ようやく我に返ったと思ったら凄い慌てようだ。うるせえ。
あと、黄瀬は同じクラスで、体育を共にしたにもかかわらず、俺の事を本気で女の子だと思ったままだったのか?紫原くんは多分知ってたよ?話題にはしてないけど。
「もしかして、桃井ちゃんって男の子?」
「ウン」
ミナさんが若干驚きながら俺に聞いたので、頷いた。
「えぇぇえ!?!?オレ聞いてないっスよ!」
「一緒に体育出てただろーが……男のジャージで」
卒業式の日の朝、男子の制服で大輝を迎えに行くと、おばさんに吃驚された。でも、あっさり「髪切っちゃったの?でもさっぱりしてていいねえ」って言われた。あげく、あとでおばさんと写真撮ってねって頼まれた。女装とかどうでもいい感じ?
大輝もちょっと驚いてたけど、こっちが本当の姿なんだから、戻ったのか的な顔されただけだった。
なんか、うちの家族と大輝の家族は、俺がどんな格好しても動じないな。いいんだけどさ。
学校では、廊下を歩いている所まではそんなに視線を集めてなかった。何人か顔見知りを見つけたけど、びかっと目を見開いてたり、二度見してたり、「えっ桃井!?」みたいな声が聞こえたくらい。……うん、十分目立ってたかな?
クラスに入るとさすがに、ざわっとして注目を集めた。二年連続同じクラスだった女子とか、席が近くてよく喋った男子とかがさっとやってきて、「男だったの!?」ってなった。まあ、体育出てたしなあ……と皆こっそり納得してるハズ。女だって言ったことないし。
「おはよう」
「おはよう赤司くん」
赤司くんは早く来ていたけど答辞を読むだろうから不在で、生徒が集まったギリギリの時間に教室にやってきた。それで、俺を見てもあまり驚かずに挨拶をする。そしたら、手がすっと伸びて来て、俺の頬を滑り髪の毛を撫でた。なんつう手つきだ……。
「髪、随分短くなったな」
「ウン」
とりあえず頷いておいたけど、甘い雰囲気醸し出さないでくれます?もう俺男なんで。いや、女の格好してても出さないで欲しいけどさ。
式中、テツくんを群れの中で見つけた。クラス順に並んでるから、目を凝らせば俺でも姿が確認できるのである。ヤッタネ。
ただ一切こっちを見るそぶりは無かったし、俺は早いうちに退場しちゃったし、ホームルームが終わって外に出たら凄い人混みで、テツくんをもう一回見つけるのは難しかった。
俺はつるまないとはいえ、女友達が多い方だったし、男の格好をして来たってことで、記念撮影を頼まれる事が多かった。それを遠くで見ている、過去俺に告白して来た男子達の何とも言えない顔にちょっぴり罪悪感。ゴメンネ!
そしてやっぱりテツくんは見つけらんなかった……。あっちが一方的に俺を見つけててショック受けて一人で帰ったっていう可能性も無くはないけど……そこまで弱くない……よね?多分。
大輝も黄瀬も赤司くんに呼ばれてたからいつのまにか消えてるし、しょうがないので俺は一人で帰る事にした。
テツくんはいつか試合で当たったときに会いに行くことにしよう……。先延ばし先延ばし。正直ね、合わせる顔がないって怖じ気づいてる。
とりあえず、俺は中学校も女装も無事卒業しました。めでたしめでたし。
end.
テツくんとの再会はそのうち。とりあえず中学編できりがよかったので一旦終了。桐皇編とか、IF誠凛進学編とか、かけたら良いなあと思います。
桃井さん、本当は観察能力つけて、『女のカンよ』ってやらせたかった。お、おぅ、ってなる。
June 2015