I am.


My wiz. 15

バイトに行くために渋谷駅で降りた俺は、急に外国人のお兄さんに呼び止められた。
不思議と英語がわかる魔法はまだ切れてないようだ。まあ、ハリー達の手紙も全然読めたしなあ。
相手の言葉が日本語に聞こえるもんだから俺も日本語で返しているけど、傍から聞いてると英会話をしている筈。
しかし観光地までの行き方なんて知らないので、駅員のおじさんと一時的にコンビを組み、お兄さんへの道案内ミッションを終了させた。
最後にお兄さんはハグしてほっぺすりすりしてから、またいつか会おうと言って改札の向こうへ消えて行った。

「あの、ちょっと道を尋ねたいのですが」
「えっ……」
またか、と思って固まると今度は日本人の少年だった。
俺、そんなに道詳しいわけじゃないんだけどなあ。
「すみません、立て続けに」
「あ、見てた?」
「はい、だから親切な人なんだろうなって、……すみません」
もう一度少年は謝った。
「俺が分かるとは限らないけどね。どこ行きたいの」
学ランの少年が道を尋ねて来るなんて珍しいなと思いながら笑う。
この辺来たことないのかな。
地図みても分からない街、東京っていうし。
うっすら遠い目をしながら身構えていたら、なんと少年が行きたがったのはうちのオフィスのある所だった。
「歯医者さん?———じゃ、ないか」
俺の疑問に、眼鏡の奥の瞳が見開かれる。
その表情を見て、オフィスと同じ建物にある矯正歯科に用があるわけじゃないと分かった。
学ランと眼鏡と品の良い感じの、背が高い男子高校生……といったら。
「……緑陵の」
「はい」
なんだっけ、……安原さん、だ。
多分制服の端か鞄に学校名が入ってるんだろう、安原さんは言い当てられたことには驚いた様子はない。まあ緑陵って今有名だしな。
「行きたい所分かるよ、一緒に行こ」
「え、あ、ありがとうございます」
安原さんは表情を明るくしてお礼を言った。

「遅くなりまーしたー」
「遅い、お茶……?」
道案内をしていたこともあり、予定の時間より遅れてオフィスに来るとナルが開口一番に嫌味を零した。
けれど途中で俺の後ろに居た安原さんに気づいて首を傾げる。
「依頼人の安原さん。今お茶淹れまーす。安原さんコート預かるよ、どうぞ座って」
「あ、ありがとうございます。お邪魔致します……谷山さんはココの人だったんですか?」
「そうそう、バイトしてんの。偶然だね」
俺はつくなりやる事が沢山あってパタパタするので、矢継ぎ早に安原さんに指示を出す。
コートをひったくりつつソファに案内して座らせて、俺のと一緒にコートをかけてからお茶の準備をしに行く。丁度ナルが居るんだから対応してくれるだろう。



学校にはまず、ナルとジーンとぼーさんと俺で向かった。
出迎えた大人達は皆態度が悪くてうへえってした。
「ナルちゃんの毒舌がいつ飛び出すか楽しみにしてたんだけどなー」
「豚に説教しても意味がない」
安原さんは、ナルの暴言にへえと面白そうな顔をした。良い子は真似しないでくださいね。
普通の生徒たちはまだ授業中だったので、事件の話を聞くのはそれからだって時に廊下が急に騒がしくなりぼーさんが飛び出して行く。
ジーンとナルもそれに続いて走って行ったので俺と安原さんも追いかけた。
教室には黒い犬が居た。うちの神々しいのとは違うわ〜。
すぐに犬は消えたけど、反発というよりはただの横行って感じで、霊が俺達部外者に反応したというわけでも無さそうだった。あくまで俺の勘だけど。
「この学校は、危険だ」
安原さんとともに怪我をした女子生徒に付き添って保健室へ行った帰り道、ジーンが静かに言葉を吐いた。
ゆっくりと振り向いて俺を見る。
は帰った方が良い」
「何を言ってるんだお前は……」
思わず呆れた声を出す。
「だって」
「確かに俺は霊能者じゃないし、お給料につられた所もあるけど」
口ごもるジーンの背中を叩いて、歩くように促した。
目を合わせないまま言葉を続ける。
「仲間はずれにするなよ、寂しいじゃんか」
ジーンはそれきり、帰れとはいわなかった。

生徒達の話を聞いた後、安原さんの教室を見てみることになった。俺もついてってみたけど、言葉にしようがないほど臭かった。そりゃ異臭騒ぎにもなるわ。
「ここでなにか変な事をしませんでしたか?」
「変な事、ですか?」
「————降霊術のような」
ナル以外は窓ぎわに寄ってぎゅうぎゅうとくっつき外の空気を吸っていた。
両手で口と鼻を抑えているジーンをじっと見ていると、俺の視線に気づいたジーンも見返して首を傾げた。
「降霊術をすると、異臭が沸くの?」
「さあ、どうだろう」
ジーンにはぐらかされる俺をよそに、ぼーさんはヲリキリ様の紙を見て怒ってた。どうも降霊術は嫌いらしい。尻拭いするのはぼーさんたち霊能者だもんな。


ジーンはすっかり霊をうっすら見えるタイプという立ち位置に居たので、坂内くんの存在は堂々と仄めかした。
けれどそれよりも、ヲリキリ様が大流行な所為で今学校で起こってることの原因はそっちってことになってる。
あながちまちがっちゃいないが。
「ぼーさん、やめなさいって」
安原さんに除霊のやり方教えるから君がやれ、と押し付けようとしてるのでぼーさんのポニーテールを引っ張った。
「だって!」
「だってじゃないの」
「んじゃお前、松山の態度見てヤル気出るかー?」
そういう問題じゃないんだよ、と言いかけたところで安原さんがすみませんと謝った。
「松山はああいう奴なんです。生徒達もね、あいつに関しては匙を投げてるんですよ」
安原さんしれっと凄い事言ってるな。
俺はなんとなく知ってたけど、ぼーさんなんかは物腰柔らかな大人しめ好青年だと思ってたから固まってる。
「————日本中に、コックリさんをやってる学校がどれだけあると思う?」
「……ああ、なぜうちの学校に限ってこんな風になったのかってことですね」
まともな方向に勘の良い安原さんはナルの呟くような疑問に応じた。
なんの問いだよって思ってた俺とは頭の作りが違うなあ、さっすが安原さん。
「ねえねえ、コックリさんって霊呼べんの?」
「そだなー、霊能者ならねえ」
「ふうん」
「あれ、その様子だとお前さんやったことないのか?こう言っちゃなんだが、珍しい」
ホグワーツは降霊術なんて流行らなかったので、俺はコックリさんをやったことがない。一応普通の小学校も通ってたけど、その時はそんなでもなかったな。存在は知ってたけど、遠いものだったし。
「俺の周りでは流行ってなかったな。そもそも学校にはゴーストが既に居たし」
「はあ?」
ぼーさんが口をあんぐりと開けた。
「わざわざ儀式して霊を呼んでみようなんて思わないよ」
降霊術じゃなくて普通におーいって呼べば来るしな。
そういえば、うちのゴーストたちは質問には普通に答えてくれたっけ。
「どんな学校だよそりゃ」
「まあ、そういう学校もあるだろ」
ぼーさんはおでこを抑えた。
「ねえねえ、流行るってことは質問が当たるってことなの?」
「じゃないと流行らないだろうが」
「へー霊ってなんでもできんだあ」
「————仮に、おまえが霊になったとして、人の気持ちや未来が分かるようになると思うか?」
「思いませんが」
「その通りだ。だから霊が何でも知ってると思うことに、僕自身は否定的だな」
「!」
ナルと俺の会話に、ぼーさんははっとした。まあ今までそんなこと考えてなかったよね。ナルは続いて、霊が人間よりも知っていることは死と死後の世界についてだけだと思っている、とあくまで個人の意見として言った。めずらしいな、自分から意見を言うなんて。
「おりゃーいっぺんお前さんの頭ン中見てみたいよ……」
「でもさ、霊はポルターガイストを起こすよね?」
「は?」
「それは人間だった時に出来なかったことだろ?霊になって、自分自身がエネルギー的な……感情的なものに近くなって、ESPも身に付いたとかはないの?予言とか予知ってことで」
「お前の頭ン中もアレだな」
ぼーさんがきょとんとしてから、俺の頭を撫でた。


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安原さんきました。
Nov 2016

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