My dear. 13
セドリックは第二競技の課題のヒントに悩んでいた。何度も室内でたまごを開けられるので、俺の頭がぱーんする前に、セドリックの頭をぱーんと叩くことにした。「うるせーよ!」
「ご、ごめん」
ベッドにもふもふと転がっていったたまごを拾って差し出す。
「ほら、これもってゆっくり風呂でも入って来い!そこならうるさくしていいから!」
「……うん……。あ、マイもどう?湯船すきだろう」
「監督生用の風呂でしょ」
「いいんだよ、どうせ誰も入ってこないし」
「じゃあうるさくすんなよ」
「えぇ」
俺はぺしんと背中を叩いてお風呂に促した。
やっぱ湯船に入れると思うとラッキーってなるのが日本人なんだよなあ。
監督生用のお風呂は泡風呂で、なんか色とりどりの水が出て来る蛇口もあって面白い。マートルまでついてきてもっと面白い。
「え、マートル?」
「はぁい、セドリック、マイ」
彼女は俺たちの隣で風呂に浸かるので、一応泡をたぐり寄せて身体を隠してみた。痴女いなあ、この子。
「二人でお風呂?ナカヨシなのね」
「課題の相談だよ、まあナカヨシだけど?」
引き気味なセドリックの代わりに俺が答える。
「あつあつね、あたしはお邪魔虫ってわけ?」
そして何故か勝手にネガティブ発揮してすんすん泣きながら出て行った。え、今のって俺が悪いの?そう思ってセドリックを見たらほっとしていたのでまあ良いかと思う事にした。
「次の課題……、どうしようか」
バスタブの所においてあるたまごをセドリックが身体を捻って手にとり、沈んだ顔で見つめた。
「それ、水につけてもいいの?壊れない?」
「え?」
「……いや、そうか、マグル製品じゃないもんな」
機械じゃないんだから不具合は起きないはずだ。
半ば水に浸かってるそれを、じいっと見ているけれど一向に開ける気配はない。
「開けてみれば?」
「でも、うるさくするなって」
「一回なら良いよ」
すちゃっと耳を塞いだら、セドリックは嫌そうに開けた。耳を塞げない自分が一番嫌だよね、分かる。
しかし耳を塞いでいてもうるさいので俺は片手を耳から放して、たまごを水に沈めた。よし、うるさくなくなった。
「あれ、音が……違う」
「ほんとだ」
きいきい言っていたのが全然違う音に聞こえて、セドリックは驚く。
水の中に入ると音が変わる魔法なんだろう。
でもなにを言っているのかまでは聞こえないから、セドリックは水に潜った。俺も折角だから潜ることにして、息を深く吸う。
水中では光るたまごをセドリックが抑えてじっとみていた。俺はその腕に掴まって、綺麗な光景を眺める。
ぷは、と口を大きく開いて外に出ると、セドリックも同様に息を大きく吸う。
「聞いた?マイ」
「ん、うん?うーんそこそこ」
実はあんまり聞きとってなくて、聞いてもすぐ忘れてしまって情報は曖昧なので苦笑いを返す。
「もう一度聞く?」
「いいよ、セドリックが聞いたなら」
「いいの?」
顔についた水を拭いながら断る。
「うん、別に。綺麗なのが見れたからそれだけで」
「綺麗……ああ、たまごの中身、落ち着いて見ると綺麗だよね」
「それもなんだけどさ」
ふふっと俺は良いながら笑う。
「セドリックの目は色素が薄いから、光が反射して凄く綺麗に見えたんだ」
良い終えた時にちょっと恥ずかしい事だったかも、と思ってごまかすようにへらっと笑う。
「……僕はマイの方が綺麗だと思うよ」
「なにいってんだお前は」
なんで全裸で褒め合わなきゃいけないんだ。いや、俺が始めちゃったことだけども。
「俺に綺麗って言われるとこなんてないと思うけど」
「そんなことない、僕はいつも───」
揺れる水面を見たと思ったら、灰色の瞳がこっちを見た。
光が反射していなくても、俺にとっては珍しいその目は綺麗だと思う。
じっと見つめていたらどんどん近づいてきて、噤んでしまった唇を俺に押し付けた時、その瞳は閉じられていた。
濡れた温かい手が、俺の少し冷えた肩を掴んだ。
ぼたぼたと、身体にお湯が落ちて来た。
あまりの事に固まっていた俺は、ゆっくりとその瞳が開けられて顔が離れて行くのをぼんやりして見ていた。
「───いつも、いや、……初めて見た時から、綺麗な子だと思ってた」
言葉を理解したけれど、なんと言ったら良いか分からず絶句する。
そんな俺を見て、セドリックはのぼせる前に上がろうと促したのでとりあえず頷いた。
それ以降、話は再開されなかった。
今年は色々忙しいし、それどころじゃないと思う。互いに。
課題の事もあるだろうし、俺にも予定ってもんがある。今年はあの人復活するっていうし、セドリックの命が危ないし、どうにかしないといけないわけだ。
だからこう、もじもじうだうだしてる暇なんてないっつうか……。
「───ぷはっ」
風呂とは比べ物にならないくらい冷たい水の中から顔を出した。
第二の課題の前に先生に呼び出された俺は湖の中で待機することとなり、セドリックのプリンセス役をやらされていた。
「大丈夫?マイ」
「ん、ああ……」
ちゃぽちゃぽと水の音がした。セドリックは抱き寄せた俺を見下ろすから、あの時みたいに水がぼたぼた俺に落ちて来る。俺は顔を拭ってから改めてセドリックを見てしまい、恥ずかしくて顔をそらす。
もじもじしてる暇はないって考えてたのに、同じような状況が来るとかほんとひどい。思い出さざるを得なかったんだ、しかたない。
「……水から上がろう、向こうで先生方が待機してる」
「うん……俺泳げるよ」
「駄目」
放してと言いたくて肩を押したけど、ぐっと捕まえられて俺は水の中を引っ張られてすすんだ。
タオルに包まれて、他の選手たちが上がってくるのを待っている間も、俺はまだセドリックの方を見られなかった。
next.
セドリックの初恋はいただきました。
初恋泥棒はおこがましいから、ときめき泥棒にしようって少し前に改心したはずですが、やっぱり時には初めてのトキメキを奪い人生の道を狂わせたいの……(言い訳)
June 2016