I am.


My wiz. 18

更衣室の火事が起こる予定の日だったけど、ジーンが放送室かもしれないと言ったことでナルはカメラをそっちに設置した。夜中には本当にそこで火事が起き、俺達は急に叩き起こされて消火活動に勤しんだ。
「ほえー本当に火事だ」
「聞いてたより派手だったな、壁が焦げる程度って言ってなかったか?」
「そのはずなんですけど……」
「パワーアップしちゃったね、これも反発なの?」
「————いや……」
隣に居たジーンに聞いてみると、一瞬だけ目を見開いてから首を振る。
「ここではそこら中に霊が彷徨っていて、喰い合ってるんだ」
「おげ……きも……」
「大きく、強くなっているものがいくつかある」
「それはどこだ?」
ジーンがゆっくりと口を開き、ナルがそれに乗じて質問を重ねる。
「印刷室とLL教室、あとは保健室と……深い所で眠っているものがひとつ」
俺はどっひゃあと目を白黒させていた。
一度ベースに戻って印をつけた後、とにかく一度寝て起きてからだなとぼーさんが言うので、俺達はベースから出ようとしていた。なんとなく考え事をしていた俺は急にぼーさんに頭をぽんぽんされて、顔を上げる。
「なに?」
「ん?いや、なんとなく。————怖いんならおじさんと同じお布団で寝るか?」
「すごく要らない……ただ、坂内くん大丈夫かなって」
「は?」
俺、怯えた顔したっけ。多分、考え事の所為だろうけど。
「だって、霊が喰い合ってるって言ってたし」
「ああ……心配だな、それは」
ぼーさんは肩をすくめて、もう一度俺の頭をぽんぽんした。


次の日は朝少し遅れて目を覚ます。すでに大半は起きて仕事をしてたけど、別に怒られる事もなく普通に雑用を言い渡されてジーンと一緒に廊下を歩いた。たしかに危険なんだろうし、こないだ俺は呪われたけどさ、そんなつきっきりで行動されたらいざ危なくなったときに守護霊出せないじゃん。いや、もう守護霊居るのバレてるから魔法の杖出しても驚かれない気もするんだけど。
「おい、どうだ除霊とやらは済んだか」
ベースに戻ろうとしていた俺達の背中に、乱雑な言葉が投げかけられる。つい足を止めてしまって後悔した。
松山が今朝あった火事について俺達に罪をなすりつけてくる。悪化してるのは俺達の所為じゃないっつうか、いや、俺達の所為だっけ??
「————幽霊だなんだと馬鹿な迷信にふりまわされるやつがどうなるか、教えてやろうか!?」
俺達がそらっとぼけて去ろうとするのを止めるように、松山は煽る。
ジーンが再び足を止めてしまい、その気配に気づいた俺も振り返る。
も〜どんだけ構ってほしいんでちゅか〜。
「うちの学校にもいたんだよ、オカルトだかにかぶれて悲惨な末路を辿った奴が!」
「……それは坂内くんのことですか?」
ジーンが小さな声で絞り出す。
松山は得意気な顔をして笑っていた。
「やつもあの世で後悔してるだろうよ!」
「……亡くなった人の事をそんな風に言うのはどうかと思います」
「ははっ、そんな風に言われたくなかったら、まともに生きるんだな」
只管悲しい顔をしているジーンの代わりに松山に苦言を呈すが、一切反省の色はない。
「坂内くんが亡くなったのは、先生はオカルトの所為だと?」
「ああそうだ、あんなものに気取られて学業を疎かにするから————」
「だから、犬のように扱った?」
「なにい?なんだその言い草は!」
あの子の遺書の文面ですけど、そう言いかけた俺の言葉を遮って、騒音と悲鳴が廊下を劈いた。

駆けつけると、この間より大きな犬が居た。ジーンが俺を背に庇い後ろに下がらせる。フクをさし向けるかと思ったけど一瞬脳裏に、あれに立ち向かってるフクが浮かび、その絵面のヤバさにちょっぴり悲観した。いや、フクは負けないけど。
杖は服の中に隠した腰にさしてあるので、それをとろうとしたところで背中がぼーさんにぶつかった。俺をサンドイッチするな!
抜け出そうともぞもぞしているうちに、犬はにたりと笑って消えて行く。
ナルは生徒が数人怪我をしているので救急車を呼ぶようにと松山に指示をしていた。

傍に居たジーンが急によろめいて、俺によりかかる。一応立ってはいるけど力はなく、片手で顔をおさえていて、その表情は茫然としていた。また、少し離れた所で真砂子まで踞ってしまい、ぼーさんとナルが様子を伺っている。
「坂内くんが、————消えた」
ジーンは俺の耳元で囁き、肩に項垂れた。
心配していたことが起きてしまった。
会った事もないけれど、胸が痛い。じゃあ、見えていたジーンや真砂子はもっと辛いんだろう。
俺の手はぎこちなく動き、ジーンのうなじに辿り着く。でも、撫でて落ち着かせてやるような余裕はなくて、俺はそのまま動けなかった。

ベースに戻った俺達の元へ、安原さんが訪ねて来た。なんと、ヲリキリ様の発生ルートについて調査してくれたらしい。もう今すぐ俺がバイトにスカウトしたい。うずうず。
ちなみにその発生ルートをたどってみた所、坂内くんかもしれない可能性が出て来たようだ。
なんにせよ、どうしてこんなに霊が呼ばれてしまったのかはわからない。
俺もなんでだろうなあと思う。一般人の降霊術も呪術も、たいてい効かないって言ってた。たとえ全校の生徒がこぞって降霊術やっても……。
「ヲリキリ様のどの部分が効果的なんだろ」
「あ?」
「大流行してたとしても、生徒の力じゃほぼ全くと言って良い程霊が降りてくることはないんでしょ?」
「だからわかんないんだろーが」
「じゃあこっくりさんに効果はないのかな」
「は?こっくりさん?」
「うん、霊を呼んで質問に答えてもらうこと事態に意味はなく、坂内くんが流行らせた可能性があって……?うん?よくわかんないな」
くんおねむ?ちょっと寝るか〜?」
「頭使うの駄目だわ俺」
う〜と頭をまぜまぜしたら、可哀相なものを見る目でぼーさんに見られた。皆して苦笑いしてる。
「あとちょっとで、思い出せそうなのになあ」
「思い出す、ですか?」
大丈夫かな……あたま、という感じに優しい目で見ていたジョンは俺の呟きにきょとんとした。
あ、思い出すって変か。
そもそも、今までなんにも考えてなかっただけで、俺この話ちゃんと知ってる筈だぞ。
「何かあるなら思い出せ」
「えー……」
ナルは俺のほわほわな記憶すら手がかりだとばかりに急かす。
「坂内くんは、松山を恨んでいた、んだっけ?」
「なに?」
ナルが眉をぴくりと動かした。
「————さっき、僕たちは松山先生に呼び止められた」
ジーンが補足するように口を開く。
あのやりとりを、口にするのは辛いだろうにジーンは松山と俺のやりとりを皆に伝えた。
「たしかに松山は、坂内に対する当たりがキツかったと、聞いています。生活指導でしたから」
「ま、あの口ぶりからして、坂内に絡んでない筈ねえわな」
安原さんの言葉をうけ、ぼーさんも腕を組みため息を吐く。
「でもそれがどうしたっていうのよ、……こういったらなんだけど、坂内くんが松山を恨んだからって、もう死んでるし……消えてしまってるんでしょ?」
つまり祟りってことはないだろうと綾子は言いたい訳だ。
「そこで坂内くんが流行らせたかもしれへん、ヲリキリ様が気になるゆうわけですやろか」
「そうそうそれそれ」
なんとなくしっくりきたので明るくにぱーっと笑った。でも皆別に笑顔じゃなかった。
なんか俺、すごい空気読めてない子だ。


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ジーンはきっと寂しい顔をするだろうなと。でも麻衣ちゃんみたいにムキになるわけでもなくて。
同じく立ち直りはやそう。麻衣ちゃんもそうだけど、忘れる訳じゃなくてくよくよしつづけることはしないタイプの。
Nov 2016

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