My dear. 07
油断していた、というか、警戒すらしてなかった。いや危ないことになってるのは知ってたし、マグル生まれが狙われてるっぽいのも知ってたし、正体も知ってたのに、俺はまんまと石化して目が覚めたら学期終わりだった。嘘だろ……休んでた分の課題をようやく提出し終えてやっと追いついて、これからテストだって時に石になって、ほとんど授業出てないよ俺。
目を見て死ぬことがなくて良かったんだろうけど、生きてるからこそ憎たらしい!
「トム・リドル許すまじ……」
ギリィと歯を食いしばった瞬間、お見舞いにハリーがやってきた。お、ナイスタイミングですね。
「マイ、いま、トムって」
ハリーの後ろには校長先生がいて、焦った様子はなくにっこり笑ってる。まあこの人いつもにっこり笑ってるんですけどね。
「校長先生、俺進級できますか?さすがに学年落ちるのは恥ずかしいんですけどっっっ」
「落ち着きなさいマイ、大丈夫、ちゃんと救済措置は用意しとる」
「あ〜よかった〜、ハリー今回もお手柄だったんでしょう、ありがとう」
「なんでわかるの?」
「風の噂で聞いたよ!」
目が覚めてまだ二時間しか経ってねえけどな、と心の中で呟いておく。
「で、日記は?穴は貫通したか?余白の所に悪口書いてやるから出しなさい」
「マイ、落ち着くんじゃ」
「あい」
シャーペンの芯を出す動作を右手でしながら左手を差し出すと、そこに校長先生がゴブレットを置いたので慌てて支えて中の水をくぴくぴ飲んだ。……二回も落ち着けって言われたな。
結局一旦は誤摩化したけど俺がトム・リドルに呪詛を吐いてたことはしっかり聞かれていたので、校長先生監修のもとハリーにちょっとだけネタバラしをすることにした。ハリーも予言されていたっていうのは知ってるのか知らないのか、よく分かんなかったけどとにかく俺がとある予言者から『全てを知る者』とか言われた所為でちょっとだけヴォルデモートに狙われる可能性があるってことは説明した。なおかつ、全てを知ってる訳じゃないのもちゃんと弁解させてもらった。
「じゃあ、秘密の部屋のことは知ってたの?」
「一応知ってたけど、責められても困るからね、俺は結局自分が襲われることを回避できない程度の人間なんだから」
「……ごめん」
若干責めるような口調だったハリーにずるい大人な俺は言い訳をぶっこむ。
でもハリーが謝る必要は無いと思うよ?うん。
「正直ね、未来を知ってるっていうのは、あり得ない事なんだと思うよ」
しょんぼりした子供が可哀相に見えたので、柔らかい黒髪を撫でた。西洋人って髪の毛細いよなあ。
俺の言っている言葉の意味がよくわからなかったみたいで、眼鏡の奥の緑色の瞳はじいっと俺を見つめて来る。
「俺が知ってるということは変えられるってことで、それはもう未来じゃないし、今もきっと変わってるんだろうね」
校長先生は頷いている。それを分かっているからこそ、校長先生はあまり俺に未来の話をさせないんだと思う。
俺が居る時点で多少違うこともあるし、俺が襲われたのだって俺の記憶とは違う。俺がこれから死ぬかもしれない未来もあるわけだけど、俺はそれを知らない。予言はある意味大外れだ。全てを知る者なんて居る訳が無い。
「ハリーはいつかヴォルデモートと倒すと思う、でも、俺多分未来を変える」
「え」
「あ、もちろん、ヴォルデモートに協力するつもりはないよ、俺闇の魔法使いとか純血とか興味ないし無理だし」
「う、うん」
ぽんぽん肩を叩くと、強ばっていたのが少し丸まった。もしかして驚いたのはヴォルデモートの名前を呼んだことかな?
ハリーは知らないことが多すぎて、何を信じたら良いかも分からないだろう。でも校長先生がヴォルデモートを倒す為に奔走し、俺はそれに加わっているから……スネイプ先生みたいに陰険じゃない限りはハリーも俺を信じてくれるんじゃないかなーと思います。
その後、俺が目を覚ましたと聞いたセドリックが飛び込んで来たのでハリーと校長先生は速やかに退室し、俺は感動的な親友との再会を味わっていた。次いでフレッドとジョージがきて、俺の無事を喜んでくれた。
双子が去った後も、セドリックだけがまだ医務室に残っている。
「マイ、暫くは一人で出歩かないでくれないか」
「いや犯人倒されたってよ?」
「それでもだよ」
俺の手をぎゅっと握ってそこに額をすりつけて懇願する。
ハンサムがやると大変様になるけど、その手は俺の手ですよ。
「過保護だなあ」
「僕がこの一年どれだけ寂しかったか分かってない」
「ん、ごめんごめん、ありがとう」
少し固い髪を撫でると、セドリックは小さく笑った。
「それより、勉強教えてよセドリック。俺進級危ういかもしれないから」
「もちろん」
セドリックの教えや、先生達の優しさがあってなんとか進級試験に合格して、夏休みは補習用の宿題がどっさりでたがそれもセドリックに助けてもらいながらこなした。
エイモスおじさんは親を亡くした俺に大変同情的で、なんだったら卒業までの休暇はすべてセドリックの家に帰って来ていいと言ってくれた。
宿題尽くしだった所為ですごい頭良くなった気分で新学期を迎えていた俺の耳に、大量殺人犯のシリウス・ブラックやら吸魂鬼の噂が入って来た。
なんでも、シリウス・ブラックが逃げ出してこっちにくるだろうからここに吸魂鬼を置いて警備すっぞってことらしい。迷惑な話だし汽車とめられたし、滅茶苦茶怖いのでご遠慮願いたい。
今年も俺はまた閉心術の特訓が残ってるので、スネイプ先生と個人レッスンがあるんだけど、セドリックがいちいち送り迎えについて来るのでスネイプ先生に若干イヤな顔をされる。
「あの送り迎えはどうにかならんのか」
「先生が送り迎えしてくれたら多分辞めると思うんですけど」
「イヤだ」
ものすごーく素直に面倒くさがったよこの人。
まあ俺もイヤだ。だって先生が送り迎えしてたらますます、俺とスネイプ先生に何かあるって言ってるようなもんじゃん。フレッドとジョージとリーが騒ぎそうだし、スリザリン生にじっとりねっとり眺められるのも嫌だし、ハッフルパフ生に心配されるのも面倒くさい。閉心術教わってるだけだってば!って言いたい。言っても問題は無いような気がするけど、わざわざ閉心術の鍛錬してることを言う必要も無いから言わない。
「あ、先生、あれも教えて欲しい」
「あれじゃわからん」
「エクスペクト・パトローナムってやつ」
「なぜ呪文を知っている」
「え、有名だから……俺もなんか動物出したいんデス」
「それが本音か貴様」
閉心術の練習が終わったあとにお強請りしてみると、じゃあ来週からって言われて、意外とすんなり教えてくれるそんな先生俺嫌いじゃないよ……とあったかい目で訴えたら「早く帰りたまえ、お迎えがきますぞ」と嫌味っぽく言われたので好感度は下がった。
俺はある日、でっぷりした鼠を拾った。その後を追い猫がしたたたたたと軽やかに走ってきて、俺の足を踏みつけ、てしてしパンチしてくる。うわあ、登って来ないでネ。
ふぎゃーおって猫が鼠を求める声が聞こえるけど、とりあえず俺はここで弱肉強食世界のドキュメンタリーは見たくはないので、摘んだ鼠のお尻を支えてお肉をたぷたぷする。
「ロンのとこのトムと、ハーマイオニーの所のジェリーか」
名前忘れたので適当な名前で首を傾げると、鼠はじたばたして逃げようとする。まあまあ逃げなくていいだろうよ。一回ビスケットやったことあるじゃん。名前覚えてなくて悪かったよ。
でもこのネズ公、ヴォルデモートの回し者だから親切にしづらいんだよなあ。
たぷたぷたぷたぷ、とお腹をバウンドしながら考える。俺の足元では猫がぐるぐるまわっている状況にああどうしようと遠い目をしていたら丁度飼い主が二人で走ってやって来た。
「スキャバーズ!!!」
「クルックシャンクス!」
覚え難い名前してんな、と思いながらロンとハーマイオニーが俺に駆け寄ってくるのを待った。
本当は人の事指さしちゃ駄目なんだぞ。
「捕まえててマイ!ソイツ僕んちの鼠なんだ」
「あなたってば、こんな所に居たのね」
クルックシャンクスは俺が捕まえてるわけじゃないので手を広げるハーマイオニーの方に寄っていった。お利口さんな猫ちゃんですネ。一方、スキャバーズは今だに俺の手から逃れようとしてる。いいじゃねえか、もうちょっと肉感味わったって。俺はグルメだから鼠は食べないぞ。
仕方なくロンの手の上にもっちりしてキィキィ啼く鼠を置いてやると、大事そうに抱えていた。なんかぞんざいに扱ってごめんなさい。でも俺鼠より猫の方が可愛いと思っちゃうし、どっちかって言うと犬派なんだよな。
ハーマイオニーとロンは互いのペットを抱っこしたままキッと睨み合い、ちょっと口喧嘩を繰り広げている。その間に俺はさっき触れなかったクルックシャンクスの顎をなで回す。大変寛大な猫ちゃんだったので、接待ぐるぐる頂きました。今度は鼠じゃなくて犬に会わせてください……と心の中で思っていたことが悪かったのか、……悪かったんだろうなあ。
後日クルックシャンクスが俺の事を訪ねてやってきて、ついてこいみたいな顔するからついてったら、でっかい黒い犬がいた。
思わず「うっひょ」と間抜けな声を出したのは内緒にして欲しい。頼む、シリウス、内緒にしてくれ。
「これは……撫でていいんですかね」
犬は暗闇のなかで鎮座しておられる。
ハァハァ言ってるけど多分犬故の通常な吐息であって別に興奮してるんじゃないと思う。とりあえずしゃがんで同じくらいの目線になり、下から手を出して顎らへんを撫でつつ首まわりをもふもふしてみたけど嫌がる様子は無い。
猫と犬ってこんなに仲良いんだっけ、と思ったけどクルックシャンクスはお利口さんな猫だし、シリウスは元々人間だから有りなのか。むしろ二人、二匹?とも鼠が嫌いなんだもんね、わかるわかる。ロンの鼠じゃなければ俺も頑張って捕まえてきてあげたいんだけどさあ……。
next.
秘密の部屋は一瞬で終わりました!どうだまいったか!(?)
Nov 2015