My wiz. 11
もうやる事が無いのか、リンさんも午後からは校舎内を練り歩く組になった。今までさぞ辛かっただろうね。俺もだけどな。無音すぎて息めっちゃ殺した。西日の差し込むベースには自分の影が伸びる。
背にした窓枠の影が俺を閉じ込め、少しだけ不安な気分になった。
部屋の電気がふっと消えた。
天井を見上げるとカタっと何かが音を立てる。
そこから、髪の毛がちょろり。
来た来た来たぁ!と、ついつい立ち上がる。
女がずるずると顔を出し、カッと目を開く。そして俺をぎろりと睨みつける。
うん、まあ、気味が悪い。
とりあえず腰に差してある杖に手を伸ばして、いつでも守護霊を出せるようにした。
そういえばなんで俺のところに来たんだろ。ナルが呪われるんじゃなかったっけ?ん?そもそも何でナル呪われるんだっけ。
それとも、ベース自体にしかけたのかなあ。
考えているうちに、女はニタリと笑って腰まで降りて来た。
もうだめ。さっさと守護霊をけしかけることにした。俺がチキンなばかりに……もう少しギリギリまで行動を見るべきだったかな。
俺の愛犬フクが飛びかかると女はびゅるっと天井に戻って行った。あ、そこが……おうちですか。もっとこう……透けて消えるとかあるじゃん。
あ、こら、フーークーーおうちまで遊びに行かなくていいからー。
「!!」
「ひょえ」
駆け込んで来たのはジーンだった。さすが優秀な霊媒である。はわわ。
多分霊の気配とか感じたんだろうな。
うわー、なんか、あの、見られてなかったことを祈ろう。
「だいじょうぶ……だった?」
「え、あ、うん?お、おう」
天井とジーンとその後ろにいるナルをぎゅんぎゅん見比べながら、とりあえず返事をする。
「見た?」
へろへろと天井を指さしてみる。霊は多分入って来た時にはもう消えてたから見えてないだろう。もしかしたら俺の守護霊が見えたかもしれないので一応聞いてみる。
「いや……見えなかった」
「ていうか、よく分かったね……来てくれてありがと」
「何もされなかったか」
ジーンは首をふり、ナルは当たりを見回す。
よく分かったね、に対しては何も返答なしなのね、まあ良いけど。
「何もされてないよ。ていうか、なんだったんだろ、いまの」
「にはどう見えた?」
「んと髪の長い女だった。和服でねー、逆さまに降りてくるの」
「ふうん」
ジーンに聞かれて答えるが、ナルはあんまり興味無さそう。
「とにかく、今回原さんは頼りにならわけか」
「え、そうなの?」
「霊はいないと言っていただろう」
「気配とかも全く駄目?」
「ああ」
うんざりした感じで言うなよ、真砂子傷つく……。
いや、まあ仕事なんだろうけどさあ。
「ジーンは感じるんだっけ、すごいねえ」
「そうでもないよ」
謙遜するジーン。たしかすっごく有能なんだってことは知ってるので素直に褒めたつもりだったけど、まあそうやすやすと認めないか。それに、自慢することでもない……のかもなあ。
「うーん、この部屋に出るなんて噂はなかったよね」
「そうだな……なにか思い当たる節はないのか?」
皆が戻って来て、俺が一人のときにこの部屋に霊が出たと報告され、緊急会議が開かれた。議長はナル。
「えー、ぜんぜん無いよう」
「……」
米神をさすりながら考えるが特に思い当たることは無い。
なんかリンさんが俺のアホな動作を物言いたげに見ている。
「あ」
ぱかりと口を開けると、皆が何だとこっちを見た。
「何か起こんないかなーって思ったかな」
「そりゃおまえ、おれたち全員そう思ってるだろ」
「あ、そう」
口を閉じてそこを撫でた。
結局霊が出た理由もわからないし、真砂子は相変わらず霊の気配はわからないまま。だからといって真砂子は俺が霊をみた事を否定しなかった。多分ジーンが本物だと知ってるから、自分には感じられないと認めているんだろう。へこんでなきゃいいけど。
帰り際、真砂子を呼び止めると黙ってこっちを見た。
「今俺幽霊ついてない?」
「?」
なぜそんな事を聞くのかと言いたげに小首を傾げた。
「家までついてきてたり、夜一人の時に出たらやだなって」
「……あたくしには見えませんわ」
そう言いながら視線をどこかへやる。その先にはジーンが居たので、あっちに聞けばいいのにと思ってるのかも。
「そんなに執念深い感じじゃないのかな」
「え?」
「いやほら、なんか恨まれてるんだとしたらずっと憑いてるかなって」
「まあまあそう心配すんなって。まだおまえを狙ってるとは限らんぞ」
「でも、今日家に帰ってまた出る可能性は無くはない」
「ほらあ!」
ぼーさんが俺を安心させようと言ってるけど、ジーンが少し暗い顔をして示唆した。ジーンが言うから出るだろきっと。
「───ま。でも、すぐに命とられることもないか……」
「ノンキねえ」
「だってしょうがないじゃん。綾子泊めてくれんの?」
「あんたを?やーよ」
本気で言ってないけど断られてでこピンを食らった。
「家にあるお守り効くかなー」
「言っとくがな、交通安全のお守りじゃ駄目だからな」
「あ、バレた?ってちげーし、ルーマニア土産で貰った魔除けの置物があるんだけど」
「なんじゃそりゃ」
俺は玄関においてある、チャーリーが誕生日プレゼントで送って来てくれた珍妙な置物を思い出しながら笑った。
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幽霊怖いけど、いざとなると腹括るタイプです。頭の中はテンパってるけど、とりあえず守護霊出せば行けるって学習したのでそこそこハート強くなっています。
Nov 2016