僕と
は今日ホグズミート村に来ていた。
クリスマス休暇中なので生徒の姿はなく、ホグズミート村の住人達や一般客の姿がちらほらと見える程度。凍えそうな寒空のしたで白いと息を吐き出しながら
と2人で歩いていた。
今日は僕の誕生日だからと
が先生に許可を取って連れ出してくれたのだ。
折角の誕生日なのだから、部屋にこもっていないで遊びに行こう、と。
「寒いね」
「うん」
寒いねと呟いた
は鼻の頭を少しだけ赤くして微笑んだ。僕にとってはその微笑みは春なんだけど、外の気温は如何せん真冬でぶるりと震える。
コートやマフラーをしていても、身が縮こまるような寒さだ。
「どこか店に入ろう。それで行くところを決めよう」
「そうだね」
近くのカフェに入り、僕たちはやっとぐるぐる巻きにしていたマフラーも重たいコートも脱いで身軽になった。ほっと息を吐いて指先を暖めて、温かい飲み物を
注文した。
そういえば、
が厚着しているのを見るのは初めてだ。
彼は滅多に外に出ないからいつも薄着で出歩いていて、少し外にでるとしても、あまり上着を着ない。
黒いコートとネイビーブルーの手袋と白いマフラーをぼんやりと見つめていると、
は僕の名前を呼んで首を傾げていた。
「どうしたの、じっと見つめて」
何かおかしなことでもあったのかと眉をひそめる
に、僕は素直に思っていることを伝えた。
「厚着してるの、初めてみたなって」
「まあ、外には滅多に出ないからね」
「ちょっと出るときでさえコートなんて着ないじゃない」
「重いのは嫌い」
さらりと零れてきた髪の毛を耳に引っ掛けて、
は僕の向こうを見つめてくすりと笑った。その時に丁度飲み物が運ばれてきて、この話は終わった。
重いのは嫌い。その言葉が少しだけ胸に引っかかった。どこまでも自由で何にもとらわれることの無い
は、きっと枷が嫌いなのだ。動きづらくて、面倒くさくて、手間がかかるから。
僕はきっと彼の枷の一部だ。
もしかしたら枷にすら慣れていないかもしれないんだけど、と複雑な思いを抱いた。邪魔にはなりたくないけど、なんとも思われないのだとしたらそれはとても
悲しいことだ。
それから僕たちは少しだけ店を回って歩いた。悪戯専門店や、魔法道具専門店、書店や雑貨屋などを見てまわる。何も買わなかったけど、
がとなりで一緒に見てくれているのがとても嬉しくて、楽しかった。
「何か買ってあげるのに」
「ううん、この間クリスマスプレゼントまでもらったんだもの、いいんだ」
「クリスマスプレゼントはお互いにあげあったじゃない」
からはピアスをもらって僕は毎日つけている。今日も耳に
の眸を同じ色した宝石がきらりと光っていた。今まで生きていた中で最高のクリスマスプレゼント。ちなみに僕がクリスマスに
にプレゼントしたのは懐中時計で、よく転寝をして放っとけば何時間でも眠り続ける
を起こすものだ。
食事の時間や、気温、
の具合などを考慮して起こしてくれる。
「2つもらって1つしかあげてないんだから、何かあげたいのに」
「でも、僕はあまり欲しいものは無いんだ」
それに、
にはいつも幸せな時間をもらっている。
君がいれば、僕は毎日が神様からのプレゼントだ。
しいて、言うならこの時間が欲しい。
が傍にいるこの時間を閉じ込めて永遠にループさせたい。
ぴたりと足を止めた僕に気付いて
も足を止めた。学校に帰るこの道が、長く長くなればいいのに。
「
」
正面から抱きつくようにしな垂れかかる。
のコートに額をとんと乗せて、白い吐息をゆっくりと吐き出した。コートの中に手を入れて
を抱きしめると、
は両手をポケットに入れたままコートで包み込むように僕を抱きしめ返した。
「冷えちゃうよ?」
「あったかい」
「そりゃ、コートの中だもんね」
頭の上の唇がもそもそと動いて、温かい吐息が地肌を這った。
ぴったりと密着して、
の温かさを少しだけもらう。
「このまま、ずっといられたらいいのに・・・」
小さく小さく呟いた僕の一番の願い。
は何も言わない。
「あ、雪だ」
「?」
顔だけ上げると、
も上を向いていた。
空は灰色で、白くて冷たい雪がふわりふわりと降って来た。きれい、そう思って
と空を見上げていたらふいに
がこっちを向いた。
「ずっと、いられたらいいのにね」
がそう呟いて、僕の米神にちゅっとキスを落とした。
一瞬だけ見えた表情は、優しさの中に寂しそうな悲しそうなビターなものがほんのちょっとだけ混じった綺麗な笑顔だった。
唇が離れた後は体も離れて、僕たちは雪で凍えないよう足早にホグワーツへ帰った。
君が居て、僕が居て、世界があって。
僕は今、幸せです。
2011-12-31