I am.


komorebi. 06


期末試験の勉強に忙しくしているある日、赤也が俺に泣きついてきた。一緒に勉強をしてくれ、と。
小学校時代の夏休みの宿題から数えて十回以上、赤也の課題、テスト、補修に付き合わされた歴史が俺にはある。
「やだ」
「そんな!!!!頼むよ麻衣ぃ!俺レギュラー入りの可能性もあんだよ、でも赤点とったら試合いけねえんだって」
「当然のことだな」
朝、玄関出たとこから待ち伏せされていた俺は赤也を引きずって登校する。
ちなみにどこからか蓮二くんも現れ、こうなると思っていたとドヤ顔をしていた。なら辞めさせれ。
「盛大な出迎えだな。……プリッ」
テスト前一週間となった今日から、もちろん部活は休止となるので朝の校門で先に来た俺が仁王先輩を待つ傍らに、駄々をこねる赤也とそれを楽しく見守ってるはた迷惑な蓮二くんが両脇に控えていた。
仁王先輩は、若干ひきつった笑みを浮かべているが、俺はもっとどん底みたいな顔をしているはずだ。
「すみませんね、悪霊つれてきちゃって」
「これ、離れんしゃい」
「ねえ~仁王先輩も麻衣と勉強するんすよね?俺も入れてくださいよー」
「は?」
彼氏らしく俺にへばりつく男という名の悪霊をシッシッと祓ってくれる陰陽師ニオウであったが、この悪霊触れた者皆にとりつくとんでもないタイプだったのだ。
「柳先輩が言ってたんすよお」
なるほど諸悪の根源は柳蓮二……達人の異名は悪霊マスターから来ていると見た。
そもそも、俺と仁王先輩は一緒に勉強しよっ!なんてお約束はしていない。それを蓮二くんが確かめに来た言う訳か。
いまだにこの人、俺と仁王先輩の関係を疑ってるみたいなんだよな……。
付き合ってるからと言って必ず勉強を共にするわけでもないのに。
「別に二人で一緒に勉強しな」
「する」
「……として、何でそこに赤也がくるわけ」
校門前でおかしな修羅場繰り広げさせないでほしい。
仁王先輩はすっかり俺と勉強する気になってるし。
「俺と麻衣と仁王先輩の仲だろぉ~!ゲーセンで遊んだじゃんか~!」
「赤也、そこに俺の名前も含めてくれ」
「はいっす!柳先輩のノートもついてくるから、なあ、頼むよ!」
赤也は蓮二くんに操られつつもしれっと、本人ではなくノートという物品のみアピールしてきた。
「───わかった、一日だけ面倒見る。赤也は柳先輩のノートを持参!場所は、えっとー」
「……はあ、……うちのクラスでよか」
「俺も行こう、赤也の勉強は麻衣一人では見られないだろう。仁王も自分の勉強で精一杯のはずだ」
「最初から参謀が一人で赤也の面倒を見ればいいぜよ……」
ごちゃごちゃ言いながら昇降口までの道を行く。
こういう時生徒数多いと、いちいち俺たちのやり取りを細かく見ていないだろうという、気楽さがあった。
近くを通り過ぎた人の視線は若干痛かったけど。


そんなこんなで、仁王先輩と俺と、赤也と柳先輩の四人で放課後教室に集まり勉強をすることになった。この日は一日つぶれたなー。
「赤也は前回のテスト結果を教えて」
「え、あーなんだっけ、英語はギリギリ赤点じゃなくて~……」
お前自分のいる立ち位置も理解できないまま俺に頼ってきたのか。
遠い目をしている俺をよそに、有能な参謀が赤也のテスト結果を回答し、その上苦手な科目と単元と、今回の目標点数まで算出してくれた。オッケー柳蓮二。
「仁王先輩はテスト勉強大丈夫です?」
「適当にやる。どうせもともと、毎日勉強するわけじゃなか」
「たしかに」
隣同士に座ってこそこそ耳打ちをし合って笑う。
「そこ!イチャイチャすんなよな!!」
「この程度イチャイチャにも入らなか。赤也はウブで困るのう」
「文句言うな、勉強しろ」
赤也が癇癪を起したので、仁王先輩と俺は冷たい目つきで返す。
ゲーセンで遊ぶのは全然かまわないが、テスト勉強に巻き込まれるのは普通に嫌なので。

なんだかんだ俺は蓮二ノートのおこぼれにあずかり、ある程度重点的なことのまとめはできた。
赤也のことだって蓮二くんが結構見ていたから、時々唸る赤也を窘めたり、おだてたり、慰めたりするだけでよかった。あ、十分手間だったな。
仁王先輩はそもそも勉強を諦めてるのか、ノートの端っこに落書きをしてたし、俺のノートにも書き込んできた。
仕返しに俺も手を伸ばして仁王先輩のノートにヒヨコを書き込みピヨッと鳴かせた。仁王先輩の謎の口癖だから。
どうやら俺の画力かなんかにツボが入ったらしく口元を押さえてぷるぷるしだし、スマホで写真まで撮られた。……かわいかろう。

下校時刻をしらせるチャイムが鳴ると、テキパキと帰り支度を進める。
赤也は帰れるのは嬉しいけど、明日からどうしたらいいのかと途方に暮れていて、仁王先輩につれなくされていた。
「明日からは俺たち抜きで頑張りんしゃい」
「なんでっすか~明日も一緒にやってくださいよお!!」
麻衣は、と赤也が俺にまで泣きついてくるので仁王先輩の後ろに逃げ込む。
諦めてもらうには、俺たちがカップルであることを強く認識してもらわなくてはならないようだ。
心の中で腕まくりをし、ゆっくり息を吸って吐き出す。
「せっかくだから、好きな人と二人で過ごしたいな。ゴメンネ」
いじらしい顔が長続きせず、最後は空虚な顔して片言で言葉を吐いたけれど、赤也はショックを受けたように固まった。ここまで言えばわかるだろう。
ところが、仁王先輩と柳先輩までしんと静まり返っている。
俺は、自分がスベったことを把握した。
「か、かえる……」
言うんじゃなかったー!俺は教室を足早に出る。顔に熱が集まってきて、顔を手で扇ぎながら廊下を歩いていると仁王先輩が追いかけてきた。
「こら、待ちんしゃい───」
一緒に帰るときは自転車で二人乗りをしているので、先行ってどうすると言いたいんだろう。
ぐいっと肩を引き寄せられると、真っ赤な顔で振り向かざるを得ない。
仁王先輩はそんな俺を見るなり驚くように目を瞠っていて、俺が見ないでーと顔を手で隠したら、その手を取って握った。
離してくれないので、駐輪場へ行くまでに、静かに熱を逃がした。



next.

芸を覚え始めたイッヌ。
July.2022

PAGE TOP