My dear. 05
ハグリットとはチャーリーが在学中に一緒に会って紹介してもらったこともあり、今では時々小屋に遊びに行く仲だ。完全にハリー側であり校長先生の息のかかった彼は、俺が予言にあった『全てを知る者』っていうのも知っている。でもちょっとこの人口軽いんだよな……。「ハリーは選ばれた男の子なんて大層な事言われちょるが、まだ十一歳の男の子だ。あんなにちっちゃくって細くって」
「うんうん」
クッキーの生地を隣で捏ねながら頷く。ハグリットはトッピングの準備中だ。
あとハグリットからすれば大抵の子がちっちゃいだろうな。
「お前さんだってそうだ。遠い国から一人でやってきて、急に驚いただろうに」
「そうだねえ」
この生地固すぎない?ぼっこんぼっこんパンチをしてみる。
「だからまあ、なんちゅうか、ハリーと仲良くしてやっちゃくれねえか」
「おっけー」
フレッドとジョージとリーとは仲が良いからよく喋るし、ロンとは顔見知りで、ハリーとハーマイオニーはまだ会ったことがない。俺はこうしてハグリットといたりするから、きっといつか会うだろう。と、思ってたら案の定俺が手伝ったクッキーをその日の晩焼いたらしく、次の日に誘われた俺は同じく誘われたハリーたち三人に対面した。
「マイ!」
「やあロン」
「こ、こんにちは……知り合い?」
「あら、時々悪戯してる人だわ」
顔見知りらしい挨拶をしたロンにひそひそと声を掛けてるハリーだけどメチャクチャ聞こえてるし、ハーマイオニーは俺を見て若干引いていた。別に俺トラブルメーカーじゃないから。むしろ君の隣の二人の方が今後いっぱいトラブル起こすから。というかこの間トロールと戦ったの俺知ってるんだからね!
「フレッドとジョージの同級生で、ハッフルパフのマイだよ」
「谷山麻衣です、よろしくね」
「あら、日本人?……それに、女の子の名前かしら?」
「よくわかったね、今まで誰にも言われなかったよ」
別に皮肉でも何でもなくあっさり言う。ハーマイオニーは皮肉とも思ってないのかちょっと得意気に笑った。何度も言うけど皮肉じゃない。純粋に、日本人の名前まで気にかけてるんだなあって思っただけ。
テーブル席につく三人にハグリットと一緒にお茶の準備をしながら自己紹介を軽くやる。
「マイってお茶の場所も知ってるの?」
勝手知ったる他人の家状態の俺にロンが感心したような声をあげた。
「一年生の時からチャーリーが連れて来てくれてたからね」
「おおそうだ、お前さんの兄貴のチャーリーがよく面倒見てたぞ」
「ビルもパーシーも面倒見てくれてたし、フレッドとジョージとも仲良しだから、ロンも仲良くしようねえ」
「うん、いいよ」
差し出したマグカップに口を付けたロンは子供っぽい返事と一緒に頷く。
「ハリーもハーマイオニーもね」
二人にもマグカップを差し出すと、照れくさそうにふふっと笑った。十一歳って可愛いなあ。俺もそんな風に見えたからビルとチャーリーは可愛がってくれたのかな。
「ほれ、クッキー。昨日マイが手伝ってくれたんだ」
「あ、ありがとうハグリット」
ハグリットは大きなクッキーを渡してきたけど、ああ俺焼くのも見ててやれば良かったかな。デカいし、固いし、せんべいが可愛く見えるレベルだ。ハリーははむっと小さい口でかじりついたけど無理そうで、マグカップの上に置いて湯気でふやかそうとしている俺をちらっとみて同じようにした。
ハリーにくすっと笑いかけると、ちょっと照れくさそうに肩をすくませる。ハーマイオニーもロンも諦めてハリーや俺と同じようにマグカップの上に置いていた。俺は、食べてないことをハグリットに気づかせないように話題を探す。
「あー、学校生活はどう?道に迷ったりとか大丈夫?」
「私は大丈夫よ。道はすぐに覚えてしまったの」
「へえ、凄いな、俺は三ヶ月経っても迷子になってたよ」
「僕たちは初めての変身術の時に遅刻しそうになったよ」
ハーマイオニーに続いてロンが言うと、ハリーも隣でこくこく頷いている。
「ハリーはこの間の試合、大変だったね。大活躍でもあったけど」
「あ、うん」
クィディッチの話題を出すと、ロンが思い出したように「そういえば!」と声をあげた。
「ねえ、マイってスネイプに脅されてるって聞いたんだけど」
「え!?」
ハリーとハーマイオニーがぎょっとして、信じられないものを見る目で俺を見た。
どうも、フレッドとジョージがスネイプ先生をイヤな先生だと話す時に、俺のことを唆してるだとか脅してるんだとか、大法螺を吹いたらしい。いや、法螺というか、多分決めつけてるんだろうなあ。前もなんでスネイプ先生とつるんでるのか聞かれたし。
「ただの個人授業だよ、あの人は俺が入学する前に色々世話をしてくれた先生だから何かと頼りやすいんだ」
うっへぇ、みたいな顔をした三人に笑いそうになる。
こっちの人は本当顔に出やすいなあ。セドリックは温厚な所為もあるのか、顔には出ないけど。
「お前さんら、まだ疑っちょるのか」
はあ〜とため息を吐いたのはハグリット。
ハグリットやロンの兄たちと仲が良い俺を信用したのか、三人はこの間のクィディッチの時にハリーの箒に呪いがかけられていて、それがスネイプ先生の仕業だと推理していることを教えてくれた。
「んースネイプ先生はそんな人じゃないと思うけどな」
ハグリットにも同じような事を言われたのだろう、三人は落胆したように視線を落とした。
話してくれるのはありがたいけど、多分これで、俺に言っても無駄って思ったかも。それはそれでつまらないなあ。
「きっと他の先生だよ〜」
「お前さんなんちゅーことを言うんだ」
へらっとしながらヒントを与えて、俺はふやけたクッキーをもりもり食べる。味は甘ったるくて粉っぽくて、あんまり美味しいとは言えなかったけど、コーヒーと共に飲み干した。
「あ、用事を思い出した。ごめん洗い物できない。また来るね、三人も、またね」
シンクにカップを置きながら慌ただしく出て行った俺に、ハリーたちもちょっと慌てて返事をして俺に倣って手を振ってくれた。
*
ハリー達にとって上級生は、ロンの兄やウッド達が身近だった。
ほかには、フレッドとジョージとよくつるんでいるリー、それから時々聞くマイという名前も記憶に新しい。リーは同じ寮であったことや、クィディッチの試合の時に実況演説をしていたこともありその存在を実感したが、唯一マイとは会った事が無い。後にフレッドとジョージと一緒に居た光景を見ていたことを、ハーマイオニーに言われて思い出したが、ハグリットの小屋で出迎えてくれた少年を見るまでハリーはマイの事を全く知らなかった。
入学してから色々な事があった。三頭犬に追われたり、トロールに襲われたり、クィディッチで死にかけたり、スネイプに執拗にいじめられたり、碌なことじゃない。おまけにクィディッチで死にかけたのはスネイプの仕業だとわかり、ハリーはとても憂鬱な気持ちになった。命を狙われる覚えが無いのだ。否、闇の魔法使いに恨まれている事は理解しているため、ただ理不尽だと感じているだけだ。
そんなスネイプと、目の前の優しそうな先輩であるマイは知り合いであるらしい。ロンの兄のフレッドとジョージは「俺たちの友達を闇に引きずり込もうとしてるのさ」というから、知り合いと言うよりも被害者なのだと思っていた。ハリー達よりもスネイプに詳しく、なおかつきっと嫌っているだろうと思って同意を求めた呪いの犯人について、マイにはあっさり反対されてしまい、落胆した。
おまけに無責任にも「他の先生かもよ」なんて不穏な事を言い残して去って行き、ハーマイオニーは彼が部屋から出て行った途端に不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「彼、スネイプの仲間かもしれないわ」
「おいおい……」
ハグリットはハーマイオニーの推理に困ったように顔をしかめた。
ハリーも彼女の意見には概ね同意だった。スネイプに脅されていないのだとしたら、そうなのだ。ハグリットもスネイプはハリーに危害を加えないと言っていたが、マイ程スネイプと関わっているように思えない。つまり、マイはそういうことだろう。
「マイにも気をつけなきゃいけないわね」
「でもマイは、うちにも来た事あるし、マグル出身だよ」
「そんなこと理由にならないわ。唆されてるのかもしれないし、脅されててそう言わされてるのかもしれないもの。もしくは、操られているとか」
ロンは上の兄達が全員マイを知っているために一度は擁護したものの、ハーマイオニーの示唆する可能性に反論できなかった。
「お前さんら、マイは脅されてねえし、スネイプ先生も変な企みはしてねえ。ハリー、深くは言えんがな、マイはお前さんの力になってくれるやつだ」
「どういうこと?」
「言えねえ。でもマイはちっとばかりハリーと境遇が似ちょる」
「マグルで育って来たからってこと?」
ロンが首を傾げたが、それはハーマイオニーも一緒だろう。ならばどういうことなのか、分からずハリーはハグリットの言葉を待つ。
けれどハグリットはふるふると首を振って、もう帰れと促した。
結局マイやハグリットが擁護した通り、スネイプは全くの無関係で、むしろハリーの命を守ろうとしてくれていたことを知った。そしてマイの言う通りに、呪いをかけていたのは『他の先生』であったことを、ハリーはただの偶然だと思う事にした。
next.
ハリーでました。最初の方の可愛い感じたまらんですね。
ハーミーもロニーも子供ながらのドヤァが可愛いと思います。
Oct 2015