My wiz. 13
霊が出たらジーンが気配を察知して、あのときみたいにここに来るかな。それともあれはベースに居るって分かってたからかな。
もしくは学校全体を見た時に俺達がここにいるって分かるのかな。見るかはわからないけど。
……考えてもわからないし、ナルにそんな相談を持ちかけられるわけもなく、すぐに考えを放棄する。
「ジーンとはどこから別行動をとったんだ」
「ん?ああ……校舎ん中見てる時にふらっと出て来た」
「……勝手な行動をするな」
申し訳ございません。
正座してナルからの詰問に応じた。
あれ、そういえば落っこちた衝撃で忘れてたけど、人形探しに来たんだった。
「あかりつけられる?とりあえず向こうの方に」
「なんだ?」
「人形あるかもしれないじゃん、ここ。最初からマンホールちょっと開いてたし」
ナルは最初訝しげに俺を見たけど、おもむろに胸ポケットから携帯を出して俺が指さす方を照らす。携帯をかりて立ち上がり進むと、地面には人形がばらばら散らばっているのを見つけた。
「お、あったあった」
「……ほんとうにあったのか」
携帯と拾って来た人形をナルに渡すと、携帯の電気がふっと消えた。自動で消えたわけじゃないらしい。
「……くる」
「うげ」
俺は咄嗟に杖を出した。
ナルは立ち上がって背に庇おうとしてくれる。
またしても、ずるりと女がぶら下がって来た。口から鉈みたいなのをげろっぱしたので多少バリエーションが増えたけど相変わらず芸はない。失格、帰れ。
「エクスペクト・パトローナム」
ナルの後ろでひょいっと杖を振る。どうやらナルにもフクが見えるらしく、犬?と呟いてガン見している。
霊は容易くフクに追い払われ、フクは得意気に俺達の周りを一周した。
「なんだ、これは」
ナルと俺の足元をちょろちょろしているので、俺は手を振ってから上を指さす。
するとフクは心得たとばかりにぴょこんと跳ね、地上に向かった。
「……皆には秘密にしといて」
「今のはの、何だ?」
「えーと、守護霊」
「そう言っていたな」
ああ、呪文を聞けばそうなるわな。英語じゃなくてラテン語が近いらしいけど。さすがナル、博識ぃ。
「ナルがスプーン曲げ見せてくれたし、おあいこだね」
「……」
「リンさんとジーンにも、内緒だよ」
さもなくばお前のことも暴露すっからな、ということだ。
リンさんとジーンの場合はPKの力があることよりも、勝手に使ったことがバレたらヤバいからだけど。……あれ、なんでヤバいんだっけ?
俺は何かを忘れている気がする。
───まさかね、ナルが倒れるなんて思ってなかった。
そっか、たしかナルはPK使ったら身体に負担がかかるんだ。なんだか気になっていたのはこのことだったらしい。
倒れたナルは、ジーンとリンさんが冷静に対応して病院へ搬送した。
俺は見てただけだった。
リンさんが病院に付き添い、ジーンは残って人形を燃やす指示を出した。
ぼうぼうと燃えて行く様をぼけーっと見ていると、いつのまにか隣に人が居た。
「良かったね」
「え?」
「もう悪霊は出ないよ」
「そうだね。……ナル、大丈夫かな」
視線をあげて、煙を眺めた。
「何があったのか聞かせてくれる?」
「……マンホールに一緒に落ちた。俺が落ちそうになってたから、掴んでくれてたんだ」
「うん」
「多分悪霊に足を引っ張られてたんだけど、それはあまり問題ではなくて……はしごに足をかけ直したら崩れ落ちた」
さっきジーンはマンホールの中を覗き込んで居たから、あらかた状況はわかったはずだ。
「落ちた時、なにかなかった?」
「風が……ううん、なんでもない、なにもなかった。瓦礫が沢山落ちていたけど、俺達はその上には落ちなかったから、大した傷はできてないと思ってた」
「そうか……」
ジーンはそれきり黙った。
俺達が沈んでいたからか、ぼーさんがこっちを見て近づいて来て、俺の後頭部をぽんぽんと撫でた。
「灰は流しきりました」
「おう、んじゃ、帰るか」
ジョンがぱたぱたと駆け寄って来て、報告をしてから俺を気遣わしげに見た。もしかして俺は今みんなに心配をされているのか?そんなにしゅんとしてたかな。
「……」
「ん」
腕を引かれて、ジーンの何か言いたげな顔を見る。
もしかして、守護霊のことかな。俺もナルも知らんぷりしたし、ジーンを案内したフクは俺達と顔と合わせることなく姿を消したはずなので、『見えていない』ふりはできる。
「なーに?」
「……なんでもない」
罪悪感がちょびっとあったので微妙な顔にはなったけど、ナルのことでそういう雰囲気になっていた所為で、多分おかしなニュアンスにはならなかったと思う。
だからジーンはゆっくり首を振って、俺の手を離した。
お見舞いに行くと、ナルに犯人の予想はついていると言われた。
誰だとは教えてくれようとしなくて、ぼーさん以外は部屋を出て行けと言われたけどそんな暇もなくタカと笠井さんと産砂先生がやって来てしまい、部屋を出て行くタイミングを逃した。
笠井さんは俺とにこにこおしゃべりした内容を結構産砂先生に話していたらしい。俺は別に麻衣ちゃんよろしく、鬼火なんぞを見ていないから、危惧される謂れはなかったはずなんだけど、本当になぜ呪われたのか。
「は一度、何も起こらないのかとがっかりしたな?」
「え?」
不意に質問をなげかけられて、きょとんとした。
がっかりなんかしてないけど。あ、いや、あれか。何も無いのかも、ってぽろっとね、ついぽろっと言ったね。あれががっかりしたように見えたのかも。
笠井さんを責めたり、嘘つきと言ったつもりはなかったけど。
わかった顔をして、笠井さんを見ると視線をそらされた。
え、あの、別に笠井さんが呪ったとは思ってないから……!
「その話も、笠井さん誰かにしましたか」
「恵先生に……でも、あたしだからってのこと怒ったわけじゃ」
「うん、大丈夫」
笠井さんはナルと俺を交互に見た。
俺はあの時笠井さんにちゃんと、やっぱり何かあるのかもって結論付けたし、ちゃんと調べるから帰らないよって言ったのだ。面と向かって。
産砂先生はもしかしたら、断片的にそれを聞いて俺にさしむけたのかもしれない。
産砂先生への尋問は段々雲行きが怪しくなって行った。
「ええ……ほんのイタズラだったんです、わたしくやしくて……」
ふふっと笑った顔にぞっとした。
いや、俺も魔法界でえぐい思想や差別を見た事あるけど……久々にぞっとしちゃったよ。
ゆっくり俯くと、ジーンが慰めのつもりなのか俺の小指を握った。なに可愛い事してんだお前は……ありがとうございます。
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いつも秘密は最後の方まで秘密なんですが、今回はちょろちょろ出します。サクラGHと同じくらい小出しにしていきたいですね。
Nov 2016