I am.


My dear. 09

「マイ、また獣くさいんだけど」
「え〜今日はそんなにじゃれてないよ?」
セドリックに言われて、ふんふんと腕の匂いを嗅いでみる。
「ん?……ほんとだ」
近づいてきたセドリックは俺の米神あたりの匂いを嗅ぐ。やめろや。
「あっちの匂いが強いだけかな、掌は確かに匂う」
「あと服かな」
そう言ってセドリックは俺の足元に匂い消しの魔法をかけた。どうもどうも。

手を洗ってから戻ればセドリックはほっこり笑って「うんいつも通りだ」と言うけど、そんなに匂い強烈かな?さっきクルックシャンクスを返しに行く時にフレッドとジョージに会ったけど、そんなこといわれなかった。むしろあの二人のほうが獣くさいとかは言ってきそうなのに。
思えばセドリックも随分遠慮がなくなったかもしれない。まあスネイプ先生には負けるけど。

数日後、ロンとハーマイオニーが俺を訪ねて来て、「スキャバーズが居ないんだ!猫が食べちゃったんだよ!」とか「クルックシャンクスはずっとマイと一緒に居たわよね!?」とか詰め寄られてびっくりする。なんだ、クルちゃんはとうとうあのネズ公を始末したのか……と思いつつも言えないので、スキャバーズの姿は見てないし、クルックシャンクスが拾い食いしてるのは見た事が無いと答えてとりあえず二人を諌めようとした。
俺スキャバーズがどこにいるかは本当に知らないし、なんもヒントをあげられそうにない。
そのまた数日後に血相変えて出て行くルーピン先生を目撃したけど声をかける暇も無く、また違う所動き回ってたスネイプ先生にも声をかけられず置いてかれた。俺は仕方ないのでスネイプ先生の後をのこのことついてきて、人狼になっちゃったルーピン先生にご対面した。洞穴の中から見てたので誰も俺に気づいてないけど、ここに留まっていたら人狼に思いっきりバレるので逃げなきゃ駄目だよね。
すぐにシリウスが犬の姿でルーピン先生に飛びかかってきてハリー達は助かったみたいだけど、ハリー本人は犬を追いかけて行っちゃった。結局シリウスとハリーは意識不明で見つかり捕獲・保護。ルーピン先生は行方不明。鼠のアンチクショウは逃げた。

俺はロンを負んぶして医務室に運び込み、ハリーの意識が戻るのを待っていた。
「シリウスは無実なんです!」
「信じてください!」
お見舞いにやってきた校長先生に目覚めたハリーはハーマイオニーと詰め寄り、ロンはベッドの上からスキャバーズが正体だったと言葉を添える。でも、子供達の証言だけでシリウスの罪は覆せない。
校長先生は俺の目の前で、時間を戻せ的な事を示唆して部屋を出て行き、何の事だかわかってないロンは首を傾げる。
「動けない人は待ってて……───マイは、」
「じゃあロンについててあげるね」
「一緒に来ないの?」
ハリーが困ったように俺を見る。
「姿を見られないようにって言ってたろ?多すぎても大変だ。行ってらっしゃい」
ひらひら手を振ると、ハーマイオニーとハリーは医務室からふわっと消えて、それと重なるように医務室に入って来た。
「どうしてそこに?今までそこにいたのに」
「わーびっくり、見間違いかなあ」
本気で狼狽えるロンの隣で、俺はぱあっと手を開いて棒読みで驚いた。

すっかり人の姿に戻ったルーピン先生はスネイプ先生と一緒に俺が森で回収した。
「何故あの場所に来た?」
「いや、少しは手伝おうかと思いまして……あんまり意味なかったけど」
俺が居ても居なくてもあんまり変わらなかったので、先生は全くその通りだと鼻を鳴らす。
あれから、薬を飲み忘れた危険な教師を置いておくわけにはいかないっていうのと、最初から追い出すつもりで人狼に関するレポートを生徒に書かせていたスネイプ先生はルーピン先生の正体を暴露して辞職に追い込んだ。ドロっとしてえぐい、まるで脱狼薬のような性格ですね!


「いたずら完了!」
「あ、ルーピン先生ー」
俺はルーピン先生が今日でホグワーツを出て行くと知り、最後の挨拶に部屋を訪ねた。丁度忍びの地図を閉じたっぽい所で、先生に見せようと思って無駄に出した守護霊の犬が先走って階段をのぼって行くのを追いかける。
「マイ?」
犬にじゃれつかれて驚きつつも笑ってるルーピン先生の後ろから、驚いたようにハリーが顔をだした。
「あ、ハリーも来てたんだ」
「どうしたんだい?」
「犬の名前を決めたんです、フクっていうの。あと挨拶に来ましたお元気で」
「フク?あ、ありがとう」
これ餞別に、と日本から通販で取り寄せたキャベツ太郎を先生にあげる。コレはね、俺のとっておきだから今までチャーリーとルーピン先生にしかあげた事無いんだよ。ぶっちゃけ迷子のお礼と、ただの餞別なのでとっておき感は薄いけど。
「英語で言うとフォーチュン」
「そうか、良い名前だね」
かわいかろ?かわいかろ?とちょろちょろする犬を消すと靄になった。
「マイも、それ出来るんだ」
「うん、いざという時の為に」
使わなかったけどな、というのは言わんどこ。
「───君も元気で」
格好良くキャベツ太郎を抱えて歩いて行くルーピン先生を、ハリーと一緒に見下ろした。
「ねえ、マイ」
「ん?」
「今回はどのくらい、知ってた通りだった?」
「ハリーがシリウスを救うことくらいしか、知らなかった」
間違った事は言ってない。そういう結論くらいしか俺は明確に覚えてないのだ。スキャバーズがピーターだったことも、ルーピン先生が人狼だったことも、シリウスが犬だったことも知っているけど、どう行動していたのかは全く分からない。
それに俺にもやることもあるし、下手に手を出して掻き回すのもイヤだった。
「もっと助けて欲しいって言ったら、迷惑?」
ハリーはいつも精一杯なんだろう。だから俺が知っていることは全て知っておきたいのかもしれない。知ってしまったら、それはそれで大変だというのを理解していない。いや、それは俺の物差しで測った結果なだけで、本当は全て知った方が良いのかもしれない。
でも俺は言わない。その通りになるかも分からない事で、ハリーを煩わせたくはない。知ってて手を出さない卑怯者だと思われても構わない。
「来年は頑張るね」
俺はハリーへの答えとして、そう返した。


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パトローナスに名前をつける主人公。飼い犬じゃないんですけどね。
Nov 2015

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