Andromeda. 03
光の家で晩ご飯食べるから一緒に帰ると言って、二人で先輩たちと別れた時も普通に見送られた。明日会うことは誰にも言ってないので当然、また明日なーとは言われなかったんだけど。次の日の待ち合わせに来るのか、俺はちょっとだけ不安だった。
約束した時のメールを見返して、場所も日にちも、時間も間違いない。
そもそも白石先輩が誘ったんだし……すっぽかさないよな。俺が昨日言ったことも、大阪戻ってきたらという白石先輩の好意をちょっとばかし無下にしたとはいえ、冗談のようなものだ。
あれくらいのことだけで、来てくれないわけがない。
数分後、人混みの向こうからやって来る白石先輩が見えて、ほっとして立ち上がった。
「よかったあ。おはようございます」
「ん?なんか怖いことあったんか?」
「いや……」
「さてはオレが待ち合わせ中逆ナンされとらんか心配してたんやな?」
ふふっと笑う白石先輩に、違いますと真顔で答えといた。
昨日のはやっぱり俺の思い過ごしだよね、たまたま手を離すタイミングが悪かっただけだ。
ウンウンと頷いてる俺をよそに、白石先輩は不思議そうな顔をして首をかしげた。
中学卒業するちょっと前に光と一緒にユニバ行ったけど、大阪ってそれ以外にもテーマパークあったんだなあ。俺がいかに地域に頓着してないということが露見します。
遊園地の入り口前でほへーと上を見た。ぶんぶん回るやつとか、びゅんびゅん走るやつとかのレールが見える。
「動物と触れ合うところもあんねんで」
「アッ、アルパカ!俺生で見たことない!」
「なら後で行ってみよ」
「わーい」
入場時にもらったパンフレットにアルパカの写真が載ってて一気にテンションがあがる。
すっごい好きってわけじゃないけど、いっとき世間でもブームになってたので見てみたい。
よく考えたら、いろんな動物はメディアを通して知る機会はあるけど、生で見るっていうのはまた違うんだよな。
まずはアトラクションを楽しもうってことでガンガン乗って、面白かったやつは何度か繰り返して乗ってたらいつのまにか昼過ぎてて、二人でお腹減ってしょうがなくなってから気がついた。
ご飯も忘れるほど夢中で楽しんでしまったと笑い合う。
要所にレストランやファストフードがあったのを思い出して地図を見ながら店を決め、少し遅めの昼食にありついた。
午後は動物コーナーまで行って、帰りにまたアトラクションいくつか乗って、お土産見て帰ろうかと計画をたてる。
二人分のトレイは食べ終えたら片手で持てる程度にまとまったので白石先輩が先に持ってたった。悪いけどトイレ行きたいし頼んじゃおうと素直にお願いして、俺は席を離れた。
手を洗って出ると、ポールのところで佇んでいた白石先輩に二人ほど女の子が付き纏っていた。おお、また逆ナンされてんのか。
「人待っとって……」
「え、彼女ですかあ?」
「いや、……あー」
そこはもう彼女いるって言っちゃえ!メールして別の場所で合流しよ!
後ろからひっそり応援していたが、たじろぐ白石先輩はきょろきょろと辺りをみた。
あれかな、俺が来ちゃったら彼女っていえないか……隠れよっかな、と思ったところで俺を見つけた白石先輩はぱあっと顔を明るくした。女の子二人組も俺に気づいちゃった。
「あ、お友達?ちょうどええんじゃない?二人同士やし」
合コンじゃないんだから〜と思いつつ仕方なく近寄る。
「すみませんけど、俺たちこう見えて、デート中なので」
うーん俺が麻衣ちゃんのままなら前回のようにしれっと断れたが今はどうみても男だ。でも、なんかしつこそうだし……と考えて白石先輩の手を取って顔の前に持ってくる。
恋人つなぎをした手の甲にちゅーするふりをして、実際は自分の爪の先に鼻先を当てた。
えっと固まった二人に肩をすくめて、ばいば〜いしてその場を移動する。
「さっと断ってさっと移動しちゃえばよかったのに」
「あー……戻ってくるし」
「そんなん、携帯あるんだからどーにでもなりますよお」
「すまんな、最近滅多にないし、油断してた」
追っかけては来ないだろうけど、ずんずん歩く。二人とも男なんでそれなりの歩幅だ。
「される方が悪いとはいいませんよ。あ、手……」
「え」
「ごめんなさい、手〜洗ったばっかだから、ちょっと濡れててキモいですよね!」
「ま、まって」
はわわわっと手をパーにしてぶんぶんしたが、白石先輩がしっかり握ったままで腕がついてくる。
「もうちょっと、離さんといて」
も、もしや……怯えている?さっきの二人はなんかえも言われぬオーラでも出てたのか。
濡れた手繋ぐの恥ずかしいな……と思いつつも、白石先輩の心の安寧を守るために手を握り返した。そしてちょうど目に入った観覧車乗り場を指差す。
「観覧車待ち時間なしだって。乗りましょう」
「え?ああ」
なんで、と言う顔をしてたが、俺はこのまま手を繋いで歩き回るのは微妙にいたたまれないので密室に逃げることにした。そこなら手を繋がなくても安心だろう。
と思ったが手を繋いだまま隣に座ったよね。
なんでや───。
「……なんか話してくださいよ」
「いやあ……めっちゃ安心するわ」
しばらく無言が続いたので、白石先輩に委ねた。
するとほうっと息をついた先輩が俺にちょっと寄っかかって来たので、俺も体重をかけ返す。
「随分苦手なんですね」
「いや苦手っちゃあ苦手やけど、ただが隣におるからほっとすんねん」
「そうすか」
あれなんか思ってたのと違う……と思ったがよりそった体を離すのはあからさまなので動かなかった。
俺は白石先輩の様子に微妙に戸惑いがあったが、会話しているうちにこの人はこういうテンションなんだと思い出した。
そうだ、前からなんだかんだ接触の多い人だったわ。手を繋いで隣に座ったくらいなんだ。
「お、もうすぐてっぺんとちゃう?」
「そうですねえ」
きょろきょろ、と周囲を見る。観覧車の一番上って正直分かりづらいよな。
止まるってわけでもないからぬるーっと通り過ぎてしまうし。
景色もずっと乗ってりゃてっぺんに来る頃には割りと慣れてしまってる。
「ん、ギャーッ!?」
握られていた手をとられ、手の甲にむにっと唇を押し当てられた。
俺はさっき、ちゃんとフリをしたのに。
「な、な、なにすんですか!」
「観覧車のてっぺんいうたらコレやろ」
「キスぅ?そりゃ、」
なんかのジンクスで、カップルで、唇同士じゃないか、と言いかけて口をつぐむ。
「せやけど唇にしたらあかんし」
「あかんわな!」
白石先輩は俺の手の上に顎を乗せてふふっと笑っている。
顔真っ赤や、と指摘されてさらにング〜となる。
「人の反応で遊ばないでくれます!?」
「ってあんま照れたところ見せへんから、もうけや」
「いやいやいやいや」
そんなことない、そんなことないだろ。
俺はここんとこ、白石先輩にとってもとっても動揺させられている。
「東京来たときだって、昨日だってねえ、びっくりしたんですから!」
「なんや全然顔出ぇへんのやな。見せてくれたらええのに」
「そんな俺を見てどうすんだよお」
途方にくれた細い声が出る。
んー、と考えるようなそぶりで視線を逸らした白石先輩は、ゆっくり俺に戻しながら困ったように笑った。
「どないしよ」
ふわっとした答えになるということは、特に理由もなくやってるのであろう行動の数々。
思わず繋いでいた手も外して両方の頬をひっぱった。
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ヒロイン()だから鈍い。けど白石先輩もまだ決めかねていた。
Sep 2018