My dear. 03
ホグワーツに入学して三ヶ月経ったけど、未だにしょっちゅう迷子になる。動く階段が悪いし、デカすぎる校内が悪いし、俺を置いて行った友達が悪い。でも道も覚えないし友達に置いて行かれる程ぼけっとしてた俺も悪い。とりあえず只管階段に踊らされてみたんだけど、もうチンプンカンプンだ。授業に遅れる事は決定だ〜。あんまり怖くない先生だから一点減点で済ませてくれるかな。スネイプ先生だったら二点くらい引くついでにねっちょり文句言われて、マクゴナガル先生だったらやる気が無い生徒には授業を受けさせませんとか言われそう。
「おーい、そろそろ授業が始まるけど———あ」
「ん?あ」
上級生のお兄さんが声を掛けて来たと思ったら、赤毛のお兄さんだった。なんか俺を知ってる風な顔だなって思ったら、フレッドとジョージの兄ちゃんだ。
監督生のバッチをつけてる、がっしりした感じの人だから多分チャーリー。フレッドとジョージからも聞いてる。
「君、マイだろ?俺はチャーリー。フレッドとジョージの兄だ」
「こんにちは、マイです」
ぺこっと会釈すると、「礼儀正しいんだな」と頭をわしわし撫でられた。
迷子になったことを説明したら手を引いて授業のある教室の傍まで送ってくれて、俺はそれだけでチャーリー滅茶苦茶イイ奴〜とか思ってた。いや、本当に良い人なんだろうけどね。
セドリック達にはあまりにも遅かったから心配されてたし、次からはなるべく根気よく声をかけるからと言われた。なんかゴメンネ。
その日の午後に図書館で本をとろうとしていた俺を助けてくれたのは赤毛と眼鏡のひょろっとしたお兄さんで、俺を見るなりあっと声をあげたのでやっぱりウィーズリー家に兄ちゃんだろう。
マイだろうって当てられるのは本日二回目で、あと長男に会えばコンプリートだとこっそり心の中で思う。
「勉強熱心なようだけど、悪戯はほどほどに」
「はーい」
へらっと笑って、パーシーから本を受け取り別れた。
偉そうな感じの人だったけど、悪い人じゃあ無さそうだ。もし勉強教わりたかったらあの人に頼もう。
そして図書館からの帰り道でビルに会う、なんて運命的なことは起こらなかったけど、実家から送られて来たキャベツ太郎を今日のお礼にチャーリーにあげようと思ってグリフィンドール寮を訪ねた俺は、ビルに会ったので一日で在学中のウィーズリー兄弟をコンプリートした。やったね。
「この子マイじゃないか?」
親切な女の上級生がおもしろがって寮に入れてくれて、談話室に居た俺を見てビルはぽかんとして口を開いた。
なんだ、皆俺の事知ってるな。いや俺も皆の事知ってるけど。フレッドとジョージとつるんでる所を何度か見られてるのかな?
「チャーリーをたずねて来たみたいなんだけど、彼今練習中だから入れてあげたの」
「だからって、これは」
ただ単に他の寮生を入れた事を言ってるんじゃなくて、女子の制服を着せられてる事を言ってるのだろう。お母さんに会う時の為に、俺はまだ髪の毛が長いままで、肩につくくらいの長さのそれはつい女子の格好をさせたくなるものだ。
先輩の予備の制服は少し大きかったけど、魔法で縮められている。それなら採寸もオーダーメイドも意味ないじゃんって思ったけど、長くは持たないらしい。なるほど。
頭の両サイドにリボンまでつけられたけど、俺は場の空気を壊す文句などつけない!からかわれても動じないのだ!
「可愛いでしょ」
「かわいいでしょ!」
お姉さんに続いて俺もにこっと笑えば、ビルは困った顔をすぐに綻ばせた。俺が嫌がってないならいいんだろう。
「妹に似てる。可愛いよ」
リボンに触れないように頭のてっぺんに手をぽんぽんと置いたビル。妹ってジニーか。俺赤毛じゃないけど。
「チャーリーまだ?」
「うーん、もう少しかかると思うな」
ビルは俺と一緒に居てくれるらしく、俺を抱っこしてソファに座った。膝の上に乗せられた俺は抵抗なく足をぶらぶらさせて、女の子に髪の毛を三つ編みにされるのも受け入れる。あんまり他の寮に長居するのは良くないと思うんだけどなあ。
おなかの所で持って放さないキャベツ太郎を見下ろしてしょぼんとすると、ビルはくすっと笑う。
「それなに?」
「これキャベツ太郎。美味しいんだよ」
「チャーリーにあげるのか?」
「うん、迷子のお礼」
なんか笑いを堪えている感じのビルは、ぷるぷる震えてる。
なんだ?駄目なのか。キャベツ太郎は俺が一番最後に食べようととっていおいた、一番好きなおやつだぞ……。
「チャーリーはキャベツ太郎嫌いかな」
ぶほっと噴き出したビルが笑いを堪えながら「いや、どうだろう、食べた事無いと思う」と言ってる。そりゃそうだな、こっちにキャベツ太郎ないわな。
「あれ?ビルと……マイ?なにやってるんだ?」
「チャーリー!おかえりなさい」
俺のセーターを若干掴んでまだ笑ってるビルの影から、チャーリーがひょこっと顔をだした。
ビルの膝から降りてチャーリーの方に行くと、周りの女子生徒達を見て俺の格好については理解したみたいで、似合うなあと言ってくれた。チャーリーだから褒め言葉として受け取っておく。
「これ一つ食べてみて」
キャベツ太郎の封をあけて一つ掴んで差し出すと、チャーリーは俺の手からぱくっと食べた。うお、手も食べられるかと思った。
「お、しょっぱくて美味しい!」
「ほんと?今日のお礼。ありがとうございました」
今度は袋を差し出すとチャーリーが受け取ってくれたので俺は改めてお礼を言いながら頭をぺこっと下げた。
さてもう帰らないと、と思ってお姉さん達に脱ぐと宣言して着替えを返してもらう。そして、男子の制服になった所でフレッドとジョージが部屋から降りて来て俺に気づいた。今日は赤毛日和だあ。
「あれ?なんでマイがいるんだ?」
「チャーリーに会いに来てたんだよ、もう帰る」
「あ、送るよマイ。もう夜だし迷子になったら駄目だから」
ソファから立ち上がったビルが、俺の背中をぽんと叩いた。
「もうおやつないよ」
「あはは、おやつは要らないよ」
監督生はチャーリーだけど、ビルも監督生だったというし先生からの覚えもめでたいハンサムナンバーワンボーイだからお願いしちゃおう。寮から出て来た所を他の人に見られていじめられるのもやだし。
「マイ、今度来た時は俺たちにも声をかけてくれよな!」
「また明日な、おやすみマイ」
双子が寮の外までついて来てくれて、俺はビルに手を引かれながら二人に手を振って別れた。
パーシーはほどほどだったけど、ビルとチャーリーは俺にもよく構ってくれて、俺も二人を頼りにしてるので今度ウィーズリー家に遊びにおいでと言われるようになった。
一年が終わった夏休みは実家に帰る前にウィーズリー家に泊めてもらって、ビルがエジプトに行く前の送別会みたいなのにも混ぜてもらった。
ロンは俺より大きくてびっくりした。あと、当然だけどジニーと俺は似てなかった。あ、髪の毛の長さは似てたかも。それだ!
二年生になる直前にはセドリックが家に泊めてくれて一緒に買い出し行ってくれるというのでお邪魔した。エイモスおじさんは息子自慢が多かったけど、俺もセドリックは凄い優秀だなって思ってたので、担任の先生みたいにわかりますわかりますって話に応じた。
next.
今まであまりお兄ちゃん達と絡めていない気がしたので一気に出してみました。ビルすき。イケメン万歳。
日本語でにいちゃんって言う響きが可愛いって一部のおにいたまに人気だったらいいな。
Oct 2015