My dear. 11
セドリックは部屋を出て行って、戻って来ても無言だった。ゴブレットに入れたよってわざわざ報告しないあたり、穏やかな気性が見える。……ああマジか、誰が選ばれるんだろう。平凡な男の子が実は魔法使いだった事が分かって、魔法学校でファンタジーに囲まれて、ちょっと戦う程度の児童書だと思ってたのだどんどんえぐさとか人間の汚さとか色々出て来るようになった時は驚いた。もう、去年辺りからえぐかったよね。親を裏切り死に至らしめた親の旧友とか一生治らない人狼とかさ。でも今回のは衝撃だったんだよなあ、ハリーの身近でありつつもたいして関係なかった子があっさり死ぬのが。───ゴブレットはセドリックを選んだ。
皆がにこやかに笑って拍手をする中、俺は壁に背中を預けたままぼうっと見つめていた。それからハリーが選ばれて、会場はしんとしてしまったので俺がセドリックを祝福していなかったことに気づいた人は居ない。
ハリーを責める声と、セドリックをヨイショする声ばかりの学校は過ごし辛くもあった。でも、セドリックが試合に出るのを喜ばない俺はハリーの傍に居る事で、気にかけてやってるみたいな光景が生まれて目立たなかった。
ああ、しかし憂鬱だなあ。セドリックの名前に聞き覚えがあったのは、こういう事だったのか。
「僕、名前なんて入れてないのに」
「知ってるよ」
「……マイ」
ロンがとびっきり嫉妬してハリーにつんけんしてるのは、ロン自身から罵詈雑言プラスで聞いてる。
ハリーは俺を縋るような目で見て、それから俯いた。俺の知ってるという言葉に安心したのか、それでも何も言葉を紡がない俺に苛立つのか、息を飲み込んだり吐いたりしている。
「マイはセドリックの友達だよね、行かなくていいの?」
「ん?今絶交中……なのかな?」
「どうして?」
「まあ色々あって」
「ふうん」
「だから暇な時はハリーの所に来ていい?」
セドリックヨイショムードに乗るのが面倒とか、そ、そんな理由じゃないぞ。
ハリーは夢をみることや、ヴォルデモートが自分を狙っているかもしれないこと、それからシリウスに相談してみることを俺に教えてくれた。俺はそれに対してなにか有効な提案が出来るわけもなく、対応はやっぱりシリウスに委ねる事にした。
数日後にハリーがセドリックに用があるっていうので、俺も一緒に行くことにした。普段からセドリックとも俺ともつるんでるヤツらはセドリック応援バッチってやつをつけてる。だっせえ上に、ハリーもディスってるので大変胸くそ悪い。魔法をもっと有効に使えよ。
「セドリック、話があるんだ」
「ハリー……マイ」
「よう、マイ」
庭のベンチでつるんでいた皆は俺には普通に挨拶をしてきた。ハリーと一緒に居てもさほど嫌われないのは人徳かな、なんて。随分俺が良い子に見えてるんだろう。
「ちょっと話があるんだけど」
「話?あ、うん、良いけど。君も?マイ」
「俺は無いよ」
セドリックがちらっと俺を見たけど、俺はセドリックの連れがつけてるバッチを見たままつーんと返す。
ハリーは第一競技のことをセドリックに告げるために少し離れて行き、俺は皆のバッチをじっとり見下ろしたままだ。
「品性の疑われるバッチだね」
「な、」
「話終わった?」
「うん」
伝える事が少ないってのは知ってたので、俺はすぐにハリーに視線を向ける。
セドリックは「あのバッチ、はずせって言ったんだけど」と言ってハリーと俺を少し引き止めたけど、ハリーはもうヤケ気味なので「良いんだ」ってぞんざいに答えていた。
そのままロンに文句言いに行ってすれ違っていたのを、あちゃーっとセドリックの傍で見ていた。
「マイ」
俺も離れようと思って歩き出そうとしたら、ぐっと腕を引かれる。この引き止め大臣!
あぁん?って顔で見てるとセドリックはまた言い辛そうにする。
「ハリーの事を応援してるの?」
「そんなんじゃないよ」
腕を放させてから胸をぽんぽんと手の甲で叩いた。視線をやった先でハリーがマルフォイと口喧嘩を始めちゃったので一人で寮に戻る事にした。白い鼬ちゃんは可愛いから撫でたかったんだけど、ムーディー先生苦手だから近寄れない。
競技当日の朝、俺は少し早く目が覚めたので皆よりも先に身支度を整えた。それからセドリックのベッドを覗きこみ、寝息を立てる彼を見て和む。こっそりベッドに腰掛けると、セドリックは自然と寝返りを打って俺の方を向いた。
撫でてみたら、さすがに目を覚ましたらしく声を漏らす。セドリックも朝は早いタイプだったなあ、そういえば。
「ん、マイ?」
「……起こしてごめん」
「ううん」
「もう少し寝てれば」
俺の手を掴みながら頬に当ててまどろむセドリックに笑みがこぼれる。
「───ひさしぶりだ」
「そうだっけ?」
「そうだよ」
別に完璧に避けていたわけじゃないはずなんだけどな。
ほっぺを掻いて、セドリックを見下ろすとくすっと笑われた。
「今日くらい応援してくれる?」
「応援してる暇あるか……俺はもー心配で心配で」
「え」
ぱちっと目を開けたセドリックは、そのまま勢い良く起き上がった。
「もしかして、心配してたの?怒ってるんだと思ってた」
「わざわざ危険なところに行こうとしてたら怒るだろ」
「だからハリーのことも気にかけてたの?」
いや、それは別にそう言う訳じゃないけど。セドリックと居たくないってのも確かだったし、ハリーが心配だったのもあるし、まあ色々だ。
「とにかく……怪我しないようにな」
ぽんぽんと足を叩いてセドリックのベッドから立ち上がり、俺は談話室に向かった。
あのあとステージママよりもハラハラしながらセドリックやハリーの競技を見守った。えええええドラゴンこんな暴れるんだっけ?えええ!?鎖とれた時はマジかよ、そうかよ、そうだよね!?ってテンパった。
それでも無事クリアするなんて、ハリーってやっぱり勇者だよねえ。やっかみも競技の素晴らしい盛り上がりのせいでぶっとんだし。多分今グリフィンドール寮は凄い事になってるんだろうな。ハッフルパフも凄いもん。
あの金の卵は、開けて開けてって皆が寄ってたかったもんだから談話室で開けられ、金切り声が響いて大変な事になった。うおおお頭痛い。俺はすぐに耳を塞いだけど、卵を塞がなくちゃいけないセドリックは皆より被害が強くて、げんなりしていた。
next.
主人公はセドリックのこと、最初セオドアと間違えてました。すぐに違うなって思ったけど。
喧嘩したけどすぐ終わった。というか喧嘩じゃなかった。
Jan 2016