I am.


My dear. 04

恙無く学校生活を送っていた俺は、二年生の終わりに校長先生に会いに行くことになった。えっなんでなんで?俺確かに悪戯っ子たちと騒ぎを起こした事が何回かあったけど、校長室呼び出しみたいな悪さはしてないよ?
スネイプ先生に前ぶれなく呼び出されて二人で校長室に向かう中、ドキドキそわそわして、つい先生のローブに手を伸ばす。
「俺怒られるんですかね」
「……怒られるような事ばかりしているから不安になるんだろう」
「ぐぅ」
スネイプ先生はそっけなくローブを引っ張って俺の手を遠ざけた。いけずな人!
負け惜しみにもならないけど、ぐうの音は出しておく。

「さて、こうしてちゃんと向き合って喋るのは初めてかもしれんな」
「そですね」
甘めの紅茶を出してもらって、俺は大人しく校長先生の前に座る。髭ふわっふわだなあ。
喋った事はあるし、時々挨拶もするけど、校長室で向かい合うのは初めてだよあたりめーだ。俺はコレから常連になるであろうポッターくんとは違うんだよ。
「君は、ハリー・ポッターという子供の名前を知っているかい」
「知ってますよ、ヴォルデモートを倒した子でしょ?」
「!」
俺の隣に立っていたスネイプ先生が息をつめて、目の前の校長の水色の瞳はほんの少しだけ、静かに見開かれた。
あ、ヴォルデモートじゃないのか、噂のあの人、だっけ?
「ふむ、やはり君はただの子ではないようじゃのう」
「え、名前呼んだだけで……?世間知らずなだけですよ?」
たじたじすると、校長先生はにっこり笑った。ああん、その笑みが怖い。
「昔とある予言があった。『全てを知る者があらわれる』と」
「はぇ」
ミルクを足して混ぜていたティーカップをかちゃんと置いて、スネイプ先生を見上げる。非常に言い辛そうにだけど、予言の内容を出来る限り教えてもらった。
曰く、未来を知る子供が居て、その子は極東にいる男の子で、女の子の格好をしているとかなんとか。あ、俺だわ。
誰だぁ、そんな予言をしたやつは。

「ハリー・ポッターは、いつかヴォルデモートを倒しますよ」

紅茶を入れてくれたお礼に、俺はまず聞きたいであろう結末を教えた。倒すべく戦おうとしてるのだから、コレを言っても良いだろう。
黙ってしまった二人を見守っていると、校長先生はほうっとゆっくり息を吐いて、スネイプ先生は力を込めていたらしい手をゆるりと解いた。
「予言のせいで、俺も狙われるんですか?」
「その可能性も無くはない」
不安だったのでスネイプ先生をちらっと見れば、苦虫を噛み潰したみたいな顔で言った。やだあ怖い……。

斯くして俺は三学年からはスネイプ先生との個人レッスンが始まるのだった。

最終的に俺の心は結構先生に暴かれたので、死ぬ記憶を見られてお互いにシリアスに見つめ合うという微妙な展開になった。
「なんだ、今の記憶は……」
「あ、え……と、あの……」
俺でも忘れてた自分の死ぬシーンに、顔が強ばる。じわっと汗が額に滲み、手はがっしりと椅子の肘置きを握ってる。
「ぜ、前世の記憶?トカ、言ってみたり」
てへっと笑ってみたけど、スネイプ先生は訝しむ顔のまま俺に続きを話させた。開心術で俺すら忘れていた前世の死に際を暴くなんてこの人やるなあ。そしてちょっと憎たらしいのでいつか俺もこの人に開心術かけてやろう。そうしよう。あ、でもそんなことしたら閉心術の練習してもらえなくなるのか。
とりあえず、一度普通の人間として生きていたことがあって、死んだ記憶は今の今まで忘れていて、でも他の普通の事は覚えておきながら育ったことを先生には説明した。
なおかつ、予言でされた『全てを知る者』っていうのは、俺たちの世界ではわんさかいて、その理由と言うのがハリー・ポッターを主人公にした本が出版されていたからだと言うとスネイプ先生はいつもの嫌そうな顔を更にしかめた。どこまでしかめられるんだろう。
「死んだのは知ってたけど、そっか車の事故か」
「……」
「あぁでも、生徒は守れたみたいで良かったです」
「———今日はもう寮に戻ってよろしい、来週また同じ時間に来なさい」
「……はい」
スネイプ先生に説明しているうちに、実感した自分の死を口に出すと、さらに身にしみた。どんな時でも基本笑ってられたけど、今日はさすがに気疲れしちゃったので表情は無い自信がある。
冷たい言い方をしつつも労ってくれたであろう先生にぺこりと会釈して廊下に出ると、偶然にもセドリックが歩いていた。
「あれ、マイ」
「セドリック」
なんとなくほっとして、顔が緩んだ。
「酷い顔してたけど、大丈夫?」
「なに酷い顔って、セドリックは酷い事言うね」
「茶化さないで。具合が悪いなら医務室に、」
「だいじょぶ、だいじょぶ、スネイプ先生に絞られて落ち込んだだけ。セドリックの顔みたら元気になった」
俺の肩をがしっと掴んで顔を覗き込もうとして来るセドリックの腕をぽんぽん叩いた。
へらへら笑う俺にセドリックも安心したみたいで手の力を緩めてくれたけど、やっぱり視線は気遣うようにちらちらこっちを見ている。
「最近よくスネイプ先生と会ってるけど、どうしたの?」
「ん?補習だよ」
「え、マイは魔法薬学は得意だったよね」
「いや別に得意では」
「でも、補習するほどじゃないだろう?」
「補習したいって頼んだの。もうちょっと成績上げときたくて」
あ、俺これから魔法薬学もうちょっと頑張らなきゃ変に思われるやつだ。
いっそのこと内緒の個人レッスンって言って誤摩化したいけど、怪しすぎて駄目か。セドリックなら内緒って言えば聞かないでくれそうだけど。
「そういえば、グリフィンドールチームに一年生が入るかもって話、どうなったの?」
「あぁ、ハリーが入ったらしいよ、楽しみだ」
セドリックはクィディッチが好きだからその話題を振ると目に見えて楽しそうに喋る。
ハリーのことを生意気だとも英雄だとも言わないから、セドリックと話していると気が楽になるし、ますます良い奴だなあって思う。スリザリンとかグリフィンドールは基本的には普通なんだけど時々すごいえぐい考え方とか披露してくるから苦手なんだよね。
「俺、ハッフルパフでよかった」
ハッフルパフ生は全体的に穏やかだし、セドリック優しいし、と思いながら呟くとセドリックはほんの少しきょとんとしてから微笑む。
「マイにもっとそう思ってもらえるように頑張るよ」
「あ、クィディッチ?がんばれー、今度のも応援行くよ!」


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スネイプ先生と別に仲良くはない。でもよくお世話になってる。そのうちそのうち。
Oct 2015

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