My wiz. 12
夜はやっぱり俺の部屋に霊が出た。まあ勿論フクに追っ払ってもらったので五分で寝ついたけど。全く寝不足ではない俺は一番にベースについてポットのスイッチを入れ、みんなを待った。とりあえずベースじゃなくて俺が呪われてるってことが分かったのでジーン達が来たら言おう。
みんな遅いな〜と思って待っていると、一番にやって来たのは笠井さんだ。
「一人なの?」
「うん、みんな疲れてるのかも」
「そっか。仕事は……はかどってなさそうだね」
「まあまあかな。俺はなんもしてないけど」
俺が狙われた、なんて笠井さんに報告するつもりはないので手をひらひら振って笑う。
「あのね、恵先生がさ、手伝えることがあったら言ってくれって。まだ何も起こっていないみたいだから、手伝う事もないだろうけど……あたしも何かあったらやるし」
「ほんと?ありがと」
コーヒーでもいれちゃろか、と立ち上がると丁度ナルとジーンとリンさんがやって来た。笠井さんはその所為で教室に戻ると言って出て行ってしまった。
仕方ないのでお仕事するか、と今まで仕事を大してしていない俺はやる気を出す。
おはようの挨拶のあとついでとばかりに、昨日幽霊が出たことを報告した。守護霊召還は言えないので、霊が出たけど寝て起きたら居なくなってたって言ったら、三人の物言いたげな目線が俺の身体を貫いた。すごく、鋭利だった。
「ーーーそれにしても、なんで急にが狙われたんだろう」
「呪われる覚えはないんだけどな」
「……え?」
「ん?」
俺は呪いに対抗できるみたいなこと言ってないし、霊感あるとかすら言ってない。ナルとジーンについても特に漏らしてない。産砂先生に行く情報なんてただの事務員と調査員程度の筈なんだけど。
そう思って考えていると、ジーンが聞き返して来る。
「が呪われている……?」
「あれ、違ったっけ?」
まじまじと、ジーンが俺の顔を見ていた。
ナルがはっとしてからリンさんの方を見て、リンさんは頷く。
「そうか、どうして気づかなかったんだろう……」
「これはーーー呪詛だ」
双子は神妙な顔つきで答えをはじき出した。うわ、今の顔そっくり。
犯人は笠井さんに決まってるでしょ、と皆が言うので俺はなんとか否定する。
違うと思うだよなあ。あの子、凄く普通の子だし。
俺は先入観もあるとしても、笠井さんと実際に接したからこそ笠井さんじゃないと思う。
「笠井さんじゃないよ」
「の勘か?」
「うん」
ナルに俺を信じてみようと言われたのでほっとして笑う。もしかして俺はナルに何か信じられるようなことしてたのか?いやあ、全然記憶にない。
ナルとリンさんは犯人探し、霊能力者たちは人形探し、と人員がわけられた。ちなみに俺は何が起こるか分からないのでジーンとベースで待機している。
暫くしてナルとリンさんは、特定の人じゃなくて範囲を指定した呪いの元凶である人形を持って戻って来た。ぷぷぷ、なにそれ変な顔。……いや笑い事じゃねーけど。
呪いの対象は陸上部とタカのクラスの一席。陸上部は顧問が否定的で部員もそれに倣っていた。タカのクラスの席は最初に座った村山さんって子が笠井さんを糾弾した上に産砂先生にも文句を言いに行ったとか。
「これで笠井さんが犯人である可能性が高くなったな」
「えーでも笠井さんじゃないし」
ナルの言葉に頭を抱えると、ジーンが気遣うようにこっちを見た。
「……なぜそんなに笠井さんを信じられるんだ?」
ナルに言われて首を傾げる。
「信じるのに”なぜ”なんてないよ……俺にとってはね」
皆は違うのかもしれないと思って付け足して笑う。
ナルとリンさんは一瞬面食らったような顔をしているけど、隣に居たジーンが微笑み頷いているから、別におかしな事じゃないはず。
あと、別に理由なく信じてるんじゃなくて、なぜかを言葉にできないだけだ。言葉にしてしまったらむしろ、信頼をそれだけに限定してしまう気がした。
「呪詛はだれにでもできることじゃない。あらかじめ素養がないと」
「うん。笠井さんに出来る可能性が高いことはわかってるよ」
「ああ」
あんまり信じ過ぎて後が辛くなっても知らないぞって感じだったので頷くと、ナルも同じように頷いた。
「ところで、ナルって陰陽師なの?」
「違う、なんでそうなるんだ」
「人形使ってたじゃん」
「あれを作ったのはリンだ」
「へえ」
リンさんを一瞥すると目が合い、なんだと言いたげに見返される。
「呪いを返してみて、被害に遭った人が犯人じゃだめなの?」
「出来ない事もありませんが」
「結果が分かりにくいだろう、駄目だ」
「ふーん」
リンさんは肯定的だったけど、ナルは首を振る。
そういえば根は良い奴だったこいつ。
ナルは調べ物があると出て行き、リンさんは人形を探しに校内をまわる。俺もジーンと一緒にぶらぶらしていた。
ジーンがこの辺りかなと探しているのを見て、俺も周辺を探してみる。人形っていろんな所に散らばってるんだっけ、だとしたら大変だなあ。
もしや、こういうときこそ俺の守護霊探し当ててくれるのでは?と思って廊下に身体を半分出す。こっそり杖を振ってフクを出すとはよ来いとばかりに走って行った。少し先の所で振り向いて待ってる。
見つけてくれるかもとは思っていたけど、それしか考えてなかったのでジーンを呼ぶか迷ったあげく一人で追いかける事になった。まあどうせ、フクは悪霊退散してくれるもんね。
フクを追いかけ外に出た俺は、開いているマンホールの中に頭を突っ込んでいる。
「、何やってるんだ」
フェンスの向こうから、ナルが声を掛けて来た。あちゃ、みつかっちった。
驚いた拍子に穴の中でスタンバイしてたフクは消える。
「これ見よがしにマンホールが開いてたもの、でえ!?」
「!」
ナルが居るし、降りてみるかとはしごに足をかけたら、ずるっと滑った。
まさかこのタイミングで悪霊が俺の足をひっぱるとは。一応パワーアップしてるってことか。
「この馬鹿、何をやってるんだ。はしごに足をかけろ」
急いでかけよってきたナルが俺の肩を掴んでくれている。
ところがどっこい、はしごが壊れていたらしく、俺はナルもろとも落下した。
本当は巻き込むつもりは無かったんだけど。
地面に落っこちると思っていたら、一瞬だけふわっと風が吹いた気がした。
俺たちの身体を持ち上げるものではなく、ただの風。でも落下してるときに感じるのとはまたちょっと違う……。なんだったんだろ。
周囲には崩れた破片が散らばっていて、あのあたりに落ちなくて良かったなあとため息を吐く。
「だいじょうぶか」
「あ!!……ごめん、巻き込んだ」
ナルは腕をおさえて壁に寄りかかっていた。多分身体が痛いんだろう。
「頭とか、打ってない?」
「ああ。おまえは」
「大丈夫」
ナルの返答を信じて視線をはずす。空はほんのり暗くなってきた。
「ジーンにはここにいること、言ってきたのか?」
「……言ってない」
深〜いため息ひとつもらった。大分責められた気分。
「ま、まあなんとか呼ぶよ」
「どうやって?携帯電話なんて持ってないんだろう」
「そういえばナル持ってる?」
「———最悪だな、圏外だ」
携帯のあかりが、ナルの顔を照らした。やっぱりなんか、顔色が悪そう。
地下だからなのか、霊が出る前触れなのかわかんないけど、とにかく俺達は連絡手段をひとつも持っていなかった。
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マンホールの中にあるとは覚えていなかったパターンです。
落ちる事も覚えていませんでした。
Nov 2016