I am.


Adamant. 07

黒田さんが言っていたらしい『旧校舎で悪霊が大暴れした』日曜日に時を遡る。
俺は当然学校にはおらず休日を満喫していた。
魅録が久々にバイクに乗せてくれるって言うので海に行き、帰ってきて魅録の家でコーヒーを飲んでだらけていると美童と清四郎も集まって来た。
「そっちの学校はどう?女装には慣れた?」
「そういや、清四郎と悠理から聞いてるぜ、倒れたんだってな」
「逐一報告しなくていいっての」
美童と魅録は揶揄するように近況を聞いてくる。
「それは同じ学校に通わなかったが悪いと思いますがね」
「同感。俺なんて高等部からやっと入ったってのにさ」
「僕だって三年の時だから、一年もないよ」
魅録の場合は一度も同じ学校になることはなかったが、悠理の紹介で割と早いうちから顔を合わせていたし、美童は中学三年の時に編入してきて、同じクラスだった。
高校生になったらいよいよみんなで馬鹿をやるぞってなった時に俺が離脱してしまったので、多少の恨み言は受け入れてやろうじゃないか。
「ねね、そういえばの女装姿って僕見たことないんだけど、どう?可愛い?」
「悠理見てみろよ」
「でもこの双子、顔は全然似てないじゃないか」
好き勝手いいやがって……と思いながら清四郎を見る。
目が合ったけど肩をすくめて逸らされた。
「まあ、女性に見えないこともないでしょう、中性的なので」
「おいどういう意味だ」
「そんなこと言って清四郎の初恋はだってネタ上がってんだからな」
「!誰からそんなネタを仕入れたんだ……」
「えーそうなの!?可哀想」
美童は生粋の女好きなので、男にホレた清四郎を憐れんでいる。
だからって可哀想とは失礼だな、俺に。
「おばさんとこの間話す機会あって。その時に、幼稚舎の入園式であったチャンに一目惚れしたから強い男になって迎えに行くって言ったんだって?」
「「わーっはっはっはっは!!!!」」
俺と美童は爆笑して転がった。
清四郎とは悠理の幼稚舎の入園式で初めて会ったはずだが、その時俺は能力のコントロールが出来なくて通わなかった。なので、幼稚舎の入園式はかーちゃんにカワユイ格好をさせられ、見学だけいったのである。
ちなみにその時悠理と野梨子が初めて出会い大ゲンカをし、その後十年あまりバチバチしていた。
「じゃあ清四郎の初めての失恋はいつだったわけ?」
「…………初等部の入学式に決まっているでしょう」
「「わーっはっはっはっは!!!!」」
最早否定しなくなった清四郎に、再び俺と美童はひっくり返った。
そうだな、初等部から男子の制服を着用して入学式に出たものな。
ヒッヒッと腹筋が引きつらせながら、身体を起こす。美童は生き返れてない。
「そもそも一目惚れというのも僕は懐疑的ですがね。幼い子供の勘違いのようなものでしょう」
「自分の初恋にケチつけてら……いいよいいよ、俺たち一番長い付き合いの友達だもんな」
「ええ、そうですよ。だからその長年の友情を壊さないでいただきたいですねっ!」
「わるかったって!」
イジり始めた魅録は引き際を見極め、さっぱりと話を終わらせた。
「───ところで、渋谷さんのこと、何かわかった?」
「ああそうだ、今日はそのことを報告しようと思って来たんだった」
清四郎がまず調べたのは渋谷に構えるオフィスのことだ。住所自体はさりげなく校長先生に聞いておいたので俺が伝えたが、あっさりとその場所を借りている人の身元は判明した。
「SPRですよ。The Society for Psychical Research───英国の心霊現象研究協会。それも、代表者の名前はオリヴァー・デイヴィス。もよくご存じですね?」
「わ、大物~」
「そんな有名人?」
「界隈ではね」
魅録はもちろん名前なんて初耳だろうから、首を傾げた。
俺が知っているのは清四郎のオタク知識からではなく、五歳のころイギリスのSPRで検査を受けたからだ。
元々はPKによるポルターガイストとそれによる消耗によって参っていたが、ある時とーちゃんが海外に行って買ってきた土産の骨とう品に触れた途端に俺がブッ倒れたのが大きなきっかけだろう。
首を絞められ殺されそうになる幻覚を見たのだ。幸い途中で身体の力が抜けて、呼吸が自発的に出来るようになったが首には青紫の痣ができ、幻覚がただの幻覚ではないのではないかという事がありありと分かった。
何か妙なことが起こっている───そう踏んだとーちゃんが伝手で頼ったのがSPRで研究している友人だった。SPRといえばケンブリッジ、ケンブリッジといえばとーちゃんの出た大学もある。元々世界中に知り合いのいるつえー男だったが、ここに来てもつえー縁がものをいう。

そんなこんなで俺がPK、そしてサイコメトリーの能力を持っているというのはSPRで判明したことだ。
のちに出てきて有名になったデイヴィス博士は俺と同じ能力を両方もった人で、まさに親近感を抱かざるを得ない相手である。
俺がこの力を持て余している一方、彼は五十キロのアルミを持ち上げたり、誘拐された子供を探し出したりと、中々な武勇伝をお持ちだ。
「じゃあ渋谷さんってSPRの研究員なのかな」
「僕は彼自身が博士だと踏んでいますよ」
「若いけど───いや、まあ、そうか」
目の前のこの男も、数々の偉業をやってのけそうだなあ、と思ったら納得した。
そもそも清四郎がそう思ったなら、十中八九そうだしな。
「とにかく、あの事務所の大元がSPRだってわかったならやりやすいな」
「何が?」
「いや俺、高性能カメラを壊しちゃって」
「うわー」
美童と魅録はようやくわかる話になったと、テーブルに肘をついて前のめりになる。
「弁償するって言ったけど、普通の人が払える額じゃないって辞退されたんだよな」
高額だし保険もかけてある、と言われたら、普通なら安堵するところだがそれじゃ俺の気がすまない。
そもそもかけてる保険料の支払いだって彼らがしているわけなのだから。
「まあ専門家が使うカメラですから、それなりの値段でしょうね」
「へえ、見てみたかったな」
「そんなにすごいの?ただの記録用じゃないんだ」
「博士の研究は緻密ですからね」
美童は想像がつかないようだが、清四郎は肩をすくめる。
デイヴィス博士は心霊現象を、人の理解を超えた存在にはせず、科学的に証明する方法を探し続けているのだ。
だからただの研究記録用に録画しているのではなく、研究素材の採取をしていると言った方が正しいだろう。するとおのずと、カメラも性能が良いものとなる。
「それで、普通の人が払える額じゃないものを、剣菱様ならどうなさるおつもりですか?」
「寄付するんだがや!」
「だと思った……」
とーちゃんの真似をして言えば、三人はさもありなん、という顔をした。



そうして月曜日を待つが、まだ彼は忙しそうだった。
さらに翌火曜日、登校してみると朝黒田さんはHRに遅れてきて、それきりやけに大人しかった。

『一年F組谷山麻衣さん。一年F組谷山麻衣さん。事務室までお越しください───』

昼休みになった瞬間、校内放送で呼び出しをされた。
とうとう調査が終わったのかも───そう思いながら、職員や外来者の出入りする玄関の脇にある事務室へ行くと、そこには渋谷さんが立っていた。
姿を見かけて少し嬉しくなって駆け寄る。
「終わったんですか?調査」
「うん、撤収まで済んだ。昼休みなのに呼び出して悪い。放課後にまた来ても良かったんだけど」
「気にしないでください、それだと手間でしょう?」
(もっと直接呼び出してもよかったのに)
(……使いこなしてるな)
ふ、と目の前の顔が小さく笑ったように見えた。
俺の心の声が届いたらしいし、俺にも彼の声は聞こえた。
(おもしろいね、これ)
(そうか?)
新しいオモチャを手に入れた感覚、といったら変だろうか。
「───君に、提案があって」
「はい」
見つめ合ったままナイショ話に夢中になりそうだったが、渋谷さんが口を開いたことで意識は切り替わる。
「君のサイ能力───PKについて、訓練をした方が良いと思うんだが、うちの事務所に通ってみないか」
「……訓練……」
「リンがその手のことには詳しくて、君の力になれると思う。既に身体を鍛えたり努力はしているようだが、あくまで武道の専門家についているだけだろう」
俺はてっきり、テレパシーの研究でもしようと言われるのかと思っていたし、その辺が気になっていたのだがまさかPKの方を言われるとは思わなかった。まあ、日常生活に支障があるのはこっちだが。
「───そちらから、誘っていただけるとは思いませんでした」
「どうかな」
「ぜひ、お願いしたいです。あ、謝礼はいかほどでしょう」
「いや、そういうのはいい。代わりに、データをとらせてもらえるとありがたいが」
「それは構いません。じゃあ、よろしくお願いします」
時間がないので最低限のやり取りだけだったが、連絡先を交換して事務所の場所を聞いてから別れた。
まあ事務所の場所は知ってるんだが、そんなことはわざわざ言うこともないだろう。

それにしたって、こんな偶然あるんだ……。
俺はしばらく茫然と、渋谷さんが去っていく後姿を眺めていた。



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男友達出せた~。
清四郎チャンの初恋いただきました。ごっつぁんです。
Aug.2023

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