I am.


My wiz. 07

典子さんが足を脱臼してしまった。
あんよには子供の手形がついてて恐ろしい。え、この状態で病院行くの?お医者さんかわいそう。一番可哀相なのは典子さんだけど。
香奈さんは病院に付き添って行ったが、よく考えたらほぼ知らん人の中に礼美ちゃん置いてくのってどうかと思う。一緒に連れてくとか……付き添いは俺達の中の誰かとか。そもそも三人なのも駄目だろ、パパ帰って来て。

ナルとジーンに諭された礼美ちゃんはミニーのことを吐かされた。ほぼジーンが見えて聞こえてる所為なのか、知った感じのことを聞いて礼美ちゃんに答えを言わせていた。まさに誘導尋問?
俺はとりあえず礼美ちゃんがしがみつくためのぬいぐるみくん役に徹する。
今だけは俺の事、ミニーって呼んでも良いぜ……。

しばらくして病院から帰って来た典子さんは、壁にかかれた落書きを見つけて俺を呼んだ。礼美ちゃんを寝かしつけてうとうとしかけていたので、こっそりベッドから抜け出すと、声を聞きつけてジーンもベースから出て来る。
「これ、礼美ちゃんのこと?」
「だろうね……ミニーは礼美ちゃんが裏切ったと思っている」
「礼美ちゃんから、目を離しちゃいけないね」
「ああ……、絶対に傍からはなれないでくれ」
今離れてるけど、と思いつつちょっと首を傾げる。まって、なんで俺。
「綾子じゃだめなの?」
麻衣ちゃんだったならまだ女の子だし一番年が近いから一緒に遊べるだろうと思ったけど、俺はナルとジーンよりほんの二ヶ月だけど年上で、男だ。ナルとジーンは調査をする必要が有るにしても、狙われてる礼美ちゃんの傍に居るには俺では役不足じゃないだろうか。そこんとこどうなんでしょう、ジーンさん。
「本当はにとっても危険かもしれないけど……礼美ちゃんがまず、松崎さんに怯える可能性があるんじゃないかな」
「ああ———」
俺は頭を抱えた。たしかにそうだ、最初にぽろっと言った無神経ないじめっこ発言の所為で礼美ちゃんは自分から綾子に近づいて行かない。
少し慣れたようだけど、つきっきりで傍に居させるのは、今の所よくないかも。
まあ綾子は根が面倒見良いタイプみたいだから、けろっとして礼美ちゃんに話しかけているし、そのうち礼美ちゃんも綾子を怖がらなくなると思うけど。

俺が礼美ちゃんを助ける為にお池にはまってさあ大変をしていると、幽霊の気配でも感じたのかジーンが駆け寄って来た。男手やっほー!
とにかく礼美ちゃんを岸の方にやると、ジーンがあげてくれたので俺は自力で上がる。
「おねえちゃーん!!」
典子さんに抱きついて泣いている礼美ちゃんは、とりあえず命に別状は無さそうだけど本格的にやばいなって思った。俺もジーンくーんって濡れたままハグしようかと思ったけどもうお兄さんなのでやめとく。
は大丈夫?」
「平気」
自分から水に入ったし、池の中の浮遊物で怪我をしたりとかはしていないので、ジーンの問いかけに答えてTシャツを脱いで水を絞った。
「とりあえず、家の中に入ろうか……俺じゃ、護衛には力不足になりそうだ」
「そうだね、風邪を引いてしまうし……とにかく中へ」
ジーンは途中から典子さんの方を向いて指示し、典子さんはこくりと頷き礼美ちゃんを抱き上げた。

俺達がちゃぷちゃぷしてたころ、ぼーさんはミニーを燃やしたそうだけど、燃えなかったらしい。そのためナルはジョンと真砂子を呼んだようで、典子さんに事情を説明すると同時にいつの間にか調べて来たことを報告した。
この家では礼美ちゃんと同年代の子供が相次いで亡くなっているのだとか。
俺の言ってた事もあながち間違ってなかったな、そういえば。本当に適当に言ってたけど。
真砂子はやってくるなり青い顔をしてふらふらしていて、ナルにそっとよりかかる。おお、ジーンが居てもナルを選ぶんだあ。本物やん。
「……子供の霊がいたるところにいますわ。みんなとても苦しんで……お母さんのところに帰りたいといって泣いています」
この家は子供の霊を集めている、とまで言った真砂子は声もでないくらいに気分を悪くしてしまった。
今までジーンと二人でひゅうひゅう!って顔をしていたんだけど、それどころじゃない。
真砂子を支えて別室へ連れて行くと、か細い声でお礼を言われた。
「幽霊がいっぱい居ると、気分悪い……?」
「ええ……それに霊自身も苦しんでいるから……あたくしも辛くて」
「こういう時はいつもどうしている?家から出る?」
真砂子はゆっくりと首を横に振った。
プロとして、このまま家から出る訳には行かないってことなのか、空間に慣れるのをまつつもりなのか。
「して欲しい事があったら言って。とりあえず付き添いは綾子を呼ぶから———」
「谷山さんが居てくださいまし」
「そーお?俺でいーの?」
綾子の株が暴落しておる……。俺はちょっと笑ってから、真砂子の隣に座った。
気分が悪い人に仕切りに世間話をふっていたら迷惑なので黙っている。ちくたくという時計の針の音くらいしか聞こえなくて、時々誰かが部屋の外を通る音がするくらいだ。
真砂子は目をしっかり瞑って、本当にお人形さんみたいに動かなくて、もしかして寝てる?と囁いてみても返事は無い。
相変わらず青い顔で、気分はよく無さそうだ。
俺はこほんと咳払いしてから、手をそろりと杖に伸ばしてひょいっと振る。聞こえないくらいの声で守護霊の呪文を唱えると、俺の守護霊わんこのフクがぴょこりと出て来る。手で合図をすると部屋の中をきゃわんきゃわんと一周走り回って消えた。
吸魂鬼を追い払えちゃう守護霊わんわんなので、子供の霊も少し祓ってくれるんじゃないかなあと思ってやってみたが、効果はいかほどか。
「……え?」
フクが消えて杖をしまった瞬間、真砂子はもぞりと身じろぎ顔をあげ、きょとりと首を傾げた。
「どした」
「今……何か、通りませんでしたか?」
「通ったって?」
「———……なんでも、ありません」
お前見えないもんな、と納得したのか真砂子はすぐに首を振る。
この様子だと、フクは効果ありのようだ。
「顔色よくなったね」
「少し気が楽になったみたいです。谷山さんはもう戻ってください」
「わかった。また気分が悪くなったら呼んでね」
「ええ」
つい頭の上を髪の毛が乱れない程度に撫でてから手を振ると、真砂子は驚いた顔のまま固まっていた。謝るのも変な気がしたので、俺は気づかないふりをして部屋を出た。


ジョンが礼美ちゃんにお祈りをしたあと、今度はミニーを清めることになった。
びかっと目が開いたので俺はアーーーー!!!と声にならない叫びを上げて隣に居たジーンにひっつく。苦しいって言われたけど、無理です離れません。

ミニーが燃えたって報告が上がってきたので一段落ついたように思ったけど、まだ全然事件は明らかになってない。ただ人形を使えなくしただけだということを思い出し、俺はため息を吐きながらぼやいた。
「なんでこんなに子供集めるんだかねえ」
「なんでって、そりゃ寂しいんだろ?」
「ミニーの正体は、この家についてる地縛霊やと思います……せやから、この家で死んだ子供とちがいますか?」
「だろうな、一番最初に死んだ子供が集めてるってこった」
わかるだろ?と言いたげにぼーさんがこっちを見る。
「どうして?お母さんのところに帰りたいって泣いてるんだよ?」
「は?いや、だから」
「そうだね、お母さんの所に帰りたがっているのに、同年代の子供ばかり狙うのは変だ」
「……たしかに、そうですね」
ジーンが同意すると、ぼーさんとジョンもはっとする。
んもう、俺の言葉には全然わかんないふりして〜。
「じゃあ、お母さんのふりをして呼んでる幽霊もいるのかもねー」
どうせ信じないんだったらもういいですよう、俺は勝手に考えなしに喋ってやるんだから。

「———そうかもしれないな」
「ん?」
俺の言葉を待っていたとばかりに、ナルが声を発する。
「僕はこの家の所有者よりもさらに前にさかのぼってみた」
早いなおい、と思ったけどそういえばジーンが居るんだもんな、麻衣ちゃんが見たような光景はもうジーンが見ていると考えれば分かってる筈。
でもぼーさんや綾子が居て、どうにもやり辛いと感じて出し惜しみをしていたのか。
礼美ちゃんの安全を優先しろよ。
まあ正体隠したい気持ちもわからんでもないけど。もしかして、あんなに大層なため息を吐いてたのは……いや、考えないでおこ。

大島ひろのプロフィールや、娘富子を喪う経緯を喋るナルを壁に寄りかかりながら眺めていると、同じようにしてジーンが隣に並んだ。くすっと笑うあたり、でかしたぞって言ってる気がしなくもないが、ジーンはしょっちゅう笑顔なので真意はわかんないや。
とりあえず本当に大島ひろの霊がいるのか調べるというので、ぼーさんが祈祷を行い霊を散らすことになった。危ないので礼美ちゃんと典子さんは、ジョンと綾子と一緒にホテルへ移動。真砂子は大島ひろを見る手がかりなので残った。ちなみに俺と、爪を隠してる能ある鷹なジーンくんはリンさんとナルと揃ってビデオの監視係だ。
井戸があったのはこの辺、とナルが示したのはリビングだったので、ぼーさんはリビングに座って祈祷を始めた。
結論から言うとめっちゃ出た。

「ほ、おおう、……幽霊やんけ」
今回はたまたま腕を組んでいたから肘の当たりをくしゅっと掴んで肩を上げ、身を乗り出す感じで画面を観ている。
「見るのは初めて?」
「ン、ウーン……ウン」
俺達がビデオ越しに見られたのは大島ひろだけのようだけれど、現場の原キャスターからの報告によると、子供達の幽霊が逃げ惑う悲惨な光景が繰り広げられていたらしい。
実際相対した真砂子は、大島ひろが娘を欲して子供を集めているのだと言うので、ナルとジーンはこれ以上調査する必要はなしってことで、対応に出た。
ジョンと綾子を呼び戻し、霊を分散させ、また大島ひろをあぶり出す。そして悪霊退散、っと。
なるほど、よくわからんがわかった。俺はお留守番ということだ。
リンさんと一緒にぬーんと画面を見ている楽しいお仕事でした。


next

守護霊は霊だし……あの、効くかなって。
今後も出していく所存です。
Nov 2016

PAGE TOP