I am.


My wiz. 02

そういえば、なんで日本に来てるんだろうあの二人、次の日そう思いながら目を覚ました。
登校中に考えてみたけど、そうじゃないと物語が始まらないから、かな?ということで納得する。いずれ、どうして日本に来たかってのは分かるだろう。まあ、……関わればの話だけど。

正直、今後どうするかは決めかねている。
ジーンを助けられたなら、もうそれで終わりで良いような気がしなくもない。

旧校舎の中に入って一悶着起こしてリンさんに怪我をさせ……睨まれるのかと思うとビビる。
一応件の校舎の前に来てみたけど、入ってみようという気は全くなかった。
「谷山くん、だよね?」
あれ、と声がしたので振り向くと、ジーンが微笑みながら近づいて来るところだった。何で名前知ってるんだろう。
「おはようございます、渋谷先輩」
「おはよう、どうしてここへ?」
「なんとなく気になって」
「なんとなく?」
一瞬だけ目を開いたあと、興味深そうに俺の顔をじっと見て来る。
そういえば昨日転校生みたいなものって嘘をついていたから、そっちだってここに居るのもおかしいはずだし、それこそ俺から何も聞かないのも変かもしれない。
「渋谷先輩はどうしてここへ?」
昨日嘘をついた手前、どう答えるのかが気になってにっこりしながら聞いてみた。
僕はちょっと、と言いかけたときに校舎の中の方で音がした。俺とジーンは躊躇いなく旧校舎の中へ入る。どうやら下駄箱が倒れたらしい。
お、俺は何もしてないゾ……。
「ごめん、手伝ってくれる?」
運の悪いことに、リンさんと思しき男の人とカメラが下敷きになっていた。ジーンがリンと呼びかけているから本人だろう。もう一回言うけど、俺なんもしてないよ?
「大丈夫?血が出てますけど」
ティッシュもってたっけ、と思いながらポケット叩いたけどそんな気のきいたものをこの俺が持ってるわけもなく、腰に差してる杖の堅い感触しかしない。魔法で治してやるわけにも行かないので、リンさんは残念ながら病院へ行ってください。
「あなたの手は必要ではありません」
「えー」
足をくじいたようで、肩をかそうと近づいたら睨まれてしまい、ほっぺをかりかりかくはめになる。
俺なんもしてないのになあ。
「この近くに病院は?」
「え?ごめんなさいこの辺のことはまだ、よくわからないです」
エヘ……超絶役立たずな俺は笑うしかない。
ジーンはそうだったね、と肩をすくめる。
俺のこと知ってるの?いや、多分昨日女子に聞いたんだろうな。一人だけ男だったから何でって思ったんだろ。
「君は授業に遅れてしまうから、行って」
「大丈夫?」
「急を要するものじゃないから」
優しく笑ったジーンと、俯き気味にどうぞ行ってくださいって顔をしていたリンさんを二〜三回振り返りつつその場を離れた。

まてよ?これ、俺が手伝う理由ねえな。しょうがねえな。ヤッタネ。
そう思っていた俺だったけど、放課後教室にやってきた渋谷兄弟はあろうことか俺を指名した。まさか昨日の面子の中で俺の名前しか知らなかったとか、女の子に声をかけるのが照れくさかったとか言わないよな?
ちょうど昨日の女子たちに今日も怪談やらないかって誘われて断り、黒田さんが話に入って来た所だったので、タイミングとしてはばっちり最悪なんだけど、俺を呼び出すのはおかしいと思う。
黒田さんの私霊感強いのよねって話にナルの方が食いついてる間、手持ち無沙汰だったので鞄を数秒眺めて、よおし帰ろうと肩にかけた。すたこらさっさと反対側のドアから廊下へ出ると、俺に気づいてしまったジーンが廊下に居て、にっこり笑って待ってた。ひええ、怖い。
「ひどいな、どうして帰ろうとしてるの?」
ひええ、怖い。
「きみにお願いがあって来たんだけど」
ゆっくり近づいてくるんじゃない……やめるんだ。いや、素早く近づかれても嫌だけど。
「———ん?お願い?」
「そう。今日、一人怪我人が出たろう」
「ああ、あの人。大丈夫でした?何があったんだかしらないけど……というか、知り合い?」
「助手みたいなものかな」
途中で、ナルがふんと鼻息漏らしながら廊下に出て来て、まだ話を通してなかったのかと言うので、なんとなくジーンの言いたい事は分かり始めて来た。
「仕事、手伝ってくれないかな?」
「内容にもよる」
俺は弱味もないし、麻衣ちゃんでもないので引き受ける理由があまりない。
なんというか、麻衣ちゃんとしての役目っていうのはもう果たしたと思うんだよねえ。ジーンが居るんだし、俺がいなくとも日本で調査してるなら、今後に問題はないだろうし。
ただし無下に断るのも可哀相に思ったので、一応確認をとってみた。
「主に肉体労働と聞き込み、だな」
「さようなら」
「まっ、まって……聞こえが悪いよそれじゃあ」
ナルの言う仕事内容を聞いてすぐに踵を返したが、ジーンが俺の腕を掴んでナルに不満をたれる。
「僕は正直かつ簡潔に答えたつもりだが?それを彼が嫌がるならやらせるだけ無駄だろう」
「そうだけど……」
「まずなんの仕事か知らないけど、聞き込みって学校内?俺、昨日が初登校だからそんなに知り合いいないし、噂とか集めて来られる訳じゃない。あと、肉体労働があるなら尚更、時給が発生するバイトするんで、俺苦学生なんで」
「バイト代はもちろん出すよ」
「やる〜」
思い出した、ここのバイト代高いんだった。

ナルとジーンは俺を引き連れて旧校舎へ向かいながら、事情を説明した。ゴーストハントという職業については知ってたけど本人の口から聞きたかったし実際にその仕事してる人には初めて会ったから新鮮で、ちょっとだけ質問もしてみた。
「魔女狩りはしないよね?」
「ゴーストの意味を分かっているか?」
「ア、ハイ……前に歴史でならったもんで……つい、ウィッチハントっていうじゃん」
「ハントしか同じじゃないね」
ナルからのお前馬鹿か?という視線とジーンからの冷静な突っ込みをいただいた。
魔女狩りを教える歴史の単元ってあるの?と聞かれたらホグワーツのカリキュラムにはあるんだよ、としかお答えできない。
職業の次は旧校舎の話をしてもらったけど、ジーンはやっぱり幽霊は居ないと言ってるみたいだし、ナルは大した事件ではないと思うって言っている。俺の手伝い必要なの?と思ったけどそれ以上聞かないでおこう。

「何も聞かないんだね」
「へ?」
マイクの設置とかカメラや三脚を運ばされたりしている間、特に何も質問しなかった俺はジーンにまじまじと顔を見られた。
「普通、これなに、あれなにって聞いてくると思うけど」
「少なくとも僕は聞かないが」
「マイクとカメラの用途ぐらいわかりますう」
ナルは俺の答えにもっともだな、と頷くがジーンはそうじゃなくてと笑う。
「ゴーストハントなんて、まず耳慣れないじゃないか。それに、ゴーストハントに使う必要があるのか、と疑問に思うだろう?」
「ははあ」
なるほど、俺は好奇心旺盛だと思われてたのかと思ったけど、むしろ何も聞かない方がちょっと変なのか。ナル的にはこっちのが良いみたいだけど。
「十七歳だっけ?」
「?ああ」
二人はそろって首を傾げてから頷いた。
「若いのにもう仕事してるんだね」
「必要とされているから」
俺なんてわざわざ高校入り直したぜ、と思いながら言うと、ナルがきっぱりと答えた。
興味本位で重ねて質問してみると、ナルシスト発言がでるわでるわで、知ってても実際にしれっと涼しい顔で言われると若干俺の顔が引きつる。
「あの人ナルすぎない?大丈夫?」
「———ナル?」
「ナル」
ジーンが一瞬目を見開いて、聞き返す。俺は頷き、ナルは訝しげにこっちを凝視した。そうだ、ナルシストのナルもそうだった。全然意識せずに口走ってたので、あっと気づいた顔をさらしてしまう。
「もしかしてナルってあだ名?言うねえ」
誤摩化してからういうい、と肘で突くとすっごく嫌そうな顔をされた。
絶対ナルって呼んでやろうこいつのこと。早く正体バレちまえ。


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リンさんには何もしてなくても冷たい目を向けられるのがGHでの洗礼。
Oct 2016

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