I am.


My wiz. 09

カサイ・パニックというなんか社会の授業にでてきそうな騒動を、ナルは机に腰掛けながら聞いた。ちなみに、今はリンさんとジーンが二人で校内をまわっている。
笠井さんとやらは公衆の面前で超能力を披露し、あげく先生に糾弾されブチ切れ、『呪い殺してやる』とか言ってしまったらしい。
その発言以来変な事が起こる……というのはタカや他の生徒達の憶測にすぎないので、ココだけの話だ。

彼女の仲の良い先生が生物部の顧問だから、基本的には生物準備室にいるらしい。
ナルが会ってみたいというので俺はのこのこついて来たわけだけど、黙って先生と笠井さんとナルのやり取りを眺めているだけだ。
スプーンの丸い部分ブッチしたときはうひょって思ったけど。
しかも笠井さんがくっつけるので二回もうひょってした。杖出して呪文唱えれば俺だってスプーンを一瞬で直したり壊したり、ちょっと頑張れば多分フォークに変えられるかもしれないけど、……よく生身でできんなあ。

笠井さんは思っていたより普通の女の子だったので、俺達は長居せずに生物準備室を出た。
「念を放出?する方法なんて、テレビで観ただけで真似できるものなんだ」
「放出……そうだな、やり方を見ていた時にその方法を理解してしまったり、やれるという自己暗示に加えて才能が働くと出来るんじゃないか」
「適当な事言ってない?」
「まじめに会話できるのか?お前と」
「やめておこうか」
すっと手を出して顔を背けると、ナルはふんと息を吐いた。でもちょっと知りたかったりする。
「身体に異常はないのかな?」
「どういう意味だ?」
「エネルギーをさ、ほら、出すわけだろ?普段とは違う事をするんだし……無意識とか感情の爆発ならまだしも」
「まあ、強大な力だったら負荷がかかるかもしれないが、普通の人間が持つ力なんて高が知れている」
「へえ」
「ーーーやけに心配するな」
「え〜?別に、ただ気になっただけだけど」
廊下をてけてけと歩きながら、ナルの方を振り向く。
ついつい念力と魔力の差とかが気になってしまう。もちろん、細かい事を考えられるキャパはないので、中途半端に質問をしてみてわかんなくなってやめるんだけど。
「ってかさ、そういえば……ふふ、ナルの偽名とか久々に聞いたわ俺」
「ーーー僕の、なに?」
「いやだから偽め……ん?偽名じゃないか」
「……何を言ってるんだお前は」
あ、あぶね〜!!
いや危ないどころじゃなくてもうやらかしてるわけなんだが。事故ったわー。
ぱふっと口をおさえた後、鼻の頭をかりかりとかく。口おさえたら言ってはいけない事だったと理解しているようなもんだけど。
「だって皆ナルって呼ぶんだもん」
ジョンは呼んでないけど。
圧倒的にリンさんとジーンが悪い。あとぼーさんとか。
最終的に一番悪いのは、こっちで初めてナルと呼び出した俺……ということになるのかもしれないけど。
「はーまあいいや、それにしたってスプーン曲げたくらいで大げさだなあ」
ドアの前の所にくると、ナルはぴたりと動きを止めた。
、頼みがあるんだが」
「おお……ん?」
「さっきの、スプーン曲げだが、みんなには秘密にしてくれ」
こいつ、頼みとか言った?いま?
「へ、え、え?」
「たのむ。とくに、ジーンとリンには」
「なあに、怒られちゃうの?やっぱ身体に負荷がかかるとか?」
「この程度ではかからない。とにかく、たのむ」
「まあ、わかった、言わないどく」
「すまない」
むすっとした顔をしているのでまじまじ見たけど、すぐに普通の顔に戻ってしまった。まあナルのいろんな顔なんてジーンの顔見てれば良いわけだけど、やっぱナルの性格でいろんな顔をして欲しいと言うかなんと言うか。
「入らないのか?」
「入る入る」
考え事をしていた俺は、ナルに促されてベースに入った。


真砂子の意見は霊が居ない、自分たちは騙されているってことだった。
全く気配を感じないというので驚きである。
ジーンの方をちらっと見てから、慌てて逸らした。だってジーンが霊視出来るって言われてないし。いや、目逸らしても変か。
まあ今更もう一度見る事も出来ない訳で、綾子と真砂子の言合いを聞き流す。
「誰も何も感じたりしないの?見えなくても、なんかこう……ないの」
「なんじゃその他力本願は」
ぼーさんに頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜられた。
だって俺は魔法使いだけど一般人だもの……!
「霊かはわからないけど、何か嫌な感じがするところがいくつかあるよ」
ジーンの言葉に、皆がぱちぱちと目を瞬いた。ナルまで。
予定には無かったのかな?っていうかジーンの発言を制限していたら、コレから先やりづらいだろうな。俺というヒロインに全く勘が備わってないので。
「へえ?お前さんそうだったのか?」
「見えないけどね、あまりあてにしないで」
ものはいいようだな、と目を瞑る。
「……それはどのへんだ?とりあえずそこを重点的に除霊してみよう」
ナルは深いため息の後、校舎内の地図を出してジーンに印をつけさせた。
そんなに数は多くないけど、その印通りにジョンとぼーさんがまわる事になり、綾子はもう一度見てみるという真砂子に付き合うことになった。
文句言いつつなんだかんだ一緒に行くんだよな、あの人。


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今までのジーン生存パターンでは、基本的に力を秘匿していたけど、今回はしれっと出してみようと思っています。
Nov 2016

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