I am.


My dear. 01

「誕生日おめでとう、麻衣」
「ありがとうお母さん」
お母さんに買ってもらった可愛いサクランボ柄のワンピースを着て、俺の十一歳の誕生日を祝った。俺はまだ麻衣と呼ばれているし女の子として過ごしている。
誕生日は毎年、ショートケーキを三つ買って誕生日を祝う。三つ目はお父さんの仏壇にお供えしてからあとでお母さんと半分こするのが決まりだ。え、お供え物は食べちゃだめ?いいのいいの、お父さんはきっと麻衣たちで食べなさいって言う筈だから。遠いご先祖さまとか、知らない人にだったらうちでもさすがに食べないけど、お父さんだから良いだろ。うん。
「あら?」
「なに?」
「いま、ポストに手紙が落ちる音がして」
「ふぅん」
たちあがってポストに確認に行くお母さんを眺める。帰って来ると、お母さんは白い封筒を持って首を傾げていた。
「ホグワーツ魔法魔術学校ですって……漫画の懸賞にでも応募した?」
「え、ホグワーツ?」
それ十中八九悪戯じゃん、って思いながらお母さんから封筒を受け取って見てみると、センスの良いアンティークみたいな手紙だった。少なくとも俺の同級生たちが誕生日にポスティングしていくレベルの完成度ではない。まあ、お兄さんお姉さんを巻き込んだものなら分かるけど。
宛名には『女の子の格好をした谷山麻衣さん』と回りくどく説明書きされている。階段下の物置部屋のポッターくんじゃないんだから、そんないやみったらしく書かなくたって良いじゃん。わざわざ女の子の格好をした、なんて皮肉っちゃってさ。
……あれ?こんなこと書く奴、居るか?ていうか、よく見たら筆記体で書いてあるのになんで俺もお母さんも読めたんだろう。
とりあえず封を切って手紙を見てみる。できればバースデードッキリだと良いんだけどなあ、と期待をしてみたけどホグワーツへの入学案内書だった。俺達一家をただただ戸惑わせる為に誰かがこんな事をする訳が無いのに。

とりあえず入学案内の手紙はお母さんとうふふって笑ってタンスの中にしまっておいた。意味が分からないものは、とりあえず置いておく。スパムには返信しない、問い合わせない、忘れる、である。あ、受け取り拒否って書いてポストに入れた方がいいのかな?

気にしない事にして次の日も普通に学校に行った。
お母さんはパートで夜は七時に帰って来るから家の鍵を自分で開けて家の中に入るんだけど、部屋の前で突っ立ってる人影を見かけてぴたりと足を止めた。
「どなたですか?」
ドアの傍にいる男の人は明らかにうちに用があるんだろう。全身黒尽くめの格好と陰鬱な顔で、鷲鼻で、なんか愛想のかけらの無いおじさん。
「君が谷山麻衣かね」
変質者か詐欺師かな?って思うとこだけど身に覚えがあったので大人しく頷いた。この人スネイプ先生みたい。映画の俳優さんともまた違うんだけど、なんていうかこう、……俺の勘だ。
おじさんもといスネイプ先生は、ホグワーツの入学について説明しに来たらしい。マジか〜、名前からしてゴーストハントの麻衣ちゃんなら分かるけど、ハリー・ポッターに関係してるとは思わなかったわ〜。
「日本語上手ですね。お母さんは夜に帰って来るからそれまでどうぞ」
ハリー・ポッターという小説が存在しないことは調べてあるから多分悪戯じゃなかったんだろう。
反抗するのも面倒だし、変に警戒するのも時間の無駄だと思って家に入れる事にした。結果的に不用心だと思われてもこんな時間に来たのが悪いし、俺は本当に不用心なわけじゃないから良いや。
何か飲むかって聞いても結構とすげなく断られたので、俺は本当にお茶を出さずに二人きりで向き合って待っていた。
「何も聞かないのかね」
「お母さんに説明する時に一辺に聞きます」
合理的にいこうや、とにっこり微笑めばスネイプ先生もむっすり黙ったままお母さんの帰りを待った。俺はそのまま彼の目の前で宿題をこなし、お米をといで炊飯器にセットし、テレビをみていた。その間中俺と先生は、一言も会話をしていない。

登場人物が出た時点で、もう俺のホグワーツ行きは決定してたようなもので、奨学金があるから大丈夫っていう言葉に納得し、入学準備に取りかかる事になった。日本とは就学事情が違うんだけどその辺はお母さんと学校側、魔法界がなんとかするらしい。

初めてやってきたダイアゴン横町は正直感動した。だって、ファンタジー代表作のファンタジーな街だ。多くの新入生が準備の為にここに集まってるから人が多くてのんびり見る暇は無いと言われたから仕方ない。
はぐれないようにスネイプ先生のローブを握ったら若干イヤな顔をされたけど、手を繋ぐ提案は却下されたのでそれ以上の文句は言わせない。
「ここで採寸をしていたまえ」
「はーい」
我輩は猫である……じゃなくて、我輩は教科書関係を買ってくると言って先生は人混みに消えて行き、俺は洋装店に置き去りにされた。
採寸を待っている間、一緒になったのは同年代くらいの男の子だった。俺をちらりと見たけど照れくさそうに俯いてしまって、ああ人見知りされてるのかなあと思う。
怯えられはしないだろうけど、おどおどされたら面倒だなーと思いつつあまりに暇だったので、「ねえ元気?」と適当に声を掛けてみることにした。男の子はえっと驚きつつ自分に言われていることをゆっくり確認してから、こくりと頷く。やっぱり俺って勝手に英語喋ってるんだなあ。耳で聞くのは日本語に聞こえるしなんか不思議だ。
アジア系じゃないなあ、彫りが深ぁい、あっ目が灰色。
じっと見てたら、男の子はひざっこぞうと俺を交互に見た。うん、ごめんね。
むしろこっちでは俺の方が目立つか?のっぺりした顔してんなあって思われてるのかも。イエローモンキーって言われたらやだなあ。
「さ、おまたせしました。嬢ちゃん坊ちゃん、ここにお立ちになって」
「はーい。いこ」
「う、うん」
先客がいっきに二人終わったのでおばさんは俺たちに声を掛けた。
腕を掴みながら立ったからするっとすべって掌が触れる。俺はついきゅっと握って引っ張ったので、男の子は一瞬目を見張って戸惑いながらも頷いた。俺日本人のわりに馴れ馴れしいな。
結局男の子と更に仲良しになれるわけでもなく、しかもその子は一足先に終わってしまっておまけに親御さんがお迎えに来てたみたいでぴょこぴょこ走って行ってしまった。うわーん、お友達作っておきたかったのに!
「終わったかね」
「あ、先生!」
「ええもうすぐ終わりますからね」
「……待て、なぜ女子制服を作っている」
「あれ?」
迎えに来たスネイプ先生が、少し離れた所でひとりでに動いてサイズをメモしてる羽ペンと羊皮紙をじっとり見て眉を顰めた。ひでぇ顔である。
そういえば俺は女の子の私服しか持ってなかったし、今までお嬢ちゃんって呼ばれてたし、髪の毛も肩につくくらいだから何にも感じてなかった。もはや病気だなこれ。
「男子用の制服リストをもたせたはずだが?」 「あ、つい」
盛大なため息を頂きました。
そうだそうだ、俺は魔法界では男の子で行くんだったんだ。
俺もお母さんも麻衣で女の子のつもりで何も言わなかったが、魔法界は違うつもりでいるのだ。俺はちゃんと男子としての取り扱いになる。
そこに不満はないので、互いに特に何も言わなかった。そしてここまできても何も言わなかったせいで、俺の容姿をみた洋装店のマダムは当たり前のように女の子だと思ってしまった、というわけだ。


next.

当分名前変換ないですよ!!!
麻衣ちゃんとして生きてた所にホグワーツからの手紙!?と言う流れです。×GHはいつかやりたいです。
ハリーポッターもやっとかないとなという、なぞの使命感です。英語は急にできるようになっています。魔法的な感じで。自力で覚えさせて優秀にするより、ご都合設定の方が良いかなと。
Oct 2015

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