I am.


My wiz. 21

緑陵高校の調査が終わってすぐ、テストが控えていたので俺はバイトを休むことになっていた。
解散の時にテスト開けにきまーすとかいって去って行ったはず。
一週間のテスト期間が終わった次の日は土曜日だったので、いつも通りオフィスに顔を出した。
驚いた事に……というか忘れてたんだけど安原さんも呼んでの慰労会なるものが開かれていて、出迎えられた時にちょっと固まった。
「あ、ぼーさんが呼んだのか」
「はい」
ぼーさん達は結構気軽に依頼人に連絡先を教えて行く。現象が再発しないとも限らないからだそうだ。
依頼者は学校だし、安原さんはもう卒業をしてしまったけど。
どっちにしろ安原さんは今後手を借りる事になるんだろうし、連絡先の交換をしていても何も不思議には思わない。
「本当は谷山さんに連絡先聞こうと思ってたんですけど、機会がなくて」
「ありゃりゃ、そうだったの。オフィスの電話番号はねえ」
「いえ、谷山さん本人の」
「俺の?えーと……」
調査後ワイワイガヤガヤしながら学校を出たことを思い出した。
結局ぼーさんと連絡をとれてるならいいのでは?
頬をぽりぽり掻いてると、なんだか周囲の連中も俺達の事を凝視していた。そういえば誰も連絡先交換してないっけ。
「電話持ってないんだ、ごめんね」
「あ、そう……なんですか」
安原さんが驚いた顔をしてから、すぐに苦笑する。今時持ってない奴居るんだって思うよね、そうだよね。
やだな、なんか妙な雰囲気になったな。
湯浅のときも、笠井さんとタカもこんなかんじに……そろそろ携帯買うべき?
「携帯電話って、どうやって買ったらいいんだろう?」
「は?」
うーん、と唸りながら言うとぼーさんがぐるんとこっちを向いた。何を言ってるんだチミはってか。俺だって純粋にわかんない訳じゃないんだ。今の俺は未成年で、しかも保護者がいない。同意書は誰に書いてもらったらいいんだろう。
「マジで持ってねえの?」
「なんで嘘だと思……えええ!?まさか、俺が嘘ついて、連絡先教えたくないって言ってるんだと思ってた!?」
ぼーさんが恐る恐る聞いて来るので呆れて答えてたけど、安原さんの微妙な顔を思い出し、座っていたソファから腰を上げる。
ひょえええ、そんな見え見えな嘘で断るなんて俺には出来ない。
「ジーンくん言ってやって!」
は本当に電話を持ってないんだ」
雇い主兼、嘘をつかない人の言葉に、一同ようやく納得の顔色を見せた。
待ってよ俺ってそんなに冷たい奴?ぼーさん酷い。
反対隣に居たジョンの肩におでこをぶつけて、えーんと泣きまねをする。
「……俺、そんな嫌な奴に見えてたの?」
「そ、そんなことありませんです!」
口元を抑えて震えていると、ジョンが慌てて慰めてくれた。
ジョンとジーン以外目をそらしやがって。
みんな俺に連絡先を聞いて来なかったのは、いつでもここで会えるからだと思ってたんだけど、もしかして俺は冷たい奴だとか思われていたのかな。
「安原さん、携帯買ったら連絡するから電話番号教えて」
「あ、はい」
ほっとしたように笑う安原さんは、俺が差し出したメモ帳を手にボールペンをノックした。

「そういえばあんた、何持って来たの?差し入れ?」
一段落ついた所で、俺の手荷物に気がついた綾子がそれを指さした。
「そうそう、皆が来るって知らなかったから二人分しかないんだけど」
どうせナルとリンさんは食べないし、もともとジーンとした俺の一方的な約束だった。
イギリスで食べたカップケーキと似てるなあと思って、今日くる前に買って来たのだ。もう俺の力はほぼバレてるし、今日顔を合わせた時に話すつもりだったし。
「僕?」
「うん、うち帰って二つ食べても良いよ」
「俺達の事は気にせず二人で食えよ」
まだほんのり温かい紙袋の底を持ったジーンは中を覗き込み、固まる。
その隙にぼーさんがしっしっと手を振るので、悪いねえと笑った。
「マイ……?」
「ああ、なんだ名前まで覚えてたのか」
ん、いやそうか、名前も覚えてたから俺の名前を確認したのか。苗字は知らなかっただろうけど。
「本当に、君がマイ?本当に?」
「どんだけ疑ってんだよ……似てるって思ったんじゃないのかよ」
いろんな角度から俺を見て来るジーンにちょっと呆れる。皆は何の話をしてるんだって顔でこっちを見ていた。
「だって、マイは女の子だったじゃないか……」
「あ、そういえばそうだったね」
「……本人?」
「うん」
俺はあの頃まだ女の子の格好をしていた。だからジーンは俺の事を見て、似てるけど本人ではないと思って確認したのだろう。身内かと思った、っていってたのは女の子だと信じていた証拠だ。
「名前はね、女の子みたいだから変えたの。格好はお母さんの趣味」
絶句してるジーンにえへっと笑って説明する。
「なに、あんた改名したわけ?」
綾子がようやく話の内容が分かるようになったと口を挟む。俺はそうだよーと笑いながらジーンから離れて、皆をソファに座らせた。慰労会始めちゃおう、うん。
「女の子の名前付けられちゃってさ、格好もそうさせられてたわけ」
「へえ、写真とかないの?」
「んー……動いてない写真が無いなあ」
「動いてないって、お前どんだけ落ち着きない子供だったんだ」
あっはっはっは、と笑いとばして誤摩化す。
ホグワーツ入学前の写真なら探せばあるかな。入学後の写真は、動いてる写真になっちゃう。
「今はやらないんですか?」
笑い話にしてたから、安原さんがしれっとぶっ込んで来る。……まだ成長期来てないから違和感ないだろうけどさあ。
「お母さんいないからもうやんないよ」
「……もしかして、亡くなってはるんですか?」
「そお、俺お父さんもお母さんも、もういないの」
「どちらも……?」
ジョンにつづいて、真砂子が目を丸めた。綾子とぼーさんと安原さんも、言葉につまるように息を飲む。
「うん。だから携帯電話ってどうやって買うんだろうなあって思ってたんだよね」
「なるほど、そう言う事だったわけね……でもあんた、今どうやって暮らしてるのよ」
「おじさんやおばさんは?」
「いないよ、本当にひとり。前の学校は寮制だったけど、こっちでは学校が紹介してくれたアパート。家賃免除だぜ」
まあ心配するな、と言い聞かせているとぼーさんからハグを頂いた。あったかーい。


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なんというか、閑話のようなもの。カップケーキもってくるならここしかないなって。
Feb 2017

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