Sakura-zensen


春を満たす 07

「エース!」
「!おお、サクラ!」
エースはカフェを探し当てる前に、サクラに見つけられた。
店のテラス席でアイスコーヒーを飲んでいたサクラが立ち上がり、手をぶんぶんと振って自分の存在を知らせてくれたのだ。
「久しぶりだなあ!」
「元気だった?白ひげ海賊団に入ったって聞いてびっくりしたー」
「おう、まあ、色々あってな。お前も元気だったか」
「元気元気」
身長や髪が伸びてサクラは少し大人になったように見える。
もうちょっとふっくらしても良いと思うが、戦うのが好きらしいから、無駄な肉をつけていないというのも納得だ。
どかどか近づいて空いた席に座ると、サクラも座り直して何か飲むかとメニューを出してくれた。
「いや、おれは喉乾いてないから」
「そう」
「なあ、まだ船に乗ってるんだよな?」
「うん?うん、乗ってるよ。気安く遊びにいったらいけないって言われてさ……遠回しに声かけてごめん」
「ああ良いんだそれは。しかし、なんでマルコに声かけたんだ?いや、良い人選ではあるけどよ」
「偶然だよ。最初はもう少し船に近づいてそれっぽい船員に声掛けようと思ってたんだ」
そこでエースは、白ひげ海賊団の名を騙る男達の話と、サクラとマルコの出会いをかいつまんで聞かされた。
「へえ、そんなことがあったのか」
「エースは最近どう?」
「んー、まあ楽しいぜ。賞金額も上がってるしな。そういや、サクラはお尋ね者にはなってねえんだな」
「顔を売っても良いことないし」
「そうか?まあお前にはそうかもな。うちの船員にもそういうの居るぜ。名が売れるより顔を知られない方が良いって」
残り少なくなったアイスコーヒーを啜る音が聞こえて来る。
「おんなじタイプかもね」
「へえ。そういや、サクラと似たような理由でうちの船のってんだ。人探してるんだってよ」
「そうなんだ……ちなみに、その人の名前って……」
サクラが問いかけた瞬間、すとんと音を立ててテーブルの傍に人の気配が急に現れた。
!!!」
息を切らした、自身の船に半年程前に乗った船員だ。
戦闘力も高く、飄々としているが根はイイ奴だと思っている。わずか半年で船員達には腕を見せつけて実力を認められた。
そして、先ほどサクラに語って聞かせた賞金首にはなろうとしない男である。
知らない───否、探し人として聞いていた───名前をサクラに向かって投げかけるカカシにエースは驚く。
「カカシ?どうしたんだよ」
「先生!」
サクラはがたっと立ち上がり、カカシに向かって行く。
エースは、サクラが懐っこく飛びつき、カカシが当然の様に背中に手を回して抱きしめている光景を茫然と見ていた。

「予想以上にエースが可哀相なことになっちまったぞ、どうするマルコ」
「これは、どうしようもねえよい……」
「マルコ!?サッチ!?」
感動の再会にカフェに居た面々は口笛を吹いたり拍手したりまでしている。その喧噪に紛れてマルコとサッチがエースの傍でひそひそと話をした。我に返ったエースは二人を見て立ち上がり、何故ここに居るのかと問いかけた。
聞かなくても分かっていたが、サッチが面白がって見に来たらしい。
「どっちにしろ妹が増えんのか?」
「いや、妹じゃねえんじゃねえのかよい」
「ありゃどう見たって妹だろ……」
「おまえらなに言ってんだ?」
エースは二人の話に突っ込むしか出来ない。

サクラとカカシはすぐに離れて、戸惑っている三人に気づきカフェを出ようと提案する。
「サクラは本当の名前はっていうのか?」
「うん」
偽名を名乗っていた事に関しては、エースも深く詮索するつもりはない。赤髪海賊団でさえサクラと呼ばれていたのだから、理由があるのかもしれない。そういえば、記憶が曖昧だったという話も聞いた事がある。
「カカシとサクラ───は、同郷の仲間ってわけだな?」
「まあそういうことになりますね」
「長い事一緒だったんだけど、急にはぐれちゃって」
サッチが状況を確認するように問うと、二人はこくりと頷く。おまけにに至っては、気がついたら大鳥に捕まり飛んでいて海と空の中に投げ出されたというのだから驚きである。
「よく生きてたもんだ」
「偶然通りかかった船に助けてもらいまして!」
あっはっはっは、と軽く笑う感じは、カカシと少し似ていると思った。
「で、おまえらこれからどうすんだよい」
「ああそうですねえ。……どうしようか
「うーん、前は合わせてもらったからこっちからと言いたい所だけど……白ひげ海賊団にはさすがに入れないなあ」
前とは何の事だか知らないが、が船に乗るのは別に構わないとエースは思う。だが、白ひげ海賊団と赤髪海賊団に所属するもの同士としては、簡単なことではないと分かった。そもそも、この場でが赤髪海賊団の船員だと言う事を知っているのはエースのみなのだが。
「できればカカシ先生をうちの船に乗せたい」
「は!?」
ぽろりと零したの言葉に、マルコとサッチは当然驚いた。ついでにカカシもだ。
「いやこの場合仕方ないから言うけど、赤髪海賊団に乗ってるんです」
戦争する気はないです〜とエースの影に隠れながら言うをみて、三人は警戒はしなかったが未だ信じられないという顔をして居た。
「なんだってそんな所にいんのよお前は」
「お頭の前でおっこちたからな!」
えっへんと胸を張るに、カカシは呆れている。
「エースは知ってたのかい」
「俺が会った時から赤髪にいたぜ」
「ああ、さっき言ってた女の子ってことかよい」
マルコのじっとりとした視線を受けてエースも素直に答えた。
「まだ島に居るよね?お頭にも聞いてみるから、カカシ先生も親父さんに聞いてみて」
「わかったわかった」
「明日にでも、あらためて挨拶に行きます。お頭も多分顔を出すから、争う意志はないって伝えといてください」
話をさっとまとめるにマルコもおされて、よい……と答えてしまっていた。
じゃあまた、とサクラは走り去ってしまい、すぐに背中は見えなくなる。
「カカシは船おりんのか?」
「いやあ、……できればを乗せられたら良いんですけどねえ」
行方が分かっただけで良しとして別々の船に乗る、という結論はないらしい。

次の日、は赤髪を連れてモビー・ディック号を訪れた。
長い髪の毛を束ねて揺らし、赤髪の前を歩いている。他には船員を連れて来ては居ないらしく、本当に二人でやってきたようだった。
親父にはマルコとカカシから説明してある。カカシの探し人が見つかったこと、赤髪海賊団の一員であること、明日探し人であると赤髪のシャンクスが挨拶に来ること。一応まだを船に乗せるか、カカシが降りるかは決めていない、ということも。
「今日は、お時間を作っていただきありがとうございます」
何倍も大きい相手にも、は怯んだ様子はなく笑顔を浮かべた。
「おう、お前がカカシの言っていたか」
「赤髪海賊団の春野です」
「───カカシ、おめえも来い」
「はい」
船員達が周りで見守っている中、親父に呼ばれたカカシが歩み出て来た。
エースは自分の隊の者たちやマルコの傍でそれを眺めている。
といったな、おめえも俺の息子になりてえか」
「そんなわけ───」
「お頭」
は口を開きかけたシャンクスを制して、ぐるりとエース達の居る周りを見回してから親父を見る。
「白ひげ海賊団には入りません、俺は赤髪海賊団です」
「カカシは白ひげ海賊団だ」
「はい。だから今日はお願いがあって参りました」
何も緊張していないような顔で笑った。
正直、この時点で度胸はすげえ、と船員たちの間で言われている。
「言ってみろ」
「───この髪、はぐれてから一度も切ってないんです」
は束ねられたピンクの長い髪の毛を片腕で掴み、少し引っ張る。反対の手にはいつの間にか小さな刃物が握られていて、船員達はどよめいた。一瞬、攻撃かとも思ったが、その体勢からして殆どの連中はなにを切るかは分かっていた。
そしてその通り、は髪の毛を切って腕をおろす。
はらはらと、取りこぼしたピンクの髪の毛が地面に落ちていった。
あれだけ長い髪の毛を切ってしまうのは、誰が見ていても少し勿体ないと思うし、覚悟を見せられたような気分になる。

「───息子さんを、ぼくにください……!」

そしては頭を下げてそういった。
甲板が突っ込みの声で溢れかえるのは、その一秒後の事だった。



...

とりあえずこのセリフを言わせたかった。
髪切ったくらいで海賊抜けられるとは思わないけど、ちょっとしたパフォーマンスです。
最初は二人のポジション、白ひげと赤髪が逆だったのでそっちも書きたかったり。
赤髪と白ひげって二次創作見てると会いやすいのかと思いきや、よく考えたら海軍が慌てるし白ひげ塩対応だしシャンクスも威嚇してるし、そんな和やかちゃうやんけ(震え声)
でもこの頼み方なら親父も反対しないんじゃないかな……とか言ってみたり。

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