I am.


My dear. 08

ワンニャアパラダイスから帰って来た俺に、セドリックは一人でどこ行ってたのって言うよりも前に「獣くさいよマイ」って顔を顰めたので、申し訳なく思いつつお咎めなしでラッキーと思いながらお風呂に入った。
「それで、どこに行ってたの?」
「え」
お風呂上がりのほかほかしてる俺は、セドリックにもう一度捕まって詰問されていた。畜生、お母さんかお前は。
「ハーマイオニーの猫がついて来いって言うから」
「言わないと思うけど」
「目で言うんだ。それについてったら犬が居たんだよ」
「うん、で?」
「いや、それだけですけど?」
結局俺がただ動物と戯れていただけだと知ったセドリックはほっとしつつ、あまり長く人気の無い所には居ないようにと念をおしてベッドに潜った。
シリウス・ブラックが狙ってるのはハリーだけど、吸魂鬼はへたすると襲って来るからね、気をつけます。まだ守護霊が出せないし〜。

……と、思ってた次の日のレッスンで出た。

「先生見て!見て!?ミーテー!」
「……うるさい」
わっはー!とはしゃぐ俺の周りには、おなじくわっはーって顔をした白銀のふわふわな犬がちょろちょろしてる。
「まさかこんなにすぐ出来るようになるとは……馬鹿だからか?」
「え、なんでディスったんです?」
ポジティブって言ってくれませんかねえ。
先生曰く、まじりけのない幸福感がどうこうって言ってたけど、今さっきのはただ只管にキャベツ太郎の美味しさについて考えてた。守護霊ちょろくね?なんかビーフジャーキーあげればすぐ出て来てくれそうな顔してる。つまりそういうことか。……確かに馬鹿かもしれない。
いや、もちろんちゃんと幸福な気持ちを想像することも出来るし、何度でも守護霊を出せるようにこれから訓練するよ。
スネイプ先生には、俺が初めて出した時の思考がキャベツ太郎だったことを見通してたんだろうなあ。
「腑に落ちん」
「しつこい人だなあ」
一度消してもう一回やってみたらまたワンワン出て来たので、スネイプ先生は口を真一文字に結んでしかめっ面をした。すみませんね、先生みたいに甘酸っぱい幸せな記憶がなくて……とは言わないでおく。
「だいたいね、俺は毎日が幸せなんですよ!生きてるんですから!」
「———そうか」
先生は珍しく、本当にちょっぴりだけど笑って、顔を背けた。俺の犬は見てたかもしれないけど俺には見えなかった。見せてくださいよちょっとくらい。喜んでくださいよ俺の幸せな犬に。
「次はアニメーガスなんてどうです?」
「大馬鹿者、空いた時間は閉心術の強化にあてろ」
「ぐぅ」
却下されたので、とりあえず守護霊の名前でも考えるかと真顔で犬の顔を見つめる。
白い犬だからユキ?大福?ましまろ?シロ?……あ、でも守護霊って皆白っぽいのか、本当は白じゃないか?いやでもコイツカラーになっても白そうだなあ。
「失礼するよ、セブルス———、おや」
「ルーピン」
「あれ?ルーピン先生だ。こんにちは」
嫌そうな顔で出迎えたスネイプ先生に続いて、俺も挨拶をしたら俺の犬がルーピン先生に向かってわっふわっふとじゃれ付きに行った。なんかすいませんって思ったら犬は消えた。
「すごいな、君は……ハッフルパフの谷山だったね」
「谷山麻衣ですどうも」
にぱっと笑うと、ルーピン先生も笑い返してくれて、それからスネイプ先生をちらっとみてからぷくくっと笑う。なんか想像されてると思ったのかスネイプ先生は「なんだ」と眉をしかめた。
「いや、この間の授業を思い出してね」
「ああボガートの」
俺も同じようにぷくくっと笑う。
「我輩が出たのかね」
「ああ、リディクラスと唱えた後にね!」
ふんっと鼻を曲げて笑ってみせたスネイプ先生に、ルーピン先生がははっと明るく笑いながら肯定した。
俺のとき、ボガートは車を出した。死んだ時に突っ込んで来た車で、俺でもあんまり覚えてないのに上手に再現してた。でも一度ちゃんと記憶を思い出させてもらってるもんだからさほど動揺しないで、スネイプ先生に感謝しながら呪文を唱えたら車がスネイプ先生に変わっちゃったのだ。俺とルーピン先生だけはどっかんどっかんの爆笑だったけど、他の生徒は引きつった顔をしてた。別にスネイプ先生がただ立ってるだけだったからな。
「俺の苦手なものを教えてくれたのは、スネイプ先生だったから、ついね」
へらっと笑うと、スネイプ先生は照れてるのかそうでないのかよくわからない顔をしながら、またふんっと鼻を鳴らした。
「あ、ルーピン先生と約束してたなら終わります?」
「いやいや、君の用事の後で良いよ」
約束してたならいいのに、と思ったけどスネイプ先生は深いため息しか吐かない。
「───ほかにもどんな事を教わってるのか興味がある」
どうやらルーピン先生はスネイプ先生の個人レッスンが気になってるみたいだ。まあ、守護霊の呪文を教えている他に閉心術も教わってたけど。
「え、アニメーガスとか?」
「しつこい。マクゴナガル教諭にでも聞きたまえ」
「え〜接点ないですよ〜」
「変身術の授業を受けているだろうが」
「個人レッスンの先生は一人まででしょ!」
「どこで決めたんだそのルールは」
俺とスネイプ先生のやりとりをルーピン先生は笑いながら見守っている。
「アニメーガスになるのは簡単な事ではない、おおかた守護霊の呪文のようにどんな動物になるのか知りたいと思っているのだろうが、そんなお前には無理だ」
「えっ、そんな理由だったのかい?」
「うん!あと守護霊の呪文出せたから行けるかなって!あえて、挑戦してみたくありません??」
言い当てられた本心に一番に反応したのはルーピン先生で、俺は包み隠さず純粋に肯定した。だって魔法使いになったら、空を飛ぶ、薬を作る、杖を振る、そして動物になりたいでしょ!?
守護霊の呪文は動物が変わることもあるようだけど、なんていうか心理テスト的な感覚でしたよ、ぶっちゃけ。守護霊犬だったらアニメーガスも犬って決まってるわけじゃないらしいけど、気になるじゃん。ここまできたら突き詰めて行きたい、俺がどんな動物なのか。
「試さずともわかる。お前は犬だ」
「えぇ!?」
「賭けても良い。だから余計なことに興味を持たずに今やるべきことをやれ」
頭をぐわしっと掴まれてぐりぐりされたので、俺は部屋から逃げることにした。
スネイプ先生は素と面倒になってるとき、いつもの回りくどい高慢ちきな口調じゃなくてストレートな命令口調になるので、こういう時は戦略的撤退に限る!


「ね、酷いよね?アニメーガスになってもどうせお前は犬なんだから試す必要は無いって」
膝の上で丸まってるクルックシャンクスにもしょもしょ愚痴る間、シリウスは俺のサンドイッチをガツガツ食べていた。あ、いっこは残しておけって言ったのに。
「守護霊の呪文三ヶ月でマスターしたから、アニメーガスも一年くらいでいけるかもしれないじゃん、夢があっていいじゃん」
ヴォフッって返事をしたシリウスは、窘めてるのか応援してるのかわからない。
シリウス達でも多分一年じゃ無理だった筈だから、窘めてるのかな。馬鹿な事言ってんじゃねえってことかな?でもあの鼠もなれたんだから俺も行けるとか思いたいんだよ。
「犬だったとしても、是非犬になってみたい、俺犬好きだし」
そう言ったら、シリウスは俺の膝の上に顎をもふっとのせて伏せた。
「おまえみたいに大きくはなれないかもしれないけど、俺が犬になったら一緒に駆け回ろうな」
頭を撫でるとぷすんと鼻息で返事をしてくれたので、今度は鼻の頭を撫でてみる。
あんまり遊んでるとまた獣くさいって言われるし心配もされるので、そろそろクルックシャンクスを寮に送りとどけて俺も戻らないとなあ。
最近ハーマイオニーが忙しいみたいだから良いけど、俺下手したら飼い主よりクルックシャンクスと一緒に居る気がする。あと、スキャバーズは俺を見て逃げるようになった。


next.

学年が違うのに内容が一緒なのは掴みの授業として行ったか、下級生から聞いた同級生がやってと頼んだか、ってことにしてください。
ほんとはボガード、車からスネイプ先生出て来てふんってさせようかと思ったんだけどさすがにそんな芸当できないよな?って思って。リディクラスじゃちょっと馬鹿馬鹿しくなるくらいで姿は変わらないんじゃねっていうご指摘は最もだとおもうけど今私がやっとくので皆は言っちゃ駄目ですよ!!ごめんなさい!
Nov 2015

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