I am.


My wiz. 05

あの後普通に皆と別れたんだけど、そういえばジーンに俺の事覚えてるか聞くの忘れてた。
渋谷の道玄坂あたりに事務所があるのは知ってるけどそれ以外わからないし、校長先生に聞く勇気もないし……と思っていたらちょうど俺に電話がかかってきた。そういえばバイト代出すって言われてたんだ。連絡がくるのも当たり前か。
放送で呼び出された俺は事務室に向かいながらなるほどと頷いた。
「うん?ナルかな?」
もしもしと電話に出ると、名前を呼びかけられる。そういえばどっちだろう。さすがに第一声じゃあわかんないな、表情見えないし。
原作通りならナルなのでそう聞いたけど、電話をかけてきたのはジーンだった。
あれよあれよと言う間に俺はアルバイト継続が決まり、オフィスの住所をゲットし、顔を出す約束までする。
数日後、事務所に顔を出すと前もちらっと顔を合わせたリンさんと、ジーンとナルが勢揃いしていた。いや、偶然居合わせただけでリンさんは俺の顔など見たくもないと……言いたげではなかったけど、そそくさと個室に入って行ってしまう。え、せめて、こう、挨拶とかないんだ。そういえば大分先までフルネーム知らなかったみたいだし、最初に自己紹介とかしてないんだろうな。
「契約書、これね」
「あいよ」
出された契約書をさっと見てみると、俺の個人情報を書く欄から休日、賃金、手当、などが書いてある欄などがある。危険手当あるやんけって思ったけど当然だった。
俺が書く欄は名前と生年月日と現住所と電話番号、あとは最後に署名と印鑑のみなのでものの数分で書き終えてジーンに渡す。
ん?と声を上げたジーンにつられてナルもその契約書を覗き込んだ。
「今年で17歳?」
「あ、そうそう、一年遅れて高校入ったの。年齢は二人と同じかな?」
深く聞くつもりはないようで、二人はふうんと頷いた。
校長先生あたりから孤児なことは聞いてるんだろうけど、他には何を聞いてるんだろ。いや、本当にそれくらいか?校長だってわざわざ一年遅れて高校入ったとか、前までイギリスに住んでたとか言わないか?
「電話番号が空欄なのは?」
「うち、電話ない。なんかあったら学校に電話して。あ、学校の番号書く?今ちょっとわかんないんだけど」
「いや、いい」
ナルがそっと視線を動かした先は、電話番号のところだろう。
生憎俺は日本での地元の友達とはほぼ音信不通状態だし、ホグワーツのお友達はもっぱらおてまみである。


7月になってバイトして3ヶ月になるが、依頼人は特にこない。もうすぐ夏休みだなーと思っていたらある日事務所の窓を拭いていた俺の目に、向こうから影が飛んでくるのが見えてとっさに窓を開けた。
もうオフィスは冷房が効いていたので、温い風に気がついたナルが開けるなと背後で文句をたれた。
「窓の外になにかあった?」
俺は目を凝らして飛んで来るものを見つめる。
ジーンは興味を抱いたようで俺と同じように窓から外を覗き込んだ。
「———鳥?なにかが括り付けられている……?」
ジーンの言葉に俺もやっぱり、と思う。
「こっちに向かってきてる、下がって」
俺は自分のすぐ後ろに居たジーンを背中で押した。
「馬鹿、窓を閉めろ」
ナルがそう言った矢先に、びゅんと飛び入ってきたのは小柄なフクロウだ。
なんだってこんな時にお便りがくるんだ。しかもわざわざフクロウ使って……。
部屋の中を旋回した『豆フクロウ』は、俺が手を出すと荷物を落とし、フクロウ自身もへちょりと荷物の上に落ちて来た。滅茶苦茶ヘバってる……。
「お、お前ピッグウィジョンだな?無理しちゃってもー……」
どうやって来たんだよ……と思うが想像出来ない。飛行機とか勝手に乗って来てたらいいなと思うがまあ無理だろう。正直他にも送り方はあったはずなんだけど、と思いながらナルとジーンの胡乱な目つきを甘んじて受け入れる。
「フクロウが……荷物を運んで来た?」
「知ってるフクロウ?」
荷物自体はそんなに大きい物ではなかったのでその場でかさかさ開けると、手紙とバースデーカードとキャンディーの詰め合わせが入っていた。
ハッピーバースデー!と書かれたメッセージカードには『Dear Mai』と書かれている。名前を変えたって言ってないからしょうがないけどさ。
ナル達は俺の前の名前を知らないだろうから手紙やカードをしまう。ところがハッピーバースデーの文字は瞬時に見えたようで、十中八九お前の知り合いだなという目をされた。そうです知り合いです。
ハーマイオニーとロンとハリーが誕生日を祝って三人で送って来てくれたみたいだけど、お前ら日本との距離知らないわけじゃないよね?特にハーマイオニー。
「こいつ、友達のフクロウ」
とりあえず説明してから、瀕死の豆フクロウをよしよしして、水をのませるべく流しに移動する。
おかしな事態だった所為か、ナルは動物を入れるなと言って来る気配はない。
「オフィスの場所なんて知らないのによく来たなあ、家に居なかったから探しまわったのか?」
ひゅーひゅー変な呼吸をしていたピッグウィジョンは、肯定するようにぴぎいと鳴く。
ひとしきり水を飲んだが当然まだ疲れているので、俺の膝の上でくつろいでいた。
「すごい芸当を仕込んだんだね、友達」
「ウ、ウン」
マジシャンの飼いならされた鳩と同じ扱いをしてくれているのか、ジーンはあまり疑っていないようだった。これがイギリスから来たって知ったらとんでもないことになるので手紙は絶対みせないでおこう。
「そういえば、誕生日だったんだっけ」
「あ、昨日ね」
契約書に書いたとはいえ覚えているとは思っていないし、昨日自分から言う気もなかったし、むしろ夕方まで誕生日だと言う事を忘れていたくらいで、……ん?
「あーー!!!!」
「は?」
ナルはピッグウィジョンを抱えた俺が立ち上がるのを見上げて眉を顰めた。
俺はそんなナルを悲しい顔で見て、もう一度座る。ピッグウィジョンにすりついて、へこたれると、ジーンがどうかしたのかと聞いて来た。
「荷物の受け取り拒否……」
「なに?」
「誕生日祝で……へんなものが……送られて来る」
「———お前の友人は変人ばかりなのか?」
否定はしない。
「だいたい、荷物が届くなら当人が居ないと駄目なんじゃ」
「……置いてかれてると思う」
日本の宅配便でも、ソッチの普通の宅配便でもないのだ。
「でもそっかあ、17歳かあ」
「おめでとう」
諦めてピッグウィジョンを撫でながらソファの背もたれに頭をのっけた。
ジーンは窓を閉めてから隣に座り微笑み、ナルは特に何も言わずに資料に目を通している。
「二人はまだ17歳じゃないんだっけ?」
成人したから魔法を使っても大丈夫なのだと思い出し、うっきうきだ。
「僕たちはまだ先。9月だよ」
「へえ、もうすぐじゃん、やったね」
「誕生日が来ても別に嬉しいとは思わないが」
「僕は嬉しいけどね、色々な人からおめでとうって言われるし、プレゼントもらえるし」
「なんか欲しい?」
俺は魔法が使えるからやったねと言ったが、ぶっちゃけナルと同じように誕生日に思い入れはない。もちろんおめでとうは嬉しいけど、それだけだ。
あ、でも向こうにいた頃の誕生日は毎年盛大に祝われていたから楽しかったなあ。
今年はあまりに何もなかったので忘れていた。
セドリックが誕生日プレゼントは何が良いかって正直に聞いて来るのも、今年は当然ないんだった。
「その前にのお祝いだろう?何か欲しい物はないの?」
「んー、特に無いよ、今年も皆が平穏無事に過ごせれば」
まあしょうがない。
ジーンが優しく笑うから、なんか俺も優しい気分になれたので大丈夫。


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イギリスと日本の間でフクロウ便が使えるのは謎……っていうか無理だと思うのですが、スルーしていただけたら嬉しいです。
おてまみって凄く死語だけど通じますかね。お手紙の事です。
この主人公は時々古くさいネタしこみます。
Oct 2016

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