I am.


komorebi. 03


最近新しくゲームセンターができたらしい。
同学年でテニス部の赤也とたまたま登校が一緒になって聞いたことだ。
俺も赤也も小学校から一緒で、互いの家に行き来したこともあるので、いわゆる幼馴染という関係なんだろうけど中学に入ってクラスが違うので、普段からそんなに一緒に行動するわけでもない。
「部活ない日一緒にいかね?」
「いいねー」
前は赤也の部屋でテレビゲームをしたり、時々お小遣いを握りしめてゲームセンターに行っていたので、久しぶりに遊べるというわくわく感から即答でうなずいた。
「久しぶりに麻衣のドラテクみたいわ」
「得意じゃなかった気がするけど」
「それが見てーの」
レーシングゲームでは毎回どこかにぶつかり、吹っ飛び、逆走をしていた記憶があるので首を傾げた。
どうやら赤也は俺の、金の無駄ポンコツプレーを見るのが楽しみらしい。
「……クレーンゲームは絶対にやらない」
そういえばクレーンゲームでもお金を湯水のように使った記憶がよみがえってきて、ちょっと暗い顔になる。赤也も同じく思い出したらしく大笑いしている。
「おまえシューティングも下手だったよな」
「ゲームセンターいくのやめる???」
いわれてみれば軒並み下手だったので、とうとう俺は提案した。
俺にも、下手だけどやってみたい無邪気な時期というのがあって、ゲーム自体はやるの楽しかったんだけど、少し大きくなった今はちょっと気が引ける。
「下手でもいいから行こうぜ、最近遊んでねーじゃん」
「うん、じゃあいく。楽しみ───と」
えへへーと笑っていると校門のところにさしかかり、反射的に周囲を見渡す。
「何探してんの麻衣」
「いや……朝練ないもんな」
「あん?」
今日は赤也を見る限り朝練ないみたいだし、来てないかなーと思っていたら、わざとらしく体当たりをされる。
「うお、」
「おはよーさん」
「……はよーございます」
「仁王先輩じゃないっすか、はざす!」
赤也は部活の先輩という認識があるみたいで、にこにこ返事をした。
「おまんら仲良かったのか」
「ああコイツ、家が近所なんス」
「たまたま会ったんですー」
仁王先輩はまたか、という顔をした。
同じ小学校から来てるのは蓮二くんと赤也くらいだから、もうないはず。
そのまま赤也と仁王先輩に挟まれて昇降口へ行ったが、いつもとは違って仁王先輩はあっさり別れた。
今日は多分友達といたから気を使ってくれたんだろう。
赤也は特に気にしてないみたいで、仁王先輩にぶんぶん手を振っていた。



授業に変更があり、午後が体育になることを昼休みになるまで忘れていた。というかお弁当を食べ終わってクラスメイトが着替えに行かなきゃというまで忘れていた。
体育着を詰めてきた覚えがないが、ごそごそ鞄を漁ってみると案の定なかった。
「いかん、体育着忘れた」
「え、麻衣ちゃん大丈夫?」
友達が俺の小さな声を聞きつけて、心配してくれる。
長いジャージのズボンは貸してくれたけど、さすがに半袖のTシャツはない。上も長袖着るか考えたけど、それは少し暑いからやだ。
かくなるうえは……。体育着は洗ったらすぐ持ってきて置いておくタイプの人が一定数いるはず。そうふんで、俺は教室を出た。
一番に思いついたのは今朝話したばかりの赤也だ。クラスが離れているけど一番気心が知れているので借りやすい。
「赤也~体育着かしてっ!」
「忘れたのかよ、珍しいじゃん」
前に赤也んちのおかあちゃんに頼まれて体育着持ってってやった覚えがあるので、その時の恩を返してもらおう。
ずかずか教室に入り込み、机の横のきんちゃく袋を開く。赤也の家の匂いがふわっと香ってきたので清潔であることは間違いなさそう。
「今日体育ないよね?ね?ないね!もう午後だし」
「今度なんか奢れよ~」
「前届けてあげたろ!」
ひったくるように持ち逃げして、多目的トイレで着替えを済ませた。
難を逃れたことでニコニコ笑顔で廊下に出ると、向こうから仁王先輩がやってくるところだった。
「麻衣……?」
「あ、こんにちはー」
「うぃーす」
仁王先輩の横には確かこちらもテニス部員の丸井先輩がいて、紙パックのジュースにストローを差して飲みながら歩いているところだった。
多目的トイレがある階は二年生の教室と職員室のある階で、ここは二年生の教室の階だったので会ったことには驚かなかった。
向こうは不思議に思ってるかもしれないが、わざわざ聞いてくることもない。
「次体育か。今なに?」
「バドミントン!」
「ん?麻衣ちゃんの苗字って切原だったっけ」
「……いつから赤也んちの子になった?」
丸井先輩が口にした疑問から、仁王先輩は俺の胸元の切原という苗字を心なし睨む。
「今日体育着忘れちゃってー……」
「ちょっと来んしゃい」
「え、え」
仁王先輩に腕を引かれ、廊下をずかずか歩く。教室の中にまで連れてこられて、荷物をごそごそしてるのを見守る。仁王先輩の体育着かしてくれるのかなー。今更着替えるの面倒だけどなー。
なんてのんきに考えてた俺は、頭の上からジャージをかけられて視界が真っ暗になる。
ずぼっと顔を出されたら、肩を叩かれて、仕方なく腕を通す。
「暑いよー……」
「今日はこれ脱ぐんじゃなか」
「でかいよー……」
ぐちゃーと袖をまくって、嫌な顔を惜しげもなく晒す。
仁王先輩は俺の額に軽くチョップして、ついでにボサボサになった前髪を直してくれた。
「ほかの男の体育着を着たお前さんが悪い。ほれ行け」
「はは、麻衣ちゃん体育がんばれよ~!」
「あーい」
二人に見送られて、トボトボと二年生の教室を出た。

赤也の家の匂いがする体育着に懐かしいなと思っていたのだけど、仁王先輩のジャージは当然ながら違う香りがするので、俺はすんすんと袖に鼻を近づける。
「あれ、麻衣ちゃん結局ジャージ着たんだ?でかくない?うちのじゃないよね」
さっき教室でジャージを貸すといってくれた友達に聞かれて、ジャージから顔を離す。
「あーうん、仁王先輩に途中で会って」
「彼ジャージ……!」
また仁王先輩の株が上がっている……。
ぽりぽりと頬を掻いたとき、ふと頭をよぎったのは仁王先輩の顔で、ああだからかと再びジャージの匂いを意識する。
これ、仁王先輩と一緒にいるときに、ほんのりしていた香りだ。

体育の授業は案の定、やりづらくて暑くて、そいでもって多分ちょっと、目立ってた。
明らかに男物のデカイジャージだったし、クラスメイトはほぼ俺と仁王先輩のやり取りを見てるので。
そして俺は内心、一つ年上の同性がこんなにでかくて、俺はなんでこんなチビっこいのだとひそかに落ち込んだのであった。



next.

赤也の体育着借りたのを見たブン太の小さなエピソードに彼ぴをそえて……。
ブン太とは二年でも同じクラス設定にしちゃいます……。
今回はあまり大っぴらにテニス部と関わらないでおきたいんですが、ちらほら出します。
July.2022

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