harujion

Last Memento

Mello

ワタリの後継者だと紹介されたアシュリーは僕よりも色が薄くて、ニアよりも色のある金髪をしていた。ニアはどちらかというと銀髪かもしれない。まあとにかく、普通の西洋人といった感じの子供だった。
一つ年上らしくて僕よりも身長が少しばかり高い。笑顔はあまり浮かべない無表情なヤツだったけど、話せばそれなりに表情は動くし、時々零す微笑は柔らかくて優しい。
頭も悪くないし、雑務は得意だと聞いたので、ワタリにぴったりだと思った。
僕がLになったらアシュリーが補佐をすることになるのだ。うん、悪くないな。
マットとも仲が良くて気が合うしあいつも僕の次に成績がいいけれど、一応ライバルだ。その点アシュリーは他のヤツらとは一線を画している。あらかじめLの後継者候補じゃないと紹介されたからかもしれないけど。

彼はのんびり屋で、睡眠に対してがめつい所はあるが、それ以外特に欠点が見当たらない。
ああ、しいていうなら、ニアに甘いところは気に食わない。
あいつは人付き合いが悪くて、自分の事を自分で出来ないことが多い。ほとんどパジャマのまま過ごして外にも出て来ない。そんなときはアシュリーがニアのパジャマを着替えさせてる。結局着替えもパジャマだけど。
一緒にジェンガをやってたときは、周りの奴らもびっくりしたもんだ。

「おい、何やってんだよ」
「昼寝です」
僕はソファでうたた寝をしてるアシュリーの上に乗ったニアを見下ろした。
お前は昼寝なんてしてないだろ。
「どけよ、アシュリーが眠れないだろ」
「とっくに眠ってます」
アシュリーのお腹の上に頭を乗せているニアに苛立った。
「メロの所為で起きたらどうするんですか、あっちいってください」
「こんな所で寝てたら風邪引くかもしれないから起こしたっていいんだよ」
眠らせてやれと言ったり起こすと言ったり、頭に血が上って矛盾していることを言ってしまった。
「じゃあ私が起こします。メロだったらアシュリーに噛まれるかもしれません」
「はあ?」
ニアの言っている意味が分からず顔を顰めた。
アシュリー、起きてください」
「あれ、寝てるのかよ?アシュリー」
ゆさゆさとアシュリーを揺さぶるのを見ていると、マットもこちらにかけよってきた。アシュリーの寝顔を反対側から見下ろして楽しそうにしている。
「起きませんのでこのままでいましょう」
ニアはあっさり諦めて、またお腹の上に戻った。
「おい」
「あ、俺起こし方知ってるぜ」
僕が文句を言おうと思ったところで、マットが遮った。どういうことだと、僕とニアはマットの方に視線をやった。すると、マットはアシュリーの頬を両手でぺたりと抑えてから、顔をかぶせた。
「「あ!」」
がばっと顔をあげたマットはぺろりと唇を舐めて、口をあんぐり開けて固まった僕たちを見た。
「こうすると目を覚ますって言うだろ?」
「お前はゲームのやりすぎだあ!」

「マーット」

そのとき、地を這うような声がした。
僕はマットの襟を握りながら、声の方を見る。口元を拭いながら起き上がったアシュリーの姿がそこにあり、僕が怒られているわけではないのに、ひっと声が漏れた。
初めてアシュリーが怒っている所を見た。いや、怒ってるというか、本気のお説教って感じだった。
マットはアシュリーに拳骨をくらい、頭を抑えて踞っていた。自業自得だ。


誰もがこのことを子供同士の戯れとして片付けていたけど、あれ以来昼寝中のアシュリーにマットが近づくとニアがアシュリーを必死で起こそうとするようになったし、僕もマットが何かしないかつい構えてしまうようになった。
寝こけてるアシュリーは、のんきなものだ。
暇になると本を読むか寝るかで、今日も今日とてソファは昼寝中のアシュリーに占拠されていた。腕で顔を覆っているので寝顔は見えないけど、能天気な顔をしてるに違いない。
髪の毛をそっと撫でてから、揺すり起そうとしたところで、もぞりと腕が動く。手をひっこめようとした途端にアシュリーに掴まれて阻止された。
「!?」
そしてアシュリーは僕の手を顔の方に持って行ったと思ったら、ぺろりと舐めた。それだけじゃなくて、口に含んで、あむあむと甘噛みをした末にちゅっと吸う。
「〜〜〜っ!?!?お、おい、アシュリー!」
手を口から引っこ抜いて肩を揺さぶる。
「ん、ん?」
身体を引っぱり起こすと、アシュリーはうっすらと目を開けて、僕の顔を見た。そして、すんっと匂いを嗅ぐ。瞼は重たそうにすぐに閉じられた。
「ぁ、」
「え?」
アシュリーは口をぱかりと開けて、僕の口元に食いついた。まるでおやつを食べるように、はぐはぐと顎の辺りを噛まれる。
「わあぁあ!アシュリー!起きろって!」
ちょっと唇を舐められた。
心臓が直接掴まれたみたいに痛い。
キスとは言わないけど、口と口がくっついてることには変わらないだろ。
ようやく目を覚ましたアシュリーは、僕の顔の噛み跡を見て、ごめんと謝った。

顔を洗いながら、僕はようやくニアが噛まれると言った意味が分かった。
そして、それから数日間僕はチョコレートが食べられなかった。

アシュリーの欠点を一つ追加する。
……寝起きが悪い。