コナン 爆処組(?)

ハッピー爆弾××魔


足元にある"もの"を見下ろした。

こういうのは、総じて人気のない場所に、さも当たり前のように置くものだ。
人気のない場所、といったけど、これが周囲に与える影響は強大。
たちまち、ここと上下のフロアはいくつか消し飛ぶことになるだろう。
それも、ドカン───という騒音をもってして。
文字通り、静かに消えてくれるような優しい代物ではない。

これは爆弾である。

多大な熱量と衝撃を放ち、対象となる物体や生物を破壊、殺傷する。多くは軍事目的の兵器として扱われる。あとは政治的な目的を達成したいがため暴力によって脅迫する、いわゆるテロリズム思考の攻撃手段。
ものものしい事例を挙げたが、ここは戦地でも訓練地でもなければ、政治的に重要な建物でも、そういった機関でもない、高層マンションだ。
しいていうなら多くの人間がいて、その一人一人にきちんと価値があって……だからある意味テロ行為にはなるんだろう。
そもそも、爆弾を置くということは、なんであろうと大義あってのことだ。全身全霊の殺意と、愉悦と、恐怖と、快感を伴う行為だ。
僕自身も抱くその、快感を逃がすように震えてため息をつく。

この時限爆弾のタイマーが0になった時、たくさんの人が死んで、建物が壊れて、周囲に被害が及んで、後片付けに多くの人員を割き、金が使われ、傷跡の修復に時を要し、人々の心に癒せない傷を負わせる。ま、そこまで考えてないで爆発させる、短絡的思考の奴もいるが。
僕は、違う。細やかに、被害を思い浮かべて舌なめずりする。感傷にも浸る。

なごり惜しむかのように、爆弾を指先で撫でた。無機質なくせに大きな殺意を孕ませたこの子が愛しい。
「こわしてあげるからねえ……」
思わず上ずった声が出る。
いけない、いくらここが人気のない場所だとはいえ、めちゃくちゃ怪しい人じゃないか。
僕や爆弾が見つかって通報されたら、これからのお楽しみが台無しになってしまうもの。

一度冷静になって、姿勢を正してから向き合い、さて、その絶望を───いただきます。



一仕事終えた気持ちで、エレベーターに乗って、マンションのエントランスまできた。
すると下には警察が多くきていて、マンションの住民だったり、近隣住民だったり、通りすがりの人だったり、あとは報道関係だろうかカメラなんかも集まっていた。
あれ?もう通報されてたんだ。僕、誰にも会ってないんだけど、発見者いたのかな。

防護服を着込んだ、おそらく警察の機動隊たちが、ぞろぞろと入り込んでくる。
「避難勧告出てますので、落ち着いて外に出てくださーい」
制服の警官が、エレベーターから出てきて戸惑ってる僕をどかそうとした。
きょとんとして警察の出動に驚いている風だったから、混乱させないように平淡な勧告だった。そっと背中を押し出されるようにして距離をとった。
爆弾がしかけられてるんだって、10億円を要求してるとか、って話も聞こえてくる。みんな、どこか他人事だった。
「あっ」
僕はふいに足がもつれて、機動隊の群れのそばに躍り出た。
そこでぱっと目に付いたのは防護服を身につけてない若い男だった。
「おにーさん!」
「はい、……え?」
「だめだよ!!!」
僕は反射的に、隊員の群れの中の彼を引き止めた。
この隊員たちは警察を示すロゴのついた防護服を着ていて、つまり、いわゆる爆発物処理班の人たちだ。でも彼は違う。
「なに、さも機動隊風に行こうとしてるの!?そんな軽装で!!」
「エッ、アッ」
「警察のお仕事邪魔したらダメじゃないか!」
「ハイ!」
お兄さんは僕の剣幕に、反射的にだろうけど返事をした。
僕は常日頃から爆弾と接する機会があり、なおかつ警察が出動したあかつきにはしれっと逃げ出しているため、目につくような行動はとりたくない。警察の邪魔をするというのももってのほかだ。
「───……あ、えーと、きみね……」
「おつとめご苦労様です!!!」
「ど、どうも……」
防護服に身を包んだ隊員が、戸惑いながら僕に何かを言おうとしていたけど、僕の口から咄嗟に飛び出した挨拶に返事をして口を噤む。
僕はこんなでも、爆発物を処理する隊員をはじめとする、全警察官に対して、敬意を持っているのだ。
「彼は僕が責任持ってここにとどめておきますので!」
「あ、うん、よろしくお願いします」
「え、え、ちょ、ちょっ、おいおいおい!!!」
隊員さんは僕の正義感に満ち溢れた顔を見て、苦笑していた。
うふふ、僕もたまには世間のためになることをしてみたかった。普段欲望に忠実に、好き勝手に生きてるからなあ。
お兄さんはどうしても爆弾のところに行きたいんだろう、しがみつく俺の腕の中でさめざめと泣く真似をする。
それにしても、他の警察官たちは何をしてるんだ、彼はもしかして、公務執行妨害というやつではないか。
「これ以上邪魔したら、逮捕されちゃうよ、めっ!」
「……っ、ぁあ〜〜〜……」
とうとう暴れなくなり、途方にくれたお兄さんをマンションの外の、野次馬がいるよりも少し離れたところに連れていく。
この人もきっと、僕と同じで、好きなんだ……爆弾のことが。
「お兄さん、爆弾のところへ行きたい気持ちはわかります」
「え、あ、はい」
手を取って握る。
「この手でシたいよね」
「っ、」
爪の短い指先だ。見ればわかる、きっとたくさんの爆弾を取り扱ってきたものだって。やっぱりこの人は僕と同じなんだ。
きゅうっと両手同士を祈るように握りしめた。
うっとりして見ちゃうなあ。この手が爆弾に触れるの……見たかったかも。
自分では爆弾を取り扱うけど、普段人が爆弾を取り扱うところなんて見ないからね。
「その薄着も」
「……はい」
「もし爆弾を解体している時に、第二、第三の罠が出てきて、解体した途端違うところの時限装置が始まったり、それとは関係なく唐突に爆発するかも……あまつさえ、どこかで誰かが見ていて手動で起爆スイッチを押されたりする可能性がある───」
僕がつらつらと並べ立てたのは、今までの経験談から。
ついでにいうと、この高層マンションの爆弾にも、遠隔操作で起爆できる設計が搭載されている。
「!」
「そんな時、こんな薄着で解体してたらひとたまりもない。……それって」
「そ、それは……」
「ゾクゾクしますよね」
「へ?」
「そういう性癖はわかります、でも警察の仕事は違いますから。お仕事してるんですからね、この国を守るために」
「性へ……え、ちが、……ハイ」
痛いほどわかる……!とぎゅっと握りしめて警察の邪魔をしたらいけないことを再度目を見て告げたら納得してくれた。
よかった、同じ性癖を持つ同志を見つけられた喜びと、彼がこれ以上警察の目に付いてしょっぴかれないことに安堵した僕はするりと手を解いた。

そのとき、彼の携帯電話に着信が入った。
僕がにこにこ笑ってどうぞと言ったので彼は電話に出る。
「あ、陣平ちゃん」
『……暢気な声。解体は終わったのかよ、こっちは終わったぜ』
なにやら大きな声で話されているので、わずかに内容が聞き取れた。
「あ〜……なんというか、えー……」
彼は僕を気まずそうに横目で見た。
「一般市民の誘導にあたってる」
『は?……なんだってお前がそんなことになってんだよ』
早く自分の仕事をしろ!と電話口で怒られているみたい。仕事中みたいな口ぶりのわりに、友達との会話みたいだけど。
きっと分かってくれただろうし、僕はお兄さんに手を振ってさようならの挨拶をした。
お兄さんも苦笑して手を振って、何やら電話口で言い訳をしているようだった。
警察官がたくさんいたここで、あまり長居するわけにもいかなくて、僕はそそくさと人混みから外れた。
途中、交通事故があったのかパトカーや救急車が来ていて、道路の妙な位置に車が停まっていたり、人混みがあったりと変な雰囲気だったけれど、興味もないので一瞥するだけにとどめた。

さて。
家に帰って───今日の爆弾"解体"日記を書こう。

今年に入って米花町に越してきて、僕が見つけた爆弾の数は10件、だいたい月1回くらいのペースだ。そのすべてを僕は無力化した。
基本的に爆発物を開いて全て見て、爆発だけはしないようにして、また元どおりにする。あわよくば、爆発すると思われる場面まで眠らせておいて爆発しないという結末を、爆弾を置いた人物に知らしめることを目的としているため、密かにその行為に勤しんでいた。
つまり僕は、爆弾によって得られると思い込む功績、報酬、達成感、快感、───その全てを、台無しにしたいという欲求、爆弾を見たら解体せずにいられない性癖を持っているのだ。
人にはいえない、性的嗜好に悩んだ日もあった。
こんなことをしたら、犯罪じゃないかって……。
でも、やめられないのだ。好みのコをみつけると、ヤりたくてヤりたくて仕方なくなって、ガマンできない。
人目につかないところに引き摺り込んで、暴いて、めちゃくちゃにしてやりたい。どんな願いを込められて作られたコでも、屈服させたい。その願いを踏みにじられて、絶望してる"親"を想像したら、もう気持ちよくって……。


ああ〜、今日の子も、すごくヨかったなあ……。




ハッピー爆弾"解体"魔というトンチキな変態をかいてみたかった……。
薄着で爆弾解体したい変態くんなので、仲間意識を持たれる可哀想なけんじくん。
それを代償にけんじまぢ長生きしろよな卍卍

警察内では、爆弾物が爆発しないように手を加えられてる件が多発してることはわかっていて、不審に思っている状態。なお観覧車には先に乗っていて松田には一般市民のために命かけてくれってアチイ願いを言われてるんだけど目の前の爆弾を解体する性癖に素直なので解除してしまい、もう一つの爆弾のヒントが分からずガチ切れされてしまうも、もう一つの爆弾は既に変態くんが嗅ぎ付けて解除していたので事なきを得ます。そして松田と萩原に追われることになる変態くんという様式美。
Dec 2023