My dear. 12
トライウィザードトーナメントがあったとしても俺はスネイプ塾があるので、ちょくちょくスネイプ先生の所に来ている。今回はセドリックとハリーが大変だったねっていう話をしたら「無駄口を叩くな」って冷たく言われて口を閉じる。開心術をガンガンかけられてるので、よしこい!って意気込んでむしろ全開にしちゃうことがあった。今日もやらかして、杖で頭をぺしっと叩かれた。
「やる気が無いなら帰っていただいても結構ですがな」
「すんませ〜〜〜ん」
「気を引き締めろ」
さすがに気が抜けてたなあと凹んで、頭をさする。
「あ、スネイプ先生、死者を甦らせるための材料って知ってます?」
「知らん」
「多分一つは仇の血とかなんですけど」
「……」
俺に開心術をかけようとしていた杖はすっと降ろされ、眉間には皺が寄る。
「ポッターの事か」
俺は頷きもせずにぶつぶつ考察をする。なんか手がかりがあれば邪魔できるんだけどなあ、具体的な名前とか場所とか覚えてないんだよなあ。最後の試合のクリアの時に二人がポートキーで待ち伏せされた場所に連れて行かれて、セドリックが邪魔だからって殺されるんだよね。セドリックに優勝カップ取るななんて言えないし……セドリックに触らせるなってハリーに言ったとしても誰かが触れなきゃ試合は終わらないしハリーだけあっちにいくのも心配だ。いや、賢者の石の時も秘密の部屋の時も一人で行かせたようなもんか。
「先生達の間では、どういう見解なんですか」
「……ワールドカップに死喰い人が来た事も、ポッターが選ばれた事も、作為的な物を感じる」
だからムーディー先生が秘密裏にハリーについている、と言う所までもそもそ教えてもらった。
「ムーディー先生って、おかしな人ですよねえ」
「お前には言われたくないだろうな」
「なんと」
おしゃべりは終了させられ、閉心術の特訓が再開された。
今学年になってセドリックの送り迎えはなくなったので、俺は一人で寮に帰っている。未だに時々スネイプ先生と何やってんのか気にされるけど、適当に誤摩化してた。セドリックは微妙な顔をしてたけど、別にハリーやロンみたいにスネイプ先生と諍いがあるわけじゃないので大丈夫だろう。
「あらマイ」
角を曲がった所で、レイブンクローの女子グループに遭遇した。一学年下の子だけど、その中でも割と賑やかなタイプなので良く話す顔ぶれだ。
「皆ダンスパーティの相手決まった?」
最近の女の子達は目当ての男子にちらちら目線送ったり、逆に目線があるとからかうようにひそひそ話したり、結構分かりやすい。まあ男子も分かりやすいけど。そして俺も今、話題を振られないのにちらちらうふふってされてたので、あえて自分から話を振る。四人のうち二人は相手が決まっているけど、後の二人は決まって無いみたい。
「断っちゃったの?」
「ふふ、そうかもね。マイは?」
二人とも可愛い子だと思うんだけどなあ、と思ってへらっと笑う。
「俺はまだ。というか、ダンス苦手だからな〜」
苦手っていうかそもそも俺に踊るという概念は存在しないんだよマジで。踊るの恥ずかしいし。あわよくば行きたくない。
「早く決めないと、良い子いなくなるわよ」
「良い子?チョウみたいな?」
「やだ〜」
「スージーとチョウがいるなら、まだまだ大丈夫かな」
いたずらっぽく笑うチョウとスージーに、俺も同じくらいのテンションでジョークを返す。
ダンスパーティって強制なんだっけ。あ、セドリックとか代表選手は皆の前で踊るんだったな。
「ていうかセドリック大丈夫かな、まだって言ってたな」
「え!?セドリックが?」
「たしかそう。決まったら報告してくるだろうし」
「意外だわ」
あいつもてるもんねえ。女の子が皆してびっくりした顔をしてる。
でも女っ気ないんだよなあ。俺がべったりしすぎたかなあ。いっちょおせっかいやいとこうかな?
「どう?二人のどっちか、セドリックがもし良いって言ったら」
「あら、あまった一人はどうしたらいいの?」
「ん〜俺?」
「じゃああたしマイで良いわよ、代表選手と踊るなんて目立つしね」
「あははは、チョウは?」
「マイをスージーにとられちゃったから、セドリックでも良いわ」
ふざけた感じでお高くとまる二人にぶはっと笑ってから、「まあ、他に良い人がいたら気にせずどうぞ、今度正式に誘うまでは」と告げて離れた。
ちなみにセドリックはダンスパーティに誘う女の子を見繕ってないというし、「どうすんだよ」って聞いたら「どうしようか、マイと踊ろうかな」って言うていたらくだ。おめー代表選手の自覚あんのか!?おい。
しかたないので、親戚のおばちゃんレベルにおせっかいを発揮して、女の子をあてがってやった。チョウは良い子だし、美人さんなので目立つ中にいても見劣りしないだろう。
パーティー当日、始まるのを待ってる間にスージーから聞いたんだけど、ハリーがチョウをダンスパーティに誘ったらしい。俺はとっても申し訳ない気持ちになった。無駄なおばちゃん力発揮してごめん。ハリーも代表選手なのに……ああでもセドリックにペアがいなかった場合俺が踊るハメになってたかもしれないのでそれにはかえられない!いや、その場合でもぜってー踊らないけどな。
毎度のことだけど、ハリーは踏んだり蹴ったりだ。
でもハリーは女の子と組んでるからぼっちにはならなかった。あーよかったあ!もしペアが居なかったらスージー譲らないと……とかまたおせっかいなこと考えてたから。
「クラムのパートナー、ハーマイオニー・グレンジャー?」
「あ、ホントだ。すごいなあ、ハリーもハーマイオニーもロンも」
「ロンって?」
「なんでもない」
ロンに関してはドレスローブがすごいだけなので口を噤む。馬鹿にするつもりはないけどロンのママ何者なの。フレッドもジョージもまともな格好してるじゃん?なんでロンなの?お下がりの数足りなかったの……かな?むしろ一番可愛い末の弟だからフリル?
代表選手がワルツを始めて、ダンブルドア先生とマクゴナガル先生がすっと入って行くと大人達が戦陣きってリズムに乗り出す。視界の端でフィルチさんがミセスノリスを抱っこしてゆらゆら揺れてんのを見た時は頬の内側を噛んで笑うのを堪えた。
「ハリー、ロン、どしたの、そんなにしょげて」
ワルツの音楽がロックに切り替わったあたりでペアとははぐれたので、ハリーとロンがペアの女の子と一緒にぐったり座ってるのを見て、俺は人混みから抜け出した。
一人はダームストラングの男子に連れられていってしまい、もう一人は誘いも無く嫌そうに座ってた。
男はどっちもフラれんぼなんだもんなあ。でも隣に居る女の子をちゃんとエスコートするべきだと思うよ俺は。
見上げて来た二人は言葉少なく挨拶して、また視線を落とした。そのときハーマイオニーがクラムから少し離れてハリーの隣に座ってはにかんだ。
「熱いわね」
「おあついねえ〜」
「やだ、マイってば茶化して」
「今日は特別素敵だね、ソーキュート!」
ウインクしたらぱたぱたと顔を仰いでいたハーマイオニーはうふふっと笑いをかみしめる。うん、かわいいかわいい。
男共は俺くらいのこと言えないとだめだぞ。まあ、女友達との距離を測りかねる年頃なんだろうけどさ。
「ハリー、ちょっといい?」
ハーマイオニーがロンの言葉にぷんすかして立ち上がり、クラムが持つ飲物を受け取りに行ったからくいっと親指で向こうを指す。一応ね、一応、俺も謝らないといけないことあったよね。
「チョウのことなんだけど」
「え」
「スージーに聞いたんだ……あー、チョウの友達ね。チョウのことをダンスパーティに誘ったの俺なんだよ」
「でも、セドリックと行くって言ったんでしょう?」
俺もハリーもしどろもどろに会話をする。なにこれ、めっちゃ話し辛い。
「セドリックがいつまでも相手を決めないから、俺があてがっちゃったの。ハリーがチョウのこと気になってるって知らなくて」
「そう、だったんだ……でもマイは悪くないよ」
まあ早く誘わなかった男が悪いんだけどさ。
とにかく、普通に誘い誘われたわけじゃないことくらい教えておいてあげたかったので、俺は頬をかきつつ未だにしょげてるハリーの頭をぽんぽんと叩いた。
「元気だせ?」
「ん」
はにかんでくれたハリーの肩を掴んでくるっと反対を向かせ、ロン達が口論しながら消えて行った方に押す。あいつら絶対こじらせてるぞーって思ったら案の定ハーマイオニーがロンにブチギレだった。ひぇ。
「どこいってたの!!?もういい!あなたたち二人とも帰って寝れば!?」
あ、俺のことは数えないでくれたのネ。
急にキレられたハリーも訳が分からず、無言でハーマイオニーとすれ違って行く。
「女って年々怖くなるよな……」
「ロン!」
「どうして全部ぶち壊しにするの!?」
どーせお前が何か言ったんだろうに……と思って咎めたけど、それすらも遮ってハーマイオニーは糾弾した。ハリー、「なんで喧嘩したの?」じゃないんだって、男の友情もあるだろうけどさあ……うん。
「だいじょぶ?」
「ぅ、ぅう……マイ〜〜〜〜」
階段にドレスのままぺちゃりと座り込んでしまったハーマイオニー。しゃがんで顔を覗き込むと折角綺麗に化粧してたのをくしゃくしゃにして泣いてる。
「デリカシーなかったね、大丈夫、大丈夫、ロンが悪いよ」
セットした髪だけど、ここまで来たら気にしないだろうと思って頭を撫でる。
「マイ〜」
もうさっきからマイ〜しか言ってない。ハイヒールぺいぺい脱いで足をさすってて、ああ靴擦れも我慢して楽しんでたのにねえ。可哀相にねえ。
「もう、もう、マイにする〜!うぅぅ……」
「あっはっはっは!ロンの前で言ってやんな〜」
おんぶして寮に送っていく俺の背中でハーマイオニーは子供みたいにうえんうえんしていた。
next.
ハリーの初恋は主人公じゃないから安心(?)してください。
June 2016