すきま風を迎えに
物足りないって言うのかな。俺たちはずっとそれを感じていた。
繋いだ手の間に、何かがあるはずだったんだ。
のばした手の先には、誰かがいるはずだったんだ。
遊びに行くぞと走っても、一度後ろに戻って、誰かを迎えに行くはずだったんだ。
それが、何なのか、誰なのか、俺たちはわからなかった。
幼いながらに、ただわかっていたことは、俺たちは双子じゃないってこと。いや、確かに双子だけど、一人足りない気がするんだ。ママや兄たちにこぼしてみても、きっと見えないものが見えるのねと流された。
見えないものは、見えないさ。俺たちがどんなに目を凝らしたって、待ち望んでる誰かが居ないんだよ。声も、温度も、形も、なにもないんだ。
俺たちは、抱き合って泣いた。ぎゅっとくっついているのに、間に誰かが欲しいって思うなんておかしい。半身だけじゃ足りないんだ。おかしいんだよ。君が居ないと。
君は、いったい誰なんだい?
目に見えない、確証のない違和感は年をとっても変わらなかった。十歳を過ぎた頃、時々夢を見るようになった。二人とも同じ夢ばかりみて、きっと前世なんじゃないかなんて話し合っていた。兄弟たちにも親にも友達にも秘密。俺たちだけで、それを共有した。
夢の中で俺たちは三つ子だった。一人足りないのは君だったんだ、って思った。でも名前がわからなくて、顔が見えなくて、声が聞こえないんだ。わかることは、俺たちの間に居てくれたってことだけ。
それだけでも、大収穫なんだけど、少し知ったらもっともっと知りたくなった。
徐々に見えてきたのは、壮絶な人生だった。俺の?あいつの?あの子の?客観的であり主観的であり、夢とは曖昧なものだった。めくるめく流れて行く誰かの人生を事細かにみた。あの子は死んだ、俺たちを双子にするべく、死んだのだ。その夢を見た朝は、涙が止まらなかった。
彼がしてくれた最期のキスは、きっとおやすみのキスだったんだ。
だって、おやすみって声が聞こえた。初めて、聞いたんだ、あの子の声を。相変わらず顔がどんなだったかなんて思い出せないんだけど、君の存在は覚えているよ、忘れないんだよ、まぎれも無く俺たちは魂を分け合ったひとつのものなのだから。
いつか、きっと顔を思い出してみせるから。
いつか、きっと迎えに行ってみせるから。
いつか、きっと腕を引っ張り上げてみせるから。
「「ビルー」」
「おお、フレッド、ジョージ迷子にならずにこられたか」
「迷子?何言ってるんだいビルったら」
「冒険なら既に済ませてあるよ」
ビルが研究室に缶詰状態だから差し入れを届けてとママに言われて俺たちは大学に来ていた。くるのは初めてだけど、べつに二人で行けばどんなにわからない場所でも冒険できる。
地図をみてどうやって遊びながら向かおうかとわくわくしながら二人で知恵を出しよる。こういう時面倒だから早く用事済ませようよというあの子は居ない。たとえ居ても、冒険に連れ回すんだけど。
「ははは、二人は一番世渡り上手そうだな」
「「まあね」」
「ビル、プリンター詰まってたから用紙引っこ抜いたんだけ……ど」
ビルがくすくす笑うから得意げにのけぞったけど、その時ちょうど物陰からひょこりと人が出てきた。見知らぬ顔、聞覚えない声なのに、胸が高まって俺たちは何も考えずにぎゅっと互いの手を握りしめた。お前もそう思ってるんだな、とひっそりと確信をする。
「ああ、、悪いな」
「うん。……弟?」
「そ。フレッドとジョージ。差し入れのパウンドケーキがあるからもどうだ?」
「あとでいただく。ありがと」
ハロー、二人とも。
とちらりと視線をよこしたきりまた奥へ行ってしまって結局声をかけられなかった。
という名前にどうしてか覚えがある。親戚にも友人にも居ないはずの名前なのに、覚えている。
きみは、いったいだれなんだい。
『俺も一緒に行かなきゃ駄目?』
駄目だよ、俺たちは三人で一緒なんだから。
『眠い……』
もう、いつもそのまま寝ちゃうんだから、ってば。
『俺も、二人を守るよ』
ばか、本当に守って死んで行くなんて、ほんと、ばか。
のばか。
フレッド・ジョージ・・ウィーズリーは三人で一つ、三つ子の悪戯仕掛人じゃないか。
ピースが埋まった。
君はこの世界に居て、俺たちの心の中に居て、きっといつか真ん中に来てくれるんだろう。もやが掛かっているように見えなかった顔も、聞こえなかった声も、全部全部思い出したよ。だから、早く俺たちのところへ帰ってきて。でも君は面倒くさがりで、それでちょっぴり臆病なところがあってこられないんだろうから、俺たちが迎えに行くよ。
転生版の双子視点です。
フラグ回収です。シオンで一瞬、ビルを訪ねて大学に来たフレジョに会っているという旨が書いてありますし。フレジョの記憶とかをちょっと考えてみたんで。こんな感じです。毎度どちらの視点なのかわからないのは仕様です。フレッドの方がどちらかというと活発でジョージは若干大人というか紳士?な印象なんですけど、同じ考えってことにさせていただきました。あとこれ四周年記念リクエスト募集でハルジオン番外をお願いされましたので書いてみました。転生版の続きをとのことでしたが、続きっていうか……続き?じゃない、んじゃないかなって所です。
ビル視点も書いてみようかと思ったんですけど、落ちが思いつかないのでやめます。
以前ブログで妄想語ったときには親世代たちと主人公が仲良しって設定だったんで、それもいつかお話にしたいなって思ったり。期待しないでおいてくださいね。
(ライトさま)
リクエストメールありがとうございました。返信はさせていただいていますが再度お礼をと思いこちらでもメッセージをしたためさせていただきます。
ハルジオンの感想ありがとうございます。書かないかもって言っておきながらなんとなくビジョンが見えやすいお話だったのでこのような形で番外編を追加いたしました。
独断でフレジョ視点で書きましたが、大丈夫でしょうか。もしこのようなネタをとお思いでしたら拍手からでも送ってください。
再度検討させていただきたく思います。
ライトさまのお心にかなう作品であることを祈ります^^
よろしければまた感想くださいませ。
Sep.2012