I am.


My wiz. 10

昨日は何の進展もなく、今日の調査も同じように校内を練り歩き除霊をしてみるということだった。ああいうのは気力が要るんだろうから大変だなあ。
こうやって除霊をさせ回っているということは、呪いだってことはわからないんだと思う。
ジーンにどういう風に見えてるのかは分からないけど、俺は物語を思い出してみながら目を瞑る。確か、校舎内が透けて見えて、鬼火が見えるんだったはず。そこに幽霊がいるのか、人形があるのか、よくわからないけど。
ジーンが見た情報がそれだとしたら、たしかに人為的に行われている呪いだとは思わないかもしれない。
呪いだと気づく為にはどうしたら良いんだっけ。
考えているとふいに、ドアがノックされたので反射的に答えた。リンさんは基本返事をしないのだ。
おずおずと顔を出したのは笠井さん。
きょとんとしたまま、彼女が入っていいかと問うのに頷いて、目の前に座るまで待つ。
「どうしたの?」
「除霊、すすんでる?」
「ううん、あんまり。霊媒の人が霊の姿は見えないって言うんだよね」
「まさか!こんなに事件がおこってるのに」
「まあ、見えないだから、もしかしたら隠れてるのかもよ」
「雰囲気とか、分かるもんじゃないの?」
「さーねえ」
笠井さんは身を乗り出す。
「渋谷さんとか、あんたも霊能者なんでしょ?」
「え〜違う違う、なんだっけ、渋谷さんはゴーストハンターだっけな」
人差し指で顎をぐにぐにしながら言葉を濁す。結局俺ゴーストハントの意味がよくわからない。捕まえてないじゃん。いや、狩るのか。魔女狩りっていうしな。
「笠井さんって霊は見えないの?」
「あたし?だめだめ、ESPの能力ないもん」
「いーえすぴい……」
「知らないの?霊能力はESPの一種って説があって、あたしはPK」
あ、ちょっとキャパオーバーですね。
小説読んでたのは大分昔だし、超心理学よりも先攻して魔法学を詰め込まれた俺には向いてない世界だ。
ほとんど頭に入らず、ただ感心して詳しいねと褒めると産砂先生からの受け売りだと教えてくれた。たしか産砂先生が呪いをやってるんだから、そりゃ詳しいか。笠井さん曰く他の先生やPTA、生徒にも色々言われちゃったらしいから参ってたんだと思う。それに笠井さんには優しくしてくれて、きっと良い人なのかもしれない。まあでも、呪いはやっちゃ駄目だからなあ。
「産砂先生、大変なんだね」
「うん……」
ふっと笑った笠井さんに、俺はあまり関係ない話題を振ってみた。
「笠井さんクラスで今仲良い子とかいないの?」
「あ、あんた普通そういうこと聞く?」
若干ひきつった顔をして、今度は身体をのけぞらす。
「え、でも最初から馬鹿にしなかった人も居るでしょ?」
「そうだとしても、あたし悪目立ちしてるから全然話しかけてこないよっ」
あちゃ、ちょっと怒らせちゃったかな。
「なんだかさびしいね」
「べつに?」
笠井さんは無理に笑うみたいな顔をした。それから、もう行くねと立ち上がる。
「またおいで、俺とお話しよ」
「いいの?仕事の邪魔じゃない?」
「大丈夫、俺そんなに役立たないから、仕事ないし」
「自分で言ってて悲しくならない?」
「ならな〜い、楽し〜い」
わっほーっと両手を上げると、笠井さんはあはっと口を大きく開けて笑った。
このときの俺はリンさんの存在は完全に忘れていたし、リンさんも完全に自分を居ない者としていたので多分怒られないと……思う。
誰に怒られるってナルにだよ。

「でもさ、その笠井って子、どの程度信用できるの?」
「どの程度って言っても……嘘をついてる様子はなかったし、普通の女の子だと思うけど」
「そーじゃなくて、スプーン曲げよ」
「僕は信用できると思っているが?」
皆が戻って来てコーヒーブレイクをしている間に笠井さんが来た事を自分からぺろったら、綾子がまたしてもいじわるな発言をしている。笠井さんがいなくて良かったね。
「どーおだか?スプーン曲げなんていかにもじゃない?あれでインチキ呼ばわりされなかった人いる?」
「ユリはされたの?」
「ユリっておまえ……友達じゃねーんだから」
ぼーさんが些細なところで突っ込みを入れて来る。ほっとけ。
それをよそに、ジョンがゲラリーニ現象のことを詳しく語ってくれた。ゲラリーニ達は途中で力を失うことが多く、手品に頼るようになったからインチキだと言われはじめ、ユリ・ゲラー自身もインチキだと叩かれたらしい。人気者は大変だね。

オリヴァー・デイビスの話が始まるとナルは会話を遮るように話をまとめた。
とりあえず重要なのは、笠井さんが自分の能力を信じていて、教師の攻撃に不満をおぼえ、その結果がこうだってこと。
「呪いってどうやるの?」
「いろいろある」
説明するつもりはないようで、ナルはすぱっと俺の疑問を切り捨てた。
今の状況をなんとかする方が先なので、笠井さんのことは置いておこうってことらしい。ジーンとナルはまたしても除霊だか調べものだかで二人連れ添って出て行くし、その所為でリンさんと俺はベース待機だ。

昼休みになるとタカと笠井さんが同時に遊びに来てくれた。
俺は本気で暇をしていたので二人を手放しで迎える。
「もうご飯はたべた?」
「うん、は?」
「俺はまだ、次みんなが戻って来たら順番に行くかも」
うーんと考えながら唇の下を人差し指で押す。
笠井さんは今友達があまりいないみたいだけど、タカとはなんだか上手くやれているっぽい。
「調査状況どう……ってかわんないか」
「うんまあね。だーれも、なーんにも遭遇しない。あーあ、何もないのかなあ」
「え〜」
「そんなはずないじゃん!だって、こんなにいろんな事が起こってるのに」
タカは不満そうにしつつも笑う。けれど笠井さんは抗議の声をあげた。
スプーン曲げなんて出来ないって言われるのと同じで、不思議な現象を否定されるのが嫌なのかもしれない。
「起こってるって、笠井さん実際見たの?」
「見てないけど、皆言ってるじゃん……だからあたしだって」
その後には多分、生物準備室に入り浸ってるのに、とかなんとかつくんだろう。でも口を噤み、下を向いた。
「でも電車に腕を挟まれて連続で怪我をするのはおかしいもんなあ」
「!そうよね……」
「もちろん、無かった事にしてさっさと帰ろうなんて考えてないから」
手を振って否定すると、笠井さんはほっとしたように表情を和らげた。

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なんか湯浅編は主人公のくだらない会話を盛り込みやすく感じました。だから森下事件より長いです。
Nov 2016

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