V sign.


Knock on Wood.

うちの学年に、モモイさんっていう、可愛い女の子が居るらしい。可愛いっていうか、美人系?しっかり顔を見た事はないんだけど、桃色のロングヘアーで、身長も女子の中では高くて、スレンダーだった覚えはある。モデルの女の子達と体系的には似てるかなって感じ。

二年生になって、噂の桃井さんと同じクラスになった。
クラス替えの貼り紙を一緒に見ていた子が、「涼太くんとクラス違う!ショック〜」とか「桃井さんが居るじゃん!」とか言ってたから、クラスに入る前から桃井さんと同じクラスなのは知ってた。オレ、別に桃井さんに興味とかないんだけどなあ。
なんか、オレが桃井さんと付き合っちゃったらどうしようって心配されても困る。居るんだよね、人気者同士で勝手にカップルにしてくる人って。それで桃井さんの方が勘違いしてきたらどうしよう。まあ、美人らしいからお近づきになるのは嫌じゃないけど、でも嫉妬とかされるのは嫌なんだよねえ。
なんて、考えながら教室に入った。桃色の髪の毛って結構目立つし、おまけにデカい紫の髪をした人と喋ってたから教室に入った途端に桃井さんを見つけた。デカい人はバスケ部の人だった気がする。
オレはその後同じクラスになった女の子たちに囲まれてHRまで時間をつぶしていたけど、桃井さんがその輪の中に入ってくる事は無かった。なんだ、お高い感じの人?

関わる気が無いならそれでいいやって思っていたけど、新学期早々の席替えで、桃井さんが隣の席になった。
初めてまともに顔を見てみたけど、美人とか可愛いとかじゃなくて、全体的にきちんと整ってる感じ。桃色の髪の毛とか、明るい表情とかが華やかに見せてるんだと思う。まあでも、クラスに居る女子での中は一番綺麗で目立つと思う。
そんな桃井さんが気さくな感じで一言挨拶をしてきたからオレも返した。
「よろしくっス、桃井さん」
あ、やべ、名前呼んじゃった。知ってるって事で勘違いされたらヤだな〜って思ってたら、案の定「あ、名前しってたんだー」って言われた。でも、嬉しそうに色めき立つんじゃなくて、力の抜けるようなへらっとした笑顔を浮かべてる。
「俺も黄瀬のこと知ってるよ、モデルなんだってね」
「え、あ、はいっス。桃井さん可愛いって有名だし」
この人今自分のこと『俺』っていった?っていうか初対面で女子から呼び捨てにされたのって初めてかも。あ、でもファンの子って勝手にキセリョとかリョウタって呼び捨てにしてるか。それにしても苗字は珍しいかも。って思いつつ褒めないようにしてたのに褒めちゃったけど、気にした感じもなく「ま、髪色も目立つ方だしねえ」と笑っていた。

桃井さん、もとい、モモちゃんが体育の時に男子のジャージ姿で参加してきた時はマジでびっくりした。他の男子もびっくりしてたけど、先生に許可もらってるっていう言葉に、とりあえず納得するしか無い。
そのあと紫原くんとしゃべりだしたので、オレはさりげなくフェードアウトしてた。モモちゃんと一緒に居ると、視線が集まるんだよねえ。あ、でも体育の時間は女子居ないか。っていうか女子の間でモモちゃんはなんて思われてるんだろう。一人だけ男子の体育まざって、変に思われたりしないのかな。
あとでモモちゃんのこと知ってるらしい子に聞いてみたら、一年の時もそうだったけど本人には理由聞きづらくて聞けないって言ってた。

モモちゃんを、内心ではもしかしてオレに近づきたいって画策してるのかもって疑っていた時期は微妙に続いた。
体育の授業でペアを組もうって誘って来た時もそうだったけど、調理実習の時に真剣な顔で「手、繋いでてくんない?」って言われた時はドン引きした。
「は……、なんで?」
「黄瀬の戦力がワーストツーだからだよ!」
ぎりぃっと歯を食いしばって嫌な顔されてるけど、ぶっちゃけオレと手を繋ぐって相当価値あることだし。
オレたちの班は、男子がオレしか居なくて、女子がモモちゃん含めて四人居る。まあ、五〜六人の班編成だから人数は良いんだけど、男女比率おかしいよね。あーオレと同じ班になれる子を少しでも増やすってことかな?とか思ったり。
「黄瀬くんは料理しなくていいから、モモちゃん抑えてて」
「へ?」
班のリーダーの中田さんが言った。他の二人は苦笑してて、モモちゃんは力を入れすぎて変な顔をしたまま両手を差し出している。なんでモモちゃん贔屓してんの?オレとくっつけたいの?そんなに真面目じゃないけど、これ一応授業中じゃね?と思いつつ、モモちゃんと向き合って両手を繋いだ。なんだこれ。

実習中、先生は何も言わなかった。何人かクラスメイトがナニアレって顔で見てきたけど、班員はなんか事情知ってるみたいだし、モモちゃんの手がぶるぶる震えてるし、何か気味が悪い。
「うえぇぇ……うごく〜〜」「黄瀬!掴んでて!掴んでて!」「だ、だいぢゃぁん"……」とか言ってる。掴んでてって言うけど、モモちゃんの腕は俺の手から逃げたがる。なんなんだこれ、と思ってたらするっと手が離れて、モモちゃんはキッチンに向かってった。
「っあー!!!モモちゃん!だめ!だめ!!!」
「まって!それ塩じゃなくて砂糖!!」
「火強めなくていいからぁ!」
班員が嘆きながらモモちゃんにストップかけてるのを、ぽかんとしたまま見つめた。
出来上がったのは紫色の液体と、真っ黒コゲになった物体だった。全てモモちゃんの所為だったんだけど、中田さんに「抑えておいてって言ったじゃない黄瀬くん!!」ってオレが怒られた。
モモちゃんは長い髪の毛が床につくのもいとわずに土下座して、呪詛みたいに謝ってた。

興味本位で食べてみたらしい人がずしゃぁって倒れて、その人を抱き起こしながらモモちゃんが「死ぬな!紫原くぅぅぅん!」と泣きそうになってるのを背に、オレや事情が気になる一部のクラスメイトは中田さんと先生から説明を受けた。
曰く、モモちゃんは自覚有りのメシマズらしい。何かしら失敗するし、アクシデント起こるし、わかっていても違う行動をとってしまうんだとか。マジ意味わかんねーけど、出来上がった物体と、ぶるぶる震えていたモモちゃんの様子を見ていたオレは納得せざるを得なかった。
なんかもうこのあたりで、モモちゃんに裏があるのかもって疑ってたオレは居なくなった。
裏が無くても変だしね。



end.

桃っちまぢリスペクトっス(笑)する前の黄瀬くん。
仲良くなった後の視点もやりたいけど、高校生になってからでもいいかな。
July 2015

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