My dear. 10
その年の夏休みも、セドリックの家にお世話になっている。しかもディゴリー家はクィディッチワールドカップの決勝、アイルランド対ブルガリアの試合を観に行く時も俺まで誘ってくれた。セドリックは試合を楽しみにしていたし、ウィーズリー家の人達と一緒の行くと聞いて俺も楽しみだ。
「おはよー皆」
「あれ?マイ?」
セドリックや俺たちが居る事を知らなかったらしいロンは眠たげな顔のまま首を傾げていた。
ハーマイオニーやジニーはもうすっかり目が覚めている顔をして、しっかりした足取りだったけど男連中はまだ眠そうだ。ただし双子はとっくに元気だった。こいつらが元気じゃないとこ見た事ないな俺。
双子は「ようマイフレンド」といいながら俺の肩に腕を回して挟み込むので身体がぐらぐら揺れた。
おんぼろのブーツにみせかけたポートキーに掴まって試合会場まで行くと、ポートキーに慣れてない、もしくは心構えをしていなかった子供達はどたばたと芝生に身体を投げ落とされた。うっはあ、痛そう。
俺はセドリックとエイモスおじさんに聞いていたし、セドリックが過保護にも俺の腕を掴んでいてくれたから、空中で足踏みをして上手く着地する事に成功した。
セドリックはすぐ傍に居たハリーを助け起こしていて、俺はフレッドとジョージに腕をとられて転びかける。
「あー!おもいー!」
「ほらほら起こしてくれよマイ」
「ちぎれるー!」
「そんなんじゃ俺たち立てないぜ」
なんとかふんばってるんだけど、二人は全く立つ気がなくふざけているので、俺はふぎぎっと歯を食いしばるだけだ。ジニーがしらっとした顔で「早く立ってよ」って二人に文句を付けてくれたことで力は緩んだ。
ワールドカップで盛り上がっていたというのに、夜に死喰い人たちが襲って来たらしく俺たちは逃げ惑う事になった。エイモスおじさんに言われて、俺とセドリックはウィーズリー家の子たちとポートキーの所で合流して安全な場所に帰る手はずとなっていて、人混みの中を二人で駆け抜けた。ウィーズリー家の集団は女の子達がいるけど、大丈夫だろうか。
そんな心配をよそにジニーやハーマイオニーは皆といて、不在なのはハリーだった。
今の死喰い人の襲撃じゃんハリー危ないじゃん。
俺はすぐに会場にかけもどった。後ろからセドリックや双子が名前を呼んでいたけど、どっちにしろ誰かが探しに行かなきゃならないだろう。
ハリーはわりとすぐに見つけた。気絶しているようだったのでぺちぺちと頬を叩いて起こす。その最中に、人の気配を感じてハリーの口を抑えて身を屈める。
人影が敵じゃありませんよーに、と祈り様子を伺っていたら、その人影は闇の印を打ち上げやがった。はい、敵決定。
やっべー、やっべーよこれ、やっべーよ、とりあえずステューピファイでいいのかな?ん?と思いながら杖を握って準備する。まあまだ未成年なので後で怒られるんだろうけどな!!!
幸いにも、ハーマイオニーやロンが声を上げながら探しに来てくれたので、人影は逃げて行ってしまい俺たちは胸を撫で下ろした。
「マイ、今の」
「ん、あとでな。怪我は?」
「ううん、ないよ」
ぱんぱんと背中や腰を叩いて土を払いハリーを立たせた。
あのあと二人と合流したのに、魔法省の大人達に囲まれ、危うく失神呪文をかけられそうになった。
超怖かった、俺大人しくしてればよかった、馬鹿。って思いながらハリーたちと一緒にとぼとぼセドリック達の所に戻ったら、セドリックに一人で行ったことを叱られた。すんません。
新学期はトライウィザードトーナメントの話題でいっぱいだ。年齢制限に引っかかってるのでゴブレットに名前を入れられないし、ぶっちゃけ出たいとも思わない。日本人は平和主義っていうか事なかれ主義っていうか、自己主張はしないっていうか〜。
だけど若き男子達は違うらしい。ていうか女子でもチャレンジしようとする子は居るようだ。マジかよ信じられねえ……。
「マイ、僕の名前ここに書いてくれない?」
「え?なんで?」
ある晩セドリックが羊皮紙と睨めっこしていたと思ったら、俺に羽ペンを差し出して来た。何で俺がお前のサインを代筆せにゃならんのだ。
首を傾げた俺に対して、セドリックは半ば無理矢理俺に羽ペンを握らせる。
「ゴブレットに名前を入れるんだ」
「え!?!?やめときなよセドリック」
この大会に選ばれた人間は死ぬ可能性高いんだぜ!しかもたしかホグワーツ代表のハリーじゃない方の生徒が死んでヴォルデモートが復活するんだぜ!?そんな危ない所に名前投げ込むなんて俺はやだよ?
「だって、だって、危ないんだよ?」
周りの子は気軽に、やってみようかな?やってみろよ!なんて話しているもんだから、セドリックは俺が思い切り反対しだしたことに首を傾げた。否定されるとは思わなかったんだろう。更に俺が畳み掛けても、セドリックは苦笑する。
「マイだって危ないことしてるじゃないか」
「えぇ?俺はしてないけど」
「この間ハリーを探しに、闇の印が上がる現場に飛び込んで行ったじゃないか」
痛い所をつかれて、目をぎゅっと瞑る。
「うぅ〜……でも助けに行くのと、わざわざゴブレットに名前を入れに行くのとは違う」
「わかってるよ。マイはとても勇敢だった。僕は咄嗟にマイを追うこともできなかった」
揚げ足をとるでもなく、セドリックは真摯に俺を説得して来た。
「僕はあの時の自分を助けに行きたいんだ、ゴブレットに名前を入れて、試合に出る事で」
「セドリックはあの後、一人で行くなんてって俺を叱った。だから俺もあの時のセドリックと同じように試合に出るなんてって言うよ」
「……マイの分からず屋」
「どっちがだよ……。とにかく、俺は名前なんて書いてあげないから。名前が書けないならゴブレットに入れに行くのもよしな」
「書けるよ、名前くらい。ただマイに応援して欲しかったんだ」
「応援なんかするか」
なんで死にに行く応援すんだよ、と顔をしかめる。セドリックは深いため息をついて、「もういい」と呟き俺が机に置いた羽ペンを拾って席に着き、少し乱暴に名前を書いた。馬鹿、本当に書くのかよ。
next.
ちょっとばかり喧嘩しました。
Jan 2016