EndlessSeventeen


君は僕のトランキライザー(リドル視点)

目を開けると、ぼんやりと霞んだ。悲しくもないのに泣きそうになって、起き上がろうとすると力が入らずベッドの中にうずくまった。 のところへ朝食を持って向かわないとと思っても体が重たかった。
僕は熱を出してしまったようだ。
どのくらいぼうっとしていたかわからないが、ようやくベッドから降りる気力が湧いてずるりと足をシーツから出すが、触れるもの全てに違和感を覚える。気色 悪い。床にひたりと足の裏をつけると酷く冷たくて、ちくちくと痛む。これは少しではなくかなり重症なのかもしれない。

生きていた中で熱を出したことは何度かあるし、そのときは自分でおとなしく眠っていた。寂しくなることもあったかもしれないけど、それは耐え抜いた。
でもどうしてもこういう日は不安で寂しくて悲しくなる。心細くて、シーツを握っていたけどベッドから立ち上がるために手は離した。

ずるずると引きずるように足を動かし、なんとか顔を洗う。鏡を見てみると、少しだけ赤い。冷水に浸し冷えた手が気持ちよくてぺたりと頬にあて、目をきゅ うっと瞑った。
朝食を食べる気が起こらなくて、ドアに手をかけて動きを止めた。食欲がないのもあるけれど、動くのが面倒で食べるのも面倒で考えるのも面倒だった。

ため息を吐き、ベッドへ戻ろうとした瞬間、部屋のドアのノックがされた。

なんだ、こんなときにと思いつつドアを開ける。

「おはよう」
「なん、……で」

目の前にいたのは だった。


なんでと呟くのが精一杯で、それで僕の意識は薄れた。目の前に が見えたから安心をしてしまったのかもしれない。


目が覚めたらベッドに眠っていた。
額に乗せられた塗れたタオルが視界の端に写り、手をかけると少し暖かくなっていた。ず、とずらすと視界がクリアになって首を少しだけ動かして見渡すと の部屋だった。ふわりと香るのは のにおい。 のベッドだからだ。

「……おきた?」

部屋のドアが開き が入ってくる。


……あの、僕」
「風邪。季節の変わり目だから」
「ごめんなさい」
「なんであやまるの?」
「迷惑を」
「そんなことない」

上半身を起こした僕の近くに座る は、手に持っていたトレイをベッドの脇に置いた。

ゆっくりとした喋り方の は、シーツごしに僕の膝を撫でながら笑った。

「それ、なあに?」
咽の痛みがあり、あまり喋れないから端的な言葉になるけど は嫌な顔せずに僕の言葉を聞いてくれる。
「これは『おかゆ』だよ」
「……?『おか、……』?」
聴きなれない言葉に首をかしげるともう一度 は呟いた。
皿を手に、スプーンでかしかしといじくりながら は一口分掬った。

「俺の国の料理」
の国の……」
日本の料理みたいだ。台所を借りて作ったらしい。

「口あけて」

ふうふう、とスプーンに息を吹きかけ冷ます動作のあと、スプーンをこちらに向けて言った。


最初は自分で食べると言ったけど は僕が腕を上げるのもつらいと見抜いていたようで、すばやく寝かせ、背中にたくさんクッションをいれて少しだけ起き上がらせる形を作っ て僕の口元に食事を寄せた。有無を言わさない の行動に僕は抗うことはできない。でも決して嫌ではなかった。 は僕の嫌なことはひとつだってしない。

が作ってくれた料理はおいしかった。薄味で暖かくて柔らかい。咽が痛くても食欲があまりなくてもさらさらと食べられた。脂っこくないか らお腹にも優しい。
満腹になって、少しだけ眠たいなと思ったのを はいち早く察知して、僕の額に濡らし直したタオルを乗せて、ベッドを整えた。

「いいよ、ねむって」
ぽんぽんと胸の辺りを一定のリズムで叩きながら眠りを促す

瞼が重たくなってきた。
でも視界が暗くなって音が遠ざかると少しだけ怖くなった。




「ん?」
無意識に呟いた声に は返事をした。僕の口元に耳を寄せて聞き取ろうとする気配。

「そばに、いて」
「うん、わかった。おやすみ」
「おやすみ……」

僕の言葉に はすぐにうん、と言った。そして、僕の手をきゅっと握った。


不思議とそのときから体が軽くなって、眠たくなって、何も考えなくなった。
不安も悲しみも寂しさも苦しみも全て消えた。
の手の温度が僕に伝わって、それとどうかするように僕の熱も下がっていくようだった。

2010-09-22