I am.


My wiz. 19

ヲリキリ様を調べる傍らでデータ収集は行うらしく、俺とジーンはその日の夜もペアを組んでカメラの調整に向かっていた。
俺がした質問の答えはまだ貰っていないままだったけど、二人きりになっても話がぶり返されることはなく、ちょっとだけほっとしている。

「なに?今の音」
「いこう!」
廊下を歩いていた俺達は、ものすごい音を聞いて足を止める。
足元が揺れて学校全体に響き渡ったんじゃないかってくらい大きな音だった。
ジーンと俺は迷いなく保健室へ向かいドアを開ける。中に入るのかと思っていた俺は、急にドアを開けて立ち止まったジーンにぶつかり、おっこちた。
「わ、ちょ、止まっ」
「あれええ!?」
めっちゃごめん。
二人とも足からついたけど、意外にも深かったので着地の際にちょっと膝もついた。痛い。
「————今の音はなんだ!?」
音を聞きつけたナルも廊下にやってきて、立ち止まる。
くそ、二人揃って良い反射神経ですね!いや俺の場合は中が見えなかったんだからしょうがないっていうか。
「……、とにかく早く出るんだ、
「上がれるか?」
「おす」
ジーンが一帯を見回してから、俺の背中を押してせかした。ナルがしゃがんで俺達の様子を見ていたので、よいしょと両腕を外に出して足をあげようとする。
その時聞こえた、みし、っという嫌な音。
ぴきんぴきんというのは、別に俺の運動不足気味の筋肉ではない……。天井を三人して見上げた。
て、天井落ちてくるやつ……。
俺は咄嗟に廊下のへりから離れて杖を出す。
プロテゴは対象にかけるのがより効果的であって、全員にかける暇はない。
降りて来たナルとジーンに飛びかかられながら天井に魔法をかけた。
「アレスト・モメンタム」
今にも降り注いでこようとする天井板や砂や蛍光灯が、空中でふっと止まった。
が、俺とナルとジーンの動きは止まってないので床に押し倒されてケツと背中をしこたま打ち付けた。
「なん、……だ?」
「止まっている?」
「って〜……ほら、今のうちに上がろーぜ」
きょとんとした二人をよそに廊下へ上がる。
三人とも無事逃げ果せた所で、遠くから綾子が走ってくるのが見えた。
「ちょっと、さっきの音なにー!?」
「フィニート」
二人は綾子の方を見たけど、俺は保健室の魔法を解く。どっしゃあと天井が落ちて行くので風圧と若干の破片がぶわっと押し寄せて来た。
生温くほこりくさい風を浴びながら、目を瞑り口をきゅっと閉める。
だって、ほこりが目に入ったら大変だし。
「は、はああ!?」
綾子は更なる音に驚きの声を上げている。あの様子じゃ俺が何をしたのかは見えてなさそうだけど。


一同が駆けつけて、床と天井が落ちてしまった保健室を見て愕然とした。
「あんたたち、怪我はないの?」
「落っこちはしたんだけど、上がれたから問題ないよ。ジーンごめんね」
「いいよ……」
苦笑しつつもなにか言いたげなジーン。
皆して惨状を見てとんでもないじゃんか、と茫然としているのをよそに俺は次にナルの方を向く。
「!?」
俺の視線に気づいたナルは何だと言いたげな顔をしたけど、急に俺に両頬を挟まれて目をまんまるにして、それから不機嫌そうに顔をしかめる。
ナルの後ろで皆がびっくりした顔で固まった。
普段なら怒られるだろうし反応が怖いのでしないが、文句が出て来る前に俺が文句を言うつもりだ。
「何で降りて来たんだ、馬鹿。巻き込まれるかもしれなかったろ?」
「……」
むっすーとしたって可愛くないからな。
睨みが通用しないとわかったナルは視線を落としてため息まで零す。え、俺が叱ってる方だよね?
「……落ちて来ても、天井の板なんてさほど重くはないだろう」
「ならほっとけばいいじゃん。女の子ならまだしも、俺みたいなの心配しなくたっていいから」
ほっぺをもにもにしてみたいんだけど、駄目かな。駄目だろうなあ。
ゆっくり手をゆるめて、頬から米神の方に流す。
「でもありがと、助けようとしてくれて」
「……どういたしまして」
俺が少し触れて崩した髪の毛を整えながら、少し距離をとった。
皆はほんのり優しい目でナルの背中を眺めている。
「————孵化、したんだ」
「え?」
調査の件に話を戻されたのは、ジーンのそんな言葉からだ。
「ひとつ大きなものがあるといったろう?あれが力を蓄え終わった。……もう誰にも止められない」
静かな声が俺の脳裏にこびりついた。
いつまでも余韻を持ってそこに居る。

その日の夜番は俺とリンさん。本来俺なんかいたって役には立たないんだが、何かをしなければならないときの連絡役としては一応必要な訳で、俺は書類整理などの仕事を探しながらちまちま時間をつぶしていた。
「リンさんコーヒー飲む?」
「私は結構です」
一応返事はしてくれるけど、俺が飲物を入れるかって聞いて頷いてくれた事なんて一回もない。まあ良いんだけどさ。でも一人だけ何も言わずに飲物を入れるのって変だし。いや、絶対に入れてって言わないから、いい加減俺も諦めろって話だよな。
コーヒーをちみちみ飲みながら、暗視カメラからくる映像を眺めてみた。何にもないや。
調査がいまいち進んだ気がしないなあ。ジーンは色々と情報を仕入れて来るけど、坂内くんは消えてしまったし、ジーンがコンタクトをとったとしても、松山のことは何も言わなかったんだろうなあ。
だって呪いを止められたら困るしな。いや、もう止められないって、ジーン言ってたけど。……ん?それって呪いのことって意味だったのかな。
ヲリキリ様に関して、誰もちゃんと実物を見てない。
「あ……」
急に思い至って、コーヒーカップを置いた。
「リンさんってヲリキリ様の紙見た?」
「見ていませんが」
「俺もなんだ。だからちゃんと見たくって」
リンさんは立ち上がる俺を怪訝そうに見上げた。
そんな彼をよそに、学校周辺の地図を確認してとあるマークを探す。リンさんがどうかしたのかと立ち上がり覗き込んで来た。
鳥居のマークのついた所を見つけて指を止めると、リンさんは少しだけ息を飲んだ。
「……神社に何か?」
「ヲリキリ様は紙を神社に埋めに行くらしいんだ。だから多分ここに行けばあると思う。今から行って来るけど……一緒に行く?」
もちろんここの見張りをしているための夜番なんだから、行くとは言わないだろうと思ってた。それに、校舎内を歩き回るわけじゃないんだから、神社と聞けばお好きにどうぞと言える。
「少し気になることがあるので、私も行きます」
「そう?心強いや」
学校から少しのところにある神社は、そんなに大きくもない、稲荷がある神社だった。
リンさんが懐中電灯で照らしてくれるので、俺は神社の軒下に潜り込む。
ちょっと煤まみれになってるであろう俺はなんとか一枚のヲリキリ様の紙を持って出て来た。
リンさんは懐中電灯でそこを照らしながら俺と一緒になって見ている。
「これは————」
、リン!」
「え?」
不意に後ろから声をかけられて振り向くと、ジーンとナルが駆け寄って来る所だった。え、なんでここにいんの。
リンさんもまあ良いだろうって言ったから、俺は皆に声をかけないで来たけど。
「やっぱりここにいた」
「へ?」
「ううん、何か見つけたんだね」
ちょっと息を切らしたジーンはほっと笑う。
「ナル、これを……」
「これは、ヲリキリ様の紙か」
「違いありませんか?」
「一度見ただけだが」
リンさんに紙を見せられ、ナルはあまり自信は無いけどと前置きしてからヲリキリ様の紙だと肯定した。


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びゅーんひょい、しました。
Nov 2016

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