I am.


My wiz. 06

夏休みに入ると、ナルがようやくひとつ目の依頼を受けた。
依頼人はまだ大学生だという女性で、森下典子さんと名乗った。お兄さんとその奥さん、娘さんと四人で暮らしているようだけど、その家でおかしなことが起こるらしい。

森下さんちにいってみると、素敵な洋館って感じだった。
セドリックの家も大きくて綺麗だったけれど、森下さんちはちょっと生活感があまりない感じがする。なんか上品だなあ。
「あら?」
「おっ」
まずベースを確保したいと説明してあったのでその部屋に案内してもらい、それからリビングへ行くとぼーさんと綾子が座っていた。
「あれえ、二人とも何で居るの?」
「そっちこそ、なんで居るのよ。あんたに至ってはあの時だけの臨時バイトじゃなかったの?」
「いやー奇遇だな」
ナルは隣でこっそりため息を吐いた。おい、聞こえるぞ。
「俺はここのバイトくんになったの」
その後依頼人に全員揃って話を聞いた後ベースに戻り機材の調整をする。
が、なぜかぼーさんと綾子もここを拠点にするようで一緒に入って来たのでナルが微妙に嫌そうな顔をしていた。
どーせ地霊でしょ、という綾子のてきとーな言葉を聞きつつ、俺はジーンに教えてもらいながカメラの設置に勤しんだ。

空いた時間にふらふら廊下を歩いていると、ちょうど典子さんがおやつを準備していたところだったので声をかけられた。このおうちの子、礼美ちゃんとは全然話せてなかったので、わーいとはしゃぎながらご一緒させてもらう。
可愛いお洋服でぺたっと座ってる礼美ちゃんは、俺達が入って来ると寄って来てお人形さんと一緒に挨拶をした。
「こんにちは、お名前は?」
人形の手を差し出してくるので指先で摘んで握手をする。
「ミニー」
ふわっと笑った顔は可愛いけど、その下にある無表情はちょっと怖い。
この人形が礼美ちゃんになんか囁いてるんだっけなあ。
気づかれない程度に素早く人形の手をはなした。
おやつを食べよう、と言うと礼美ちゃんは急にそっけなくなってしまい、俺と礼美ちゃんのおやつタイムは無くなった。

その夜暗示実験を行ったけど、結果を見る前に反応が出た。
ひええ、礼美ちゃんの部屋の家具が全部斜めになってるう。
香奈さんがお怒りでベースにくるので慌てて見に行き、常軌を逸した家具の配置にどん引きした。
「その子がやったんじゃないでしょうね」
「できるわけないじゃん」
綾子がしらけた目で見るので、俺は笑う。
「だな、上に家具が乗ったままだし俺でも無理だ。それともお前できんのか?」
「うっ」
言葉につまる綾子の横で、まあ俺は出来るがな!と思いつつぼーさんに同意するようにうんうんと頷く。
「……礼美じゃないよ」
「うん、違うよね、大丈夫」
ミニーを抱っこしてしょんぼりしながら出て行く礼美ちゃんを慰めてから、綾子をちろっと見る。
「な、なによ」
「あんなちっちゃいこいじめて」
「いじめてなんかないわよ!」
「いじめですう〜綾子ちゃんこわーい」
「ちょっと言ってみただけじゃないの……!」
ひひひっと笑って綾子をからかっていたら、今度は下の階から悲鳴が上がる。
駆けつけてみると、リビングが全部真っ逆さまになっていた。
俺あれも出来ると思う。多分。
「反応がはやいと思わないか」
「そうだね」
ナルとジーンが話し合っているのを、俺はきょとりとしながら聞く。
ぼーさんは一瞬首を傾げたけど、ナルの言葉を聞くと、ジーン同様に頷いた。
「部外者が来ると、ふつうは弱くなるものなんだ……話を聞いて行ってみると気の所為なのではと思わせられる程の反応を示したりする。それが反対に強くなるということは———」
「反発」
ぼーさんが、ちょっと真剣な顔をしてジーンに続いて言葉を繋げた。
「ぼーさんもそう思うか?」
「ああ、この家俺達がきたのに勘づいて腹立ててるな。しかもいきなりあんな大技みせてくれるってこたぁ、半端なポルターガイストじゃねえ」
「……てこずるかもしれないな」
「なんだか子供みたいなんだね」
「え?」
真面目な話し合いの最中、ぽろっと素直に思ったことをいうと、ジーンが目を丸めた。
「子供がいっぱい居るみたいじゃない?」
「どういうことだ?」
「え、知らない人が来て怒って家具をどかしたんだろ?子供っぽい」
「いっぱいというのは?」
ナルとジーンが順番に俺に問う。
「一人じゃこんなこと出来ないじゃん」
「言っとくけど、腕力でやってる訳じゃないからな、お馬鹿さん」
ぼーさんが頭を掻き混ぜるのでジーンとナルは顔を見合わせた。
そしてナルは深いため息を吐いたあとにふっと笑う。
「お前は単純で良いな」
「羨ましい?」
「まったく」


翌日暗示実験の結果は出ず、綾子の祈祷が行われた。それから間もなくして台所から火が出た。祈祷したから怒ってる、のかな?
礼美ちゃんの部屋は温度が低いし、霊が居る事は確定事項になってきた。
台所での火を消し止めた後、俺がついうっかり子供の影なんかを見てしまったせいで礼美ちゃんが典子さんに言い寄られることになり、礼美ちゃんの感情の昂りによってポルターガイストが起こった。
倒れた棚の下敷きになった典子さんは大きな怪我はなかったけれど、ちょっと疲れているようだった。

ナルが絶対に人間の仕業じゃないと判断を下したのは、夜に礼美ちゃんの部屋の温度が氷点下にまで下がってからだった。
本当はもっと前から確信してたと思うんだよなあ。だってジーンは見えてるんだし。俺が何気なく子供がいっぱいと言った時も、さりげなく意見を聞き出そうとしていたし。でも部屋の温度が氷点下にまで下がるっていう数値が出ないと言葉にはしないらしい。
、なるべく礼美ちゃんと一緒にいてくれ」
「え、俺?」
「もし何かあったらすぐに僕たちの中の誰かを呼ぶ事、リンでも良い」
「ハイ……」
「それから気づいた事があれば一応言うんだ。いいな?」
ナルとジーンの指示により俺は礼美ちゃんとのおやつタイムを再び手にした。
そしてそこで得た情報ってのが、ミニーが礼美ちゃんに入れ知恵を行っていることだ。その事を報告するとジーンとナルはまた顔を見合わせて頷き合い部屋を出て行った。
「テレパシーかよ」
リンさんは、何の指示も無く置いてかれた俺のつっこみに答える事は無かった。あれ、そういえば本当にテレパシーあるんだっけ。意識が繋げられるっていうのはうっすら聞いた覚えがあるけど、脳内で会話とかできちゃうの?てきとうに言ってみたのに、本当に当てちゃった?

二人はどうやら典子さんに人形のことを聞きに行ったみたいだけど、礼美ちゃんが長くは貸してくれずに逃げてしまったようだ。その後仕方なく、礼美ちゃんのお昼寝中にミニーを拝借することになる。
首がぼっとんと抜けて頭がごろりと転がったが、ほとんど首無しニックの断面図を3回程みた俺は、な、なんにも……こ、こわくなんか。
、ひっぱりすぎ」
ジーンの服の裾をぎゅぎゅっとしていた俺は、手を掴まれ揺さぶられていた。はなすもんか!

次の日俺は、ミニーと礼美ちゃんの密談現場に出会した。
「家の中は悪い魔女だらけだよ」
いや俺は魔法使いだ、と脳内でつっこみをいれるが、これは冷静なんじゃなくて相当テンパって現実逃避をしているわけでありまして。
ホグワーツ外で幽霊ってそういえば見てないな……。これから見る事になるのかな。
こわいよう、こわいよう、お部屋にはいりたくないよう。
額をドアに擦り付けて、数秒呼吸を止めてからぷはあと吐き出す。意を決してノックし、礼美ちゃんの所にむかった。だって、礼美ちゃんと一緒に居なさいって言われてるんだもん俺。
皆始末してあげる、という言葉を聞かなかった事にしたい。


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なんも考えないで発言しています。
いやおれは魔法使いだ→わたしはまじっくだ???
Nov 2016

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