03
は野崎に頼まれ、早速モデルをすることになった。堀もついて来ると言うので部活が終わった後で野崎の家へ向かい、野崎が準備した服に着替えた。それはレースがふんだんにあしらわれたネグリジェで、ファンからのプレゼントだそうだ。
今度の表紙ではマミコがネグリジェで寝転がっている構図にしたいらしく、床に布団を敷いて準備をされた。
「これ……普通の女子には頼めねえな」
堀は布団に寝転がるを見下ろして呟いた。も同感である。
男性モデルは御子柴がつとめてくれるが、女性モデルの宛はないし妙な光景が出来上がるのが気まずくて、野崎は今まで写真集やポーズ集と想像で補って来た。
「本当に助かる」
「いえ、いいですよ」
周知させたくない割に、顔色一つ変えずに素直に女装をしてポーズをとるはある意味役者だった。
を描いている野崎をよそに、堀は背景を描く仕事をしていたのだが、しばらくして野崎が戸惑い気味に掘に声をかけた。
定規とペンを持つ手を止めて顔を上げた堀の視界には、こちらを向いている野崎と、その向こうに寝転がっているの素足が見える。もともと体毛が薄いの足は女子と見紛う程に小綺麗な肌をしていて、アングルによっては艶かしくうつる。
「どうした?」
「本当に寝ちゃったんですけど」
の図太い所は姉にそっくりだった。
しかし縮こまって大人しくすやすや寝息を立てている当たりは可愛らしいもので、もし姉であった場合は大の字になってモデルにはなれなかっただろう。
「あー、こいつすぐ寝るからな。揺らせば一応起きると思うが」
「もう描き終わったので先輩が帰るころに起こしましょうか」
「悪いな」
「いえ」
猫のように心地良さそうに眠るを、野崎は起こすに起こせなかった。さすがなでしこと呼ばれて噂になるだけはある。地毛ではないが黒くしなやかな長髪がやけに似合っていて、半開きの小さな唇は可愛らしさと色気を醸し出している。堀もその様子をみて再度、自分の目に狂いはなかったと思うのであった。
が惰眠を貪っている間に、野崎の部屋には御子柴がやってきた。帰った筈だったが忘れ物をとりにやってきただけであり野崎と御子柴はどちらも悪くないのだ。それにはまだぐっすり眠っているので起きないと高をくくっていた。
「は?え?お、おんな!?」
「あーうちの後輩で、野崎にモデルを頼まれてな」
「ってこいつ、なでしこじゃないですか」
「なんだ、御子柴も知ってるのか」
「まあ、演劇観に行ったんで」
鹿島と仲が良い御子柴は、鹿島の相手役をつとめるなでしこの存在を知っていた。もちろん素性は知らないし、放課後に会ったことはなかったが。
演劇部の部長である堀の存在により、関係性は見えた。また、仕事を手伝っていることを内緒にしている堀は御子柴が来たと知りすぐに原稿を片付けてあるので、あくまでの付き添いのような体で居る。
「なんでそんな流れになったんだよ……それにこいつもよく了承したな」
御子柴がまじまじと見下ろした時、はぼんやりと目を開けた。ゆっくり身体を起こし、倦怠感を惜しみ無く出しながら寝ぼけた目で御子柴をみているは一向に口を開かない。
「おこしちまったか?眠り姫、そんなに無防備だと攫われちまうぜ?」
「……」
咄嗟に甘く気障な態度をとってしまった御子柴を、はぽかんとして固まる。ゆっくりと瞬きをしている間に照れ始めた御子柴を、野崎と堀は何をするでも無く見守っていた。本来なら見知らぬ人物の前では照れた様子は見せないようにしているが、ここには逃げ場は無い。自分で言ったくせに逃げ腰になりつつある御子柴に第一アクションを起こしたのはで、腕をそっとのばして赤くなっている頬に触れてゆるく微笑んだ。
「あなたの声で目覚めました、私の王子さま。心配ならずっと手を握っていてください」
演劇部で堀にヒロインのノウハウを叩き込まれ、鹿島のセリフを聞き続けていたは寝ぼけた頭のまま、しかし寝起きにも関わらず美しい声色を作って御子柴に応じた。
御子柴はその所為で面白いくらいに狼狽えて野崎の後ろに隠れて真っ赤になってしまう。一方は首を傾げてから堀の姿を目にとめて自分が野崎の家で眠っていた事を思い出したようであっと声を漏らした。
「寝ぼけていました」
「さすが演劇部だ、なでしこ!」
堀は何故か感動しきりで、野崎は若干あっけにとられており、収集がつかなくなっていた。
結局御子柴はと目を合わられないまま忘れ物を掴んで逃げるように帰り、は寝起きなのに正体がバレなくてよかったと内心ほっとした。
「あの人なんだったんだろう」
ぽつりと呟いたに、堀と野崎は何とも言えない視線を送った。
それから数週間がしてから、は部活が休みだったためにまた野崎のところに顔をだすことになっていた。今度はセーラー服を着て欲しいのだそうだ。しかし買い物に行くから遅めで良いと言われ、約束の時間あたりに野崎のマンションへ行くとちょうど野崎と佐倉が荷物を持って帰って来る所だった。
「あ、くん!!」
結月の友人である千代は当然自身のことも、女装して演劇部に所属していることも、こうしてモデルをしていることも知っていた。
「おかえりなさい、急いで帰って来たんですか?」
「いまみこりんが来てるの!上の都さんの所で待ってるって」
「え、御子柴先輩?」
「俺たちが迎えに行ってくるから、先に家行って着替えておいてくれ!」
「あ、はい」
御子柴には女装していることを言っていないため、野崎はに鍵を託した。セーラー服は佐倉から譲り受けている為手に持っていて、鬘も持参しているため先に部屋を借りられれば問題は無かった。
セーラー服に着替えたは御子柴達が一向に戻って来ないことを疑問に思い、様子を見に行く事にした。
都という表札を確認して、インターホンを鳴らすと、佐倉が出てくる。
「あ、ごめんねくんほったらかしで」
「いえ、なんかあったんですか?」
佐倉の後ろの方を見る為に首を傾げると、半裸の御子柴が見えて、は瞠目した。御子柴は慌ててシャツを羽織ったが、その後ろに居る真由は半裸のまま堂々と座って都のモデルをやっている。
なんとなく状況が分かったけど全く意味が分からないな、とは目を細めた。
説明されたは都が漫画家である事を知り、自身も野崎のモデルを頼まれていることから真由と御子柴が半裸である事に納得したが、御子柴は未だ人見知りがあるのか、納得された事に納得していないのか、そわそわしている。
「急にお邪魔してすみません」
「いえ、いいのよ」
真由を描き終えていない為に何故だか上がって行くことになったは、家主である都にぺこりと頭を下げる。
「セーラー服ってことは、学校は違うのかしら?」
「いやモデル頼まれてて……」
「えっ」
ちょっと羨ましそうにする都。あいにく都は野崎以上にモデルの宛がないので、瞳の輝きはおさえられなかった。
「ワンポーズだけなら……いいですよ」
野崎との約束もあるし、都の為にやってもにメリットがなかったが、あまりに純粋に見つめられて、の良心が疼いた。
「じゃ、じゃあどっちかに後ろから抱きついてほしいかな」
喜んだ都は真由を描き上げたあと、要望を述べた。遠慮のないポーズに、御子柴はビクゥっと震える。にとっては同性なのでどちらでもいいが、見るからに相手側がどっちでもよくなさそうだったので一択で真由に歩み寄った。
「失礼しますね」
「はい」
ワイシャツを着直した真由に後ろから近づき、指定通りに抱きつくと肩に頬が乗る身長差だったので頭をあずける。
「俺も描かせてもらっていいですか?」
「うん!っていうかごめんなさいね」
「いえ。真由、まわって来た腕に手を添えてみてくれるか」
野崎まで便乗し、真由もも無感動な顔をしたまま要望に応える。
「なんでお前ら平気でやってんだよ!」
御子柴のまともな突っ込みに返すものはその場に誰一人いなかったが、千代は少し気持ちがわからないでも無いなと心の中で同意していた。
例のフリッフリなネグリジェを着せられる主人公です。
みこりんは恋ではなくて、すっごく恥ずかしいょふぇぇって思ってます。でもいつまでたっても主人公に慣れられないから仕方なく男だってバラします。漫画でもマミコが男装女子にドキドキしかけたけどなんだ女の子だったんだ☆ってなる。
若とは同級生ですが、……接点はあまりなさそうですね。姉つながりで顔見知りかもしれないけど。
続きは特に考えてません。セーラー服着せられる主人公が書きたかっただけです!あと真由くん好きです!
Aug.2015