My wiz. 04
綾子の除霊が終わったあとにガラスが割れたり、真砂子が脆い壁から外へ落下したり、祈祷中のジョンが落ちて来た天井の下敷きになりかけるっていう、おかしな事故が多発した。そのくせに霊がいるというデータがとれない為、ナルは調査の仕方をかえたらしい。俺はさすがに夜間まで働かされることはなく先に帰らせてもらうと、翌朝ワゴンのところへいくとナルとジーンが中で仮眠をとっていた。多分明け方とかに寝たんだろうなあ。
窓にへばりついて覗いた後、ワゴンに背を向けて少しだけ寄りかかった。
「おい、どうしたんだよ実験室!」
起こさないでおこうと思っていた矢先に、ぼーさんとジョンと綾子が実験室を見たようで、慌てて駆け寄って来た。
「夜中まで頑張ってたみたいだから、起こさないでよ」
「はあ?」
ナルとジーンの姿を探す大人達に、俺は肩をすくめるが騒がしくしていた所為でワゴンがあいた。
「何を騒いでいるんだ?」
「、来てたんだ」
「おはよ、実験室どうしたの?だって」
不機嫌そうなナルと、眠たげなジーンにぼーさんと綾子はつめより、ジョンも説明を求めるように困った顔をした。
地盤沈下だろうと判断して撤退を決めた二人に、皆ぽかーんとしてしまったけど俺はこっからが大変なんだよなあと先を考えて憂鬱になる。
程なくして黒田さんがやってきて、俺達が片付けをしている様子を見て顔をしかめる。
地盤沈下だと言っても認めてはくれないらしい。
沈んでるのは事実みたいだけど……。
「……残念だね、夢が消えちゃって」
顔を背けてしまった黒田さんの後頭部に投げかけた。ナルとジーンは俺のひとり言か、二人への言葉ととったのか、何だと聞き返して来る。
「黒田さんは、ここに霊が居て欲しいんでしょ?」
ふたりははっとしたけれど、俺の言葉に黒田さんがびくりと肩を震わせた。
その瞬間に、ぴしりと何かが軋む音がして、教室中の窓にヒビが入った。
「うお、」
知ってたとはいえ急なポルターガイストに感嘆の声を漏らす。
ピーブスのことを思い出したが、これは彼女のストレスが高まってのことらしいので、ピーブスみたいに不確定多数の人間の感情が混ざったようなものとも違う。
苦い顔をしつつ、ナルとジーンは俺達を教室から出るように促した。
ナルに今は放っておいてくれと言われてしまったので、俺はジーンと残された。ジーンは良いの?って思ったけどそうだよな、一応判断を下したのはナルだったし。
「どうする?機材は運び出しとく?」
「そうだな……倒壊するか分からないのは事実だし、そうしよう」
少し考えてからジーンは頷き、ぼーさんが祈祷するという話を聞き流しながら俺達は機材の運搬を行った。ジョンも加わりあらかた片付け終えたところで、一度帰った筈の黒田さんがまたやってきた。いやあフットワーク軽いな。
黒田さんはまだ霊は居ると言い張り、ぼーさんと綾子がやっぱり否定した。
これ、激昂して魔力放出するのと似てるなあ。
基本、自分の魔力って杖とか箒がないと使えないものなんだけど、感情次第で出てくる事もある。それは大抵暴発だから、けして良い事にはならないわけで、だから俺達は魔力を杖などの媒体を用いて放出する方法を学ぶ。
そんなことを考えながら、下駄箱に潰された俺はぼんやりと目を開ける。
ジーンが俺の顔を覗き込んでいるので、ああこれ夢かな……とも思ったけど、———現実だ。ジーンは実在するんだから。
「だいじょうぶ?」
「うん」
ゆっくり起き上がると、ジーンのと思しきジャケットがかけられていた。悪いねえと渡すと、躊躇いながら受け取られる。別に寒くないし眠るつもりもないので大丈夫だっての。
「げたばこ、さわってみた?」
「うん、あたたかかった」
「みんなは?」
「帰ってもらったよ。ナルもまだ」
「ふうん」
ここで皆が見ててくれるんじゃなかったっけ、とも思ったけどよく考えたら雇い主のジーンで事足りた。もう朝の4時だし。
「はどう思う?」
「えー?」
ちょっと寝癖がついた髪の毛を撫で付けながら首を傾げたら、ジーンは俺の答えを待つように黙る。
「地盤沈下は事実なんでしょ?霊は居ないんだと思う」
地盤沈下については、ジーンが頷いた。
「霊は居ない?」
「だって、真砂子が言っていたし」
「黒田さんの言い分は?」
「あんまり信じてない。だって、あの人普通の高校生じゃん……ま、あんまり良い噂も聞かないしね」
平凡でまっとうな意見を零したつもりだ。
「噂って?」
「んー……中等部のころから、幽霊が見えるって自慢してたみたいだよ。女の子達が結構嫌がってた」
「本当なのかもしれないよ?」
「———本当かな?」
口に出して批判する勇気はないので、ジーンを見て笑って誤摩化す。
「ジーンはどう思う?ここに霊は居ると思う?」
黙って言葉をのんだジーンに、今度は俺が聞く番だ。
躊躇いがちに、居ないと思う、と口にした。
「ジーンが居ないっていうなら、居ないな」
「僕が?どうして?」
旧校舎の方を眺めて、手を後ろにつきながら身体の力を抜く。
ジーンの口から霊は居ないと聞けたので内心ほっとしている。
「霊能者とか高校生とかは判断基準だけどさ……この面子の中で俺が一番信じるべきはナルとジーンだと思わない?」
「そういうもの?」
「信頼してるよって意味だよ、喜べ」
きょとんとしているジーンの腕をぺしっと叩いてやった。
一度家に帰って登校し直すと、旧校舎の件でクラス中が賑わっていた。黒田さんハート強……。
授業を受けずに校長室に呼び出された時は何かと思ったけど、そうだ暗示実験が待っていた。暗示実験だって分かってるのにかかるのか。そしてかかってしまってもヤバい気がする。念力はないけど魔力はあるわけで……。だからって俺の魔力が器用にナルの言う事を聞けるかも分からない。あ、こういう時の閉心術では?
ナルの静かな声を聞きながら、スネイプ先生を思い出す。う、ううん……陰険な顔が……あ、いや、集中してないわけじゃないんデス……怒らないでせんせ……。
ナルとジーンは次の日霊能者だけを集めたので、本当は俺が行く必要なんてなかったけど黒田さんに連れられて一緒に旧校舎にいくことになった。案の定暗示は成功していたけど、多分俺じゃない筈。
「該当するのは黒田さんと……だけになる」
「お、おう」
「二人をくらべてみれば断然あやしいのは黒田さんだ」
俺は引きつった顔で頷く。
「君は中学の頃から霊感が強いので有名で、それで周囲に注目をあびる存在だった」
ナルはゆっくりと黒田さんの中学時代の噂を話し始め、ジーンは隣で俺をそっと見た。そういえば昨日俺もジーンにそんな話したな。まあナルはクラスメイトの子たちに連絡をとって聞いて来たみたいだけど。多分、俺の事もかな。……でも俺まだ学校通い始めて数日しか経ってないから、噂も何もねーだろ。
「ねえ、それも一理あるけど、この子だって怪しいじゃないの」
「ほ?」
綾子が急にこっちを見た。悪意があるっていうより、ちょっと腑に落ちないみたいな。
「この子、転校生なんでしょ?たいていそういう子ってまわりにチヤホヤされるじゃない。それが徐々に減ってくんだから……」
「え〜そうくる?じゃあ、俺が犯人でも良いよ」
なんだこいつ、という視線が集中した。いやべつに、犯人探しが目的ではないし。実験は成功しわたけだし。
「俺、念力の才能あったのかな?迷惑かけてごめんなさいでした?」
てへっと笑って謝ったけど、納得してない顔をしてた。
なんだよ俺かもって言い出したくせに、みんなノリ悪いなあ。
「この方に自己顕示欲とかはないと思いますけど」
「ボクもそう思います」
真砂子がちょっと呆れた顔で、ジョンは困った顔で言う。後者のみ、庇ってくれてる雰囲気がした。
「原さんの言う通り、これはそんなタマじゃないのがまず第一の理由だが……今回の暗示実験、だけはかかるのに失敗している」
「え」
バレてたんだ〜と思いながら、皆の驚く顔と憮然としたナルを見てへらへら笑った。
なんでも、暗示の後はイスに視線が行くらしい。まあ俺は見なかったしさっさと教室を出てったわけで、つまりその時点でバレてたと。かといって俺に声をかけられないし、多分俺じゃないだろうからそのまま実行したそうだ。なんかごめん。
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閉心術は出来てません。でも暗示にも失敗しています。問題は無い。
Oct 2016