harujion

keep silence

03

「こんにちは、新八くんいますか」
仕事の無い平日の昼間に万事屋を訪ねて来たの手には差し入れと思しき菓子屋の紙袋をが下がっており、新八以外の二人はその袋を目にとめるとあっさりと家の中に入れた。
「で、新八に何か用か?」
「いえ、一応、局中法度に決められてたんでなんとなく優先してみただけです」
土方の作った局中法度45か条に追加されていた『第46条 万事屋憎むべし しかし新八くんにだけは優しくすべし』を素直に実行したらしいは、新八の頭を軽く撫でた。こんなに素直に優しくされることがなかったので、例えただ従っているだけだとしても恥ずかしく、新八は照れながら身を引く。
前半の万事屋にくむべしを実行しないあたり、いちおうもただ従うというわけではないようだ。
「そういえば、お前アフ狼の隊になったんだって?」

「なんで知ってるんですか?」
お茶をすすりながら小首を傾げたに、三人はすぐに答えられずに互いの顔を見合わせる。
斉藤からお礼の手紙が来たと同時に報告があったのだが、その内容が些か問題であった。敵である桂と友達になることは諦め、喋れなくとも良いと自分の口べたな面に折り合いをつけた斉藤であったが、やはりまた新しくやってきた部下が気になるようで、日々の思いを綴ってあったのだ。普段どちらも口数が少ない故に、柱に感じた真新しさはなかったようだが一緒に居ると落ち着くだとか、けれど何を思われているのか気になるだとか。まるで片想いしてるようにうじうじと。
「もしかして斉藤隊長ですか」
「あ、お、おう……まあな」
手紙を見せろと言われることはなかったが、どうして欲しいのかとは素直に聞いて来る。
「お前アフ狼のことどう思ってるアル?」
「どう?……どうとも。上司なので」
「普通そんなもんですよね。あ、でもほら、無口で接しにくいとか、そういうのは?」
「仕事に支障はないですよ」
は具体的に質問に答えてもらえなかったことを気にしていないのか、神楽や新八の質問返しにも普通に応じた。
粛正対象にはならないだろうが、この二人が仲良くなることはなさそうだな、と誰もが感じた。
の件は具体的に斉藤に依頼をされていた訳ではないけれど、万事屋の面々は子供の仲を取り持つような感覚でいる。
「つまり、斉藤隊長はもう少し人と親しくなりたいと?」
「大まかに言えばそう言う感じですね」
「でも喋れないので無理じゃないですかね。俺は別にこのままでも嫌いになったわけじゃないし、怯えて距離とるわけでもないし」
「交換日記でもしてやれば良いアル」
「あ、それ良いんじゃないですか?斉藤さんも手紙なら色々書けてましたし」
ほんのりと面倒くさそうにしていたは、はあまあそれでいいなら、と万事屋を去って行った。

しかし実際の交換日記は通常通りには行かず、は殆ど筆を執ることは無かった。曰く、口で言った方が早い、と。
なのでは、斉藤の日記を読み返事があれば日記を返すついでに口で返事をしている。それではなんだか可哀相だからといって『見ました』という判子も押していた。
その説明を受けた新八はおおいに突っ込みたかったが、お茶を奢ってもらってしまったのでに対して強く言えなかった。
そもそも、の対応は普通よりも良いものだった。桂のように斉藤を貶めることはなく、他の隊士のように敬遠するわけでもない。ちょっと面倒くさがりではあったが口を開けばまともで穏やかな人間である。そこで新八は、そういえばあのアフ狼の方が問題なんだった、と今更なことに気がついた。
「あのう、つかぬ事を聞きますけど、斉藤さんに歩み寄るつもりは?」
「隊長がそう望んでるなら応えるつもりはあるけど、段々日記ですら言葉が少なくなってるから俺から何か言っても意味ないかもよ」
すっかり敬語がなくなっているあたり、は人との壁は薄い。
斉藤の話の種が尽きただけなのかもしれないが、もしかしたら文章ですら語れないくらいに緊張してしまったのかも、と新八は察する。
「正直さんから歩み寄ってもらうしかないかもです。ああでも返事がないしなあ」
「まあ別に、急ぐこともないし、何か大きなことをする必要もないんじゃない」
とくに動く様子は見せないは、隣で団子を飲み込んだ後にお茶を啜って、あたたかい息を吐き出しながらのんびり達観した。
「上司と部下だから友達がどうとは言わないけど、出来る限り傍にいよう」
黒目がちな瞳が優しくとろけたのを見て、新八はもう何も言わないことにした。
周りがとやかく言わずとも、なりに斉藤を見ているのだ。

数日後万事屋の三人は立ったまま寝ている斉藤を遠目に見かけた。
三人が斉藤に声をかける前にがやってきて斉藤の腕を引いて歩かせていく。
まるで小さな子供のように手を繋いで歩いて帰る後ろ姿を、皆どこか晴れやかな顔で見送っていた。





銀魂の世界観ってどうやって書いたらええのん……難しかったです。
斉藤さんのおててを引きたい人生でした。

沖田さんと主人公は仲良くもなく悪くもなくで、沖田さん的には調教しがいの無い部下。落ち着いてて容赦ない所は評価してる。一番隊(切り込み担当)としても良い線行ってなくもないな〜という印象ですかね。
でも、桂の件で冷静だったとか、斉藤さん連れて帰って来たとかの理由で異動が決まりました。
もしかしたらお世話された斉藤さんがきゅん()とした末の引き抜きかもしれない。
Dec.2015